「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0296

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 そのいくつかはつくしにも十分思い当たるし、自分自身も患者としてだけでなく、カウンセリングの講義などで受けた事柄だ。
 しかし、
 「セックス依存性だなんて、あたしはっ!」
とんでもない言いがかりだ。
 むしろ自分の場合は、そうした当たり前の行為さえもこなすことができなくなってきているというのに。
 さすがにいくらほとんどのことを話している女友達だとは言え、そこまで赤裸々に告白することができずに口ごもる。
 ゆったりと視線を左右に走らせ、口元へと人差し指をあてた桜子の仕草に、つくしも沸騰しかけた頭を一気に冷却させた。
 「そう…言うのは、ないから。隼斗さんだけだし…」
 それでも言わずにはいられずに声を潜めて、だが、性格的にサラリと言い切ることができず、途切れ途切れに言葉を続ける。
 「セックスだけが依存だとは言いませんよ。もちろん、先輩がそうしたタイプの依存性だと言ったつもりもありませんしね。でも、自己の価値を一度見失った人間が、自分を取り戻す、自分に対する価値を見出し回復する為に他者の依存を必要とするというのは珍しくない話だと思います。相互依存とでもいうべきでしょうか。自分の力だけでは難しい事柄ですから。…誰かに必要とされたい、大事だと、自分が大切にされてしかるべき存在だと認めて欲しい、言って欲しい」
 「……………」 
 「普通は男性にそれを求めるのが一般的だとは思いますが、こういうことに定形というものはないですからねぇ。先輩の場合は、陽太君にそれを求めているように思えます」
 「……………ハァ」
 そこまで見透かされてしまうと、つくしにもなんとも反論しようがなかった。
 「あんたの方が、よほどカウンセラーみたい」
 「あたってます?」
 「……わからない」
 自分が陽太を必要としていて、その陽太を通して、隼斗に惹かれた自覚もある。
 だが、それだけではない。
 「でも隼斗さんのことも、ちゃんと好きなんだよ」
 隼斗の生真面目さが好きだった、陽太に向ける彼の真摯な愛情や優しさに惹かれた。 
 ―――つくしの両親もかつてはそうだったのだ。
 我が子を慈しみ、つくしや進のことを第一に考え、大切にしてくれていた。
 けれど、桁違いの権力や金の力に目を眩ませてしまった。
 たとえそれもまた愛情だったのだとしても、今のつくしにはまだ彼らを赦すつもりにはなれない。
 『……あんたが不甲斐ないからっ。あれほどあんたに執着してらした道明寺様があんたを見限って他の女に走るだなんて!あんたがグダグダと昔のことになんかこだわって、ちゃんとあの方の意を汲んで差し上げなかったからでしょっ!?』
 千恵子の叫びが、つくしを傷つけた。
 『まあまあ、ママ。つくしの気持ちも慮ってやらなきゃ。幸いつくしには莫大な慰謝料も持たせてくださっていることだし、私たちのことに関しても、つくしと離婚したからといって、戒の祖父母には違いないんだからと気遣ってくださったじゃないか。いやあ、本当にあの方は器が大きな方だよ』
 晴男の能天気なセリフが、つくしの中に僅かに残っていた彼らへの思慕と信頼を粉々に壊してしまった。
 「あたしのこともとても大事にしてくれてるし、安心をくれる人なの」
 「……じゃあ、浮気のことは」
 「そういうこともないと思う。そんなことをして、あたしや陽ちゃんを悲しませたり、苦しめたりできるような人じゃないよ」
 「はぁ~~~」
 今度の桜子の溜息は、呆れと苦々しいものを含んで長く大きく、―――深かった。
 「そういう盲目的な信頼や信用が、世の多くの男性たちを図に乗らせてしまう原因の1つの気もするんですが…先輩のそういった純真さというか、バカみたいにお人好しなところは私も嫌いじゃありませんしねぇ」
 不本意そうな桜子の物言いがなんだかおかしい。
 「褒められてる気が全然しないんですけど?」
 「おや、そうですか?…もし良かったらですけど、ご主人の動向については私がしかるべき調査会社を使ってお調べすることもできますよ?」
 「いやいやいやいや」
 自分としては、ちょっとした世間話、あるいは互いの近況のついでにあたりさわりのない範囲の身の上話?をしたつもりだったのだ。
 「だから、いいって。ちょっと、聞いてよ~っていう程度の話のつもりで、全然そんなつもりじゃなかったんだからさ」
 「そうですか?」
 うんうんと首を縦に振って、桜子の厚意を遠慮する。
 「まあ、私も無理に、とまでは言いませんけど。顔色もあまり良くないようですし、よほどお悩みなのかと思ってしまいましたよ」
 「ああ…それはね」
 ふいに少し前に出くわした珍事を思い出す。
 意外な人物との再会に動揺してしまったからだ。
 会いたくなかった…それもちょっと違う。
 もちろん、会いたかったわけもない。
 正直なところ、まったく思い出しもしなかったというのが本当で、静には彼女に付帯する男たちの存在が常にチラついていて、つくしにとってそれが心の負担だった。
 静と顔を合わせた瞬間、彼女の影にいる人物―――類の存在が突如として濃厚に脳裏に迫った。
 …もう関係ない。
 たとえそうではなかったにしても、すでに十数年も昔のこと。
 青い初恋…子供の麻疹のような少女時代の勘違いに過ぎない。
 司とのことがなければ、きっと大人になってそんなこともあったと、時々思い出しては淡い思い出に浸る、その程度のことだったのだ。 
 「お仕事がそんなにお忙しいんですか?」
 「え?」
 「ソーシャルワーカーのお仕事ですよ」
 「ああ、いや…そうだね」
 暇だとは言い難い。
 「でも、その分やりがいもあるし。こっちに来て、まさかこれほどの好条件で再就職出来ると思っていなかったから、それだけ頑張っちゃってるってところはあるのかもしれないけど、すごくありがたい」
 「………好条件ね」
 「前の職場の時もそうだったけど、あたしってかなり強運っていうか、運がいいのかもねぇ」
 そんなふうに冗談も言ってみせる。
 それを言ってしまえば、英徳時代、あれほど忌避していた司とひょんなことで関わり合うことになってしまったことこそが、最大にして唯一の不運だったのだ。
 「前の病院に勤めていなければ隼斗さんや陽ちゃんと出会うこともなかったし、そうしたら、ここに来ることもなかったんだよねぇ、そういえば」
 運命の数奇を思う。
 隼斗との結婚が決まってまもなく、彼の仕事の都合と…そして、陽太の病気に関して日本国内でも有数の名医がこの地にいるということで、東京を離れた。
 それについては後悔はない。
 つくしにしても、東京はあまりに辛い思い出が多すぎた。
 それに…、
 …その方がきっと戒の為にも良かった。
 偶然、病院で出くわした浅井百合子の嘲りに満ちた顔が忘れられない。 
 …まさか、翔君のママがあの浅井だったなんて。
 姓が変わり、容貌が変わり、阿る態度まであまりに変わっていたから気が付くことができなかった。
 もちろん、そうそう顔を合わせる機会がなかったことや、周囲をよく観察する心の余裕がつくしになかったこともある。
 また戒の同級生の母親としての浅井百合子自身が、ちょうどつくしが記憶を取り戻した時期に前後して第3子を妊娠し、ほとんど幼稚舎に顔を見せることがなくなっていたからよけいだっただろう。
 東京都内にいては、つくしの影はどうしても戒に付きまとってしまっていたに違いない。
 浅井や他の英徳出身者たちがつくしをあからさまに侮蔑しなかったのは、道明寺家の威光があったからこそのこと。
 そして、その威光を失った後は、かつてのつくしに対する軽侮よりもさらなる蔑視と排斥が彼らの中に生まれた。
 身の程知らずにも彼らの頂点に立つ男の隣という地位を占めていた女への羨望と嫉妬が、憎悪に変わったのだ。
 …あたしの存在は戒には迷惑なんだ。
 それだけは司の言うとおりだった。
 つくしの存在はけっして戒のためにならない。
 彼女が蔑まれたように、戒もまた蔑まれる存在へと貶められることだけは耐えられなかった。
 「じゃあ、やはりどこか体調が?もしかして、先輩、…おめでたなんじゃ?」




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