「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0292

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 「…あ」
 内心で小さくホッと息をつく。
 隼斗にはある程度、前の結婚や過去の事情は話してある。
 若い頃、性犯罪にあってPTSD(※1)を抱えていること。
 そうしたことが原因で記憶喪失になった経験があり、だいぶ認識的には違和感を埋められてきてはいるが、実際の年齢との齟齬があり、いまだに記憶の一部がないままであること。
 やや男性不信気味であること―――今となっては『やや』というにはあまりに控えめな表現だったけれど、当時は自分がそんなに深刻な障害を抱えている自覚がつくし自身にもなかったのだ。
 そして、一度結婚の経験があって子供が一人いるが、離婚の取り決めで婚家に残してきたその子供とは会うことができず、またその際の事情に関係して実家の両親とも絶縁状態であることを。
 しかし、それらすべて、かなりデフォルメを加えた真実とは程遠いもので、過去を振り返ることは今のつくしにとっても心理抵抗が激しく強く、誰に対してであっても、とてもではないがそのすべてを話せるものではなかった。
 …大体、何をどう話せるというの。
 まさか自分のように平凡な女が、誰もが知っているような大財閥の御曹司に見初められて略取(※2)されたあげく、騙されて妻とされたまま意に反した10年間の結婚生活を過ごしたことを、誰が信じてくれるというのだ。
 それだけではなく、その夫をハメる形で自由を得たなどと、当然話せるはずもない。
 たとえ話したとしても、いったいどれだけ誇大妄想狂なのかと、むしろそちらの方で正気を疑われるのがオチだろう。
 隼斗を信用していないとか、しているとかそういうことだけの問題ではなかった。
 …あたしでさえ、自分にあったことなのに、今となってはただの悪夢や酷い妄想だったんじゃないかとか思うものね。
 それでも、いつか、…本当にいつか、すべてを話せる日が来るのかもしれなかったが、今はまだ。
 「なんか、色々と個人的事情を話したりするって、敷居が高いっていうか、ね」
 「君が言うのもなんだか、アレだと思うけど」
 職種的には混同されてしまいがちだし、実際に被っている部分もないわけではないが、カウンセラーとソーシャルワーカーでは、資格取得の違いだけではない大きな違いがある。
 カウンセラーが心の問題に対して解決、あるいは克服していくヒントを導き出す役目であるのに対して、ソーシャルワーカーは、介護の不安や医療費が払えない等具体的問題を解決する為の情報を提供し、相応しい機関や人物を紹介するための仕事なのだ。
 まだしも、ケアマネジャー(介護支援専門員)に近しい職種と言えるかもしれない。
 そうは言っても、つくしもまた、一時期、心理カウンセラーを志したこともあったのだが…。
 …あたしにはとてもできなかった。
 「信用できない…とまでは言わないけど、あたしの気持ちだけの問題じゃない事情が、あたしの場合あるし」
 「……前の婚家が醜聞とか困るけっこうなお家柄だったって言ったって、もう離婚した君が気にしてやる筋合いもないだろ?相手にとったって、離婚して家から出した元妻の言うことなんて気にしやしないさ。どちらにせよ、君が何をしたって、関係ない話だと思うけど?」
 「それはそうかもしれないけど…」
 「DV(※3)でも受けてて、それが原因でPTSDになったって言うんなら、話は別かもしれないどさ」
 「……まあ」
 何をどう説明すればいいのか、全てを隼斗に話していないだけに言葉に詰まってしまう。
 「でも、息子のことがあるし」
 「……………」
 「迷惑かけたくないの」
 こんなことを自分が言うことになるなんて、夢にも思いもしなかったが、道明寺家の不利益は戒の不利益と同意なのだ。
 「こういうのって放置していても治る問題じゃないんだろ?」
 「あたしの場合は、日常生活に支障をきたすほど、重症ってわけじゃないんだから平気」
 ただちょっと、時々フラッシュバック的に悪夢を見たり、過去を思わせる場面に出くわすと平静でいられなる、それくらいのことくらいで…。
 「普通?の人とは真逆に、人ごみとかも全然大丈夫だしね」
 むしろ、閑散とした場所で背後から人がついてくるような状況―――放課後の校舎を思わせるシチュエーションの方が怖かったが、つくしが勤務しているような時間帯の病院でそうした状況はまずはなかったし、通勤にも車を使っていたから、これまでそうしたことで困る場面はなかった。
 
 後はせいぜい―――。
 「ハァ…君がそう言うのなら仕方がないけどな。意地っ張りや痩せ我慢は美徳じゃないぞ?」
 困った顔で微苦笑しつつ、そんな風に受け止めてくれる隼斗の優しさに慰められる。

 けっして隼斗は何かをつくしに強要したりしない。
 自分の意は意として、彼女の意思を尊重して任せてくれる。
 それがたとえ、つくしにとってあきらかに良くないことであったとしても、一人の人間としての自我を許されることが、この上なく貴重なことのように思えるのだ。
 「…どうしても、困ったこととか無理そうなことがあったら、隼斗さんに相談するから」
 「そうだな。…こう見ても俺もかなり顔が広い方だし、その気なら、そうした患者のプライバシーの守秘義務に特に配慮したカウンセラーを探すこともできると思うから言えよ?」
 「ありがと」
 自然、つくしの顔も柔らかく綻ぶ。
 それに一つ頷いて、隼斗が部屋の電気を消すためにリモコンへと手を伸ばすのを横目に、つくしも陽太の横に敷いた布団へと横になる。
 「じゃあ今度こそ、おやすみなさい」
 「…ああ」
 パチリと電気が消されて、周囲が夜の闇に閉ざされる。
 …ほら、暗くても大丈夫。
 よく暗闇がダメだというレイプ被害者やPTSD患者のことも聞くが、つくしは暗闇に関してはそれほど脅威ではなかった。
 それはもしかしたら、夕暮れ時の校舎という相手の姿も正体も分かりすぎるほどにわかった状況で起こった出来事が原因だったからかもしれないし、あるいは彼女の心の闇の大半はそのたった一回の出来事よりも、さらにその後の期間の方がより酷いダメージを与えたからだったかもしれない。
 それでも悪夢を見た真夜中、子供のように暗闇を恐れることがなかったわけではなかった。
 しかし、そうした時、身近にある小さな温もりへと手を伸ばすことで救われてきたのだ。
 …道明寺の屋敷にいた時には、そんなことほとんどなかったのに。
 症状が出始めたのは、屋敷を出て一ヶ月ほど経った頃からだろうか。
 一人の生活にも慣れ、自由になれたのだと―――もう二度と司が目の前に現れ、拘束されることはないのだと実感するようになった頃からだった。
 とにかく、一人でいることが怖かった。 
 狭い…道明寺邸に比べればはるかに狭いマンションの一室だというのに、そこかしこに司が―――過去の高校時代の彼がいて、今にも飛び出してきて、自分を再び支配下に置いて苛むのではないないか、あるいは今現在の状況の方こそが夢で、いまだ悪夢の中に囚われているのではないかという妄想に苛まれるようになったのだ。
 もしかしたらそうしたトラウマが、より陽太への執着や周囲が驚くほどに早い再婚へと踏み切るきっかけになったのではないかという自覚がつくしにもないではなかった。
 …でも、今が幸せだもの。
 無意識の意識で、隣に寝ている陽太の方へと向き直って、小さな手を探ろうと手を伸ばしかけ―――、
 「……っ!」 
 布団の足元から、自分以外の体温がもぞもぞと潜り込んできた気配に、つくしはビクッと体を強張らせた。 
 



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※1 DV(ドメスティック・バイオレンス):パートナー等の親密な関係にある(あった)カップルの間でふるわれる暴力。身体的暴力、心理的暴力、性的暴力、経済的暴力、社会的暴力等がある。

※2 略取:さらわれる者やその保護者の意思に反して、暴行・脅迫等により、相手を支配下に置くこと。
誘拐の場合は、人を騙したり誘惑したりして判断を誤らせ、任意に随行させ、実力支配下に置くことを言う。

※3 PTSD(心的外傷後ストレス障害):強烈なショック体験、強い精神的ストレスが、心のダメージとなって、時間が経過してからも、その経験に対して強い恐怖を感じるもの。さまざまな形で現れる。


ソースはwiki他、詳しくはGoogle検索等で調べてくだされ^^;
なんか、やたらと小難しい話になってきたTOTスマソ
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