「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0294

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 「あら、牧野さん、これからお昼?」
 「いえ、実は今日これから人と会う約束があって早退するところなんです」
 「牧野さん、今度コレ」
 「はははは…、井口さんは終電までの人って聞いてるからなぁ」
 「そんなこと言って、いつも二次会にも出ないで先に帰っちゃうじゃない」
 「あ!先日は―――」
 「…あ、どうも、こんにちは。その後、いかがですか?」
 等々、看護師や事務方などの病院関係者や以前に受け持った患者など、幾人かの顔見知りに声をかけられ挨拶を交わしながら、院内処方で出してもらった陽太の薬を手に、薬局から職員出口に向かう途中、人でごった返すメインエントランスを通りかかる。
 そんな中で彼女に気がついたのは、ホンの偶然。
 すれ違った患者たちの列の向こう側、会計カウンターに立つ女性の後ろ姿に見覚えがある気がして、思わず立ち止まった。
 ジッと女性の様子を見守る視線の先、ふいに女性が横を向き、緩やかなウェーブを描く長い髪をかきあげる横顔の美貌に、つくしが目を見開く。
 …まさか。
 まさか、彼女がこんなところにいるはずがない。
 いやたとえ病院という場所柄、いることがありえたにしても、日本にさえいないはずなのに。
 だから、会計係に向かい合っていた相手が、つくしの視線に気がついて、サングラス越しにこちらを見返した時にもまだ半信半疑だった。
 怪訝そうに首を傾げていた女性もやがて、つくしに気がついたのだろう。
 「牧野さん?」
 驚いたように小さく呟き、美しい顔ばせからサングラスを外してこちらを見直す。
 それは、十数年ぶりに相見える藤堂静―――つくしの初恋の男性・花沢類が愛していた女だった。
 「……静さん」




*****




 久しぶりに仕事以外の理由で外出した街は、いつの間にかクリスマス仕様。
 そこかしこの店先やショーウィンドー、街路は赤と緑のツートンカラーに染め替えられ、クリスマスツリーやオーナメントが飾られていた。
 いやがおうでもウキウキとした気分で浮き足立ってくる。
 待ち合わせをしている目的の店を探して車を徐行させる道すがら、つくしは目に入ってくる親子連れの楽しそうな様子に目を細め、そろそろ陽太の誕生日の計画を立てなければと口元を綻ばせた。
 つくしも師走の12月28日という大概忙しない日の生まれだったが、陽太はさらにその2日後、年も明けようという日の生まれだ。
 去年のその頃はといえば、陽太は体調を崩して入院していた。
 クリスマス会にこの誕生日会を兼ね、できたばかりの友達を招いてパーティを開く予定だったから、陽太の意気消沈ぶりは激しく、つくしもどう慰めたものかと頭を悩ませたものだ。
 『…今年は、俺にもお母さんができたから、それでいいんだ。一番のプレゼントをもらったんだもん。俺は平気』
 たった8才の子供のそんな気遣いの言葉に感動した。
 あの頃は、新しくできたばかりの家族を大事にしよう、隼斗を立てて支えて、陽太を守るんだという意気込みばかりが先立っていた様にも思う。
 「早いなあ、もう結婚して一年以上経ったんだなぁ」
 思えば、隼斗との縁を結んでくれたのも陽太で、出会った頃の隼斗は病院でよく見かける患者の一人という認識にすぎなかった。
 当然、記憶にも残らない程度の接触で、つくしが初めて彼に気がついたのも本当の偶然だったのだ。
 時々、本当に時々だが、誰かに見られている気がする。
 後をつけられている気がする。
 そんな被害妄想に襲われることがある。
 人がたくさんいる雑多な場所や、賑わいの中では大丈夫なのだが、ふいに人の切れた時間帯や人気のない廊下など、一度そんな強迫観念に襲われるとそれだけでダメだった。
 つくしが当時勤めていた病院も、かなり大きな病院だったけれど、看護師や医師とは異なり、患者たちで賑わう時間帯の就労で、エントランスにほど近い場所に相談室を構えていたから、そうそうそうしたトラウマに出くわすことはなかった。
 しかし、それでも逢魔時が存在しないわけではなかった。
 なんの拍子だったのか、たまたま人が他にいない状態で、薬剤部を通り抜け駐車場に向かう途中、ふいに背後を歩いている人物に気がつき、それがひどく怖くなったことがある。
 それが隼斗だった。
 …誰かが後ろをついてきている。
 もちろんそれは気のせいで、早くなる動悸と呼吸困難、発汗に耐え切れず、トイレに入るフリで背後の人物が通り過ぎるのを待った。
 今思えばそれが本当に危険な人物であったなら、無人のトイレに引きこもる方がよほど危険だったが、そんな冷静な判断力など、その時のつくしにはとても発揮する余裕がなかったのだ。
 そして当然、その時は何事もなく通り過ぎられて、そっと覗いた横顔はつくしを気にすることもなく去って行ってしまった。
 それがきっかけでなんとなく隼斗の顔を憶えてしまい、病院の患者にしては頻繁に病院に出入りしていることが不審で、それなら何者なのかと気にするようになったのだ。
 やがて、顔馴染みの看護師からどうも売り込みに来ている製薬会社の営業マンだと知った。
 実際に医局の幹部医師の一人と懇意にしていたらしい。
 「陽ちゃんが、交通事故でうちの病院に搬送されることがなかったら、それで終わってたなぁ」
 運命の数奇を思う。
 偶然に偶然が重なって陽太と親しくなり、やがて隼斗と個人的な会話を交わすことになって、ソーシャルワーカーとして相談に乗るうちに親子二人と個人的にも親しくなっていった。
 たぶん、初めは陽太に戒を重ねるところがあっただろう。
 年齢以外にはなんら重なるところがなく、また物心つく前に母を亡くしていた陽太とは事情が違ったが、母がいないという一点において陽太との付き合いは戒を偲ばせた。
 母への憧れや思いを語る陽太に尽くすことが、結果的に置き捨てることになってしまった戒に注ぐべき母性と罪悪感への代償行為になっていたのかもしれない。
 陽太が亡くなった実母を偲ぶたび、つくしに甘えるたび、戒によく似た子供を見かけるたび、心に思い浮かぶ想いがある。
 …他にもなにか方法があったんじゃないか。
なんて。
 そして、そんな想いとは裏腹に、心に押し込め見ないようにしていた一つの真実。
 もしかして自分は、司を恨み憎んでいたように、戒を彼の分身として疎んじていたのではないか、と。
 つくしを無邪気に慕う我が子の微笑みを愛しいと思うその裏側で、司によく似たその顔を…。
 プップッ―――ッ!!
 背後から鳴らされたクラクションの音に、ハッとつくしは我に返る。
 「あ、いけない」
 いつの間にか、信号機は青に変わっていた。
 慌てて周囲を確認して、車を発進させる。
 …そんなはずない。だって、戒はあたしの子なんだ。
 しかし、戒を生んだ記憶などなく、そして自分の子であると同時に、戒は司の子でもあるのだ。
 愛していない男の子。
 それどこかどれだけ恨んだだろう男。
 その憎んでいた男との間に生まれた我が子。
 つくしは何度も何度も自分に言い聞かせる。
 ―――戒にはなんの罪もないのだ。
 彼を憎み疎んじることこそ、罪なのだと。
 自分の中からひょっこりと顔を覗かせた闇の深淵は、どこまでも深く昏く…つくしはまるで道に迷う子供のようにただ惑っていた。




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>サクラ様

さ、さすがです、冴えまくりですw
あまりにドンピシャな予測に、思わず出てきてしまいました。


あらためて、こんにちは^^
またもコメント返信が滞ってしまい、すみませんm_ _m

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