「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0290

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 ボンヤリと手元の雑誌を繰り、何度となく繰り返し読んだ三文ゴシップ記事を眺める。
 そこにあるのは、どれもこれも荒唐無稽としか思えない酷い中傷記事ばかりで、どうしてこんなものを差し止めることさえせずに、放置していられるのかとそんなことを思う。
 …この目に黒線が入ってるメイドさんって、本当に道明寺家の人なのかな。
 しかも、亡くなった子供の母親である遥香が、我が子を虐待していたのではないかという記事まであるというのに、なぜか継子である戒のことについては一切触れられていない。
 「……ハァ」
 こんな大衆紙から、事の真実が測り知れようはずもないことはあきらかだった。
 …でも、あたしにはこうしたものからしか、戒のことを知ることができない。
 いつの間にか、道明寺家スキャンダルの記事は終わっていて、今世間を賑わせているテロ事件のものとなっていたのに気がつく。
 それと同時に、まったく聞いていなかったテレビのニュースが耳に入り出す。
 『……で亡くなったサブール・ワハビ氏は、日本駐在中も、その名のとおり‘忍耐強い’ネゴシエーター(※交渉人)として、活躍していた人物。日本政府からも、今回の事件に対して…』
 「またやってるのか、そのニュース」
 「…あ」
 風呂に入っていた隼斗が、腰にバスタオルを巻いただけの姿で、脱衣所から出てきていた。
 慌てて手元の雑誌を手に、椅子から立ち上がって振り返る。
 「やだ、ごめんなさい。下着とか着替えを用意するのを忘れてたね」
 「ん~、暑いから、もうしばらくこのままでいいよ」
 首に巻いたタオルで顔の汗を拭きながら、隼斗の方は焦るつくしをいなして、さっさと冷蔵庫に向かってしまっている。
 外回りが多い営業職とは言え、肉体労働職でもないというのに、隼斗はわりに筋肉質なタイプだ。
 それも、若い頃から趣味で空手を習っているからなのだが、稀にだが、いまだに生傷が増えていることもある。
 …よく稽古に行く暇あるな。
 目のやり場に困りつつも、ふいに気づいた二の腕のあたりの鬱血痕に眉根を寄せた。
 体力作りも兼ね、激務の中、それでも週一くらいの頻度で時間を見つけては道場に通っているというから大したものだ。
 「…もう、そんな格好でウロウロしないでよ」
 「いいじゃないか。自分の家でくらいゆっくりとくつろがせてくれよ?」
 「ふぅ」
 そう言われてしまえば、若い生娘でもあるまいに、夫の裸の一つや二つでぎゃあぎゃあ言うのも憚られる。
 …まあ、下半身にタオルは巻いてくれてるわけだし。
 「陽ちゃんは?」
 「まだ、湯船の中。暑くて先に出てきた。あいつ男のくせになんであんなに長風呂なんだろうな?もしかして、カッパの生まれ変わりなのか?」
 「ぷっ、隼斗さんはカラスの行水だもんね」
 一度、寝室へ戻って、本棚の引き出しの奥へと雑誌をしまい込み、隼人の着替えを用意する。
 そのまま陽太の部屋へも。
 二人の着替えを手につくしが戻ってくると、隼人は缶ビールを片手にダイニングチェアに座ってテレビを眺めていた。
 「お義父さんたち大丈夫かな?」
 「ん?」
 着替えを手渡しながら、首に巻いているタオルを取り上げ、まだポタポタと垂れている水っけを拭ってやる。
 …もう、なんで男の人ってこんなふうにだらしないの?
 情けない男だったが、実父の晴男や弟の進はわりに手のかからない男たちだった。
 「ほら、グァム。さっき優紀と電話してて、今の時期、海外旅行とか大丈夫なのかって心配されちゃったわよ?」
 「平気だろ。どっかの国の重要人物でもあるまいし、こんなの交通事故に遭うよりないことだよ」
 「うーん」
 そういうのとは微妙に違う気がしたが、だからといって過剰に心配しても仕方がないのはたしかだ。
 「…まあ、そうだろうけど。ところで、どうだったの、今日?」
 隼斗の向かい側に座ると、もう一本出してあったビールを勧められる。
 「飲む?」
 「いいわよ、まだ夕御飯も食べてないんだもん。隼斗さんも、ほどほどにしてね?」
 肩を竦めて返事をしない方を見れば、拒否はしないが了承したというわけでもないのだろう。
 隼斗にはそういうところがある。
 面と向かってはつくしに逆らうような言動はしないが、反面、自分の我はけっして曲げない。
 一見物和らげに見えるし、愛想もいいから他人から不快感を抱かれることは少ないが、基本唯我独尊、我が道を行くタイプだった。
 それでも、家族思いで、子煩悩な男だ。
 「それで…どうだったの?」
 彼女の問いに隼斗は小さく息を吐き、ぐっと手の中の缶ビールを煽る。
 「慢性期のまま。白血球数はやや増加しているけど、芽球の割合は少なかった」
 つくしもホウッと小さく安堵の息を吐く。
 「そ、良かった」
 「…けど、肝臓機能の低下が著しいってさ。それに、どうしても薬が合わなくて、副作用の弱いハイドロキシウレアを使用してるけど、どうしてもイマチ二ブには劣る」
 「じゃ…またイマチ二ブを?」
 「肝臓機能の低下が著しいって言ったろ?場合によっては、転化する可能性を覚悟の上で、薬を一旦ストップすることになるかもしれない」
 「……でも、それでもし転化したら」
 「造血幹細胞移植しか方法はなくなる」
 「そんなっ」
 「どの道このまま投薬治療を続けたとしても、必ずしも薬効を維持できるとは限らない。それでさんざん肝臓の機能を弱らせてしまったら、いざという時、とてもじゃないが造血幹細胞移植なんてできやしなくなるんだ」
 「…………」
 造血幹細胞移植とは、白血病や再生不良性貧血などを治すため、造血幹細胞が含まれる血液を移植する治療法だ。
 現在でも、根治が期待できる治療法はこの造血幹細胞移植のみだとは言われているが、それだけにリスクも高く、術後の後遺症や合併症も深刻な治療法だった。
 その一つには、当然、拒絶反応などによる死亡があるが、その他にも、不妊やさまざまな後遺症が残り闘病生活は続く。
 そして、再発の可能性もある。
 隼斗の連れ子の陽太は2年前、交通事故に遭ったことがきっかけで、慢性骨髄性白血病――いわゆる血液の癌であることがわかった小児白血病患者だった。
 以来、投薬治療を続け、現在一応は完全寛解(※骨髄中の白血病細胞が大幅に減少し、末梢の血液中に白血病細胞が認められなくなった状態。完全治癒ではない)を保っているが。
 「ただ…もしかしてなんだが」
 「…ええ?」
 「ふわぁ、暑い暑い~逆上せちゃったぁ」
 隼斗の言葉に被るようにして、風呂から上がった陽太が、真っ赤な顔で脱衣所から出てきた。
 「陽ちゃん」
 「……陽太」
 「あ!お父さん、もうビール飲んでるぅ。ズル~イ!お母さん、俺もジュース飲んでいい?」
 痩せて年齢より幼く見える陽太の小さな顔が、つくしにはわずかに昏く陰って見えた。




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テロで亡くなったサブール氏は滋さんの旦那さんですよね⁉︎これからお話が一捻りありそうで楽しみです!

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NoTitle

更新ありがとうございます☆

なんだか、つくしの新しい夫は司の性格に似てますね(〇o〇;)!?

つくしは、無意識のうちに惹かれたのかな・・・?
この二人の馴れ初めの話も読みたかったですが、今後の結婚生活で垣間見えるのかな☆

楽しみですo(^-^)o☆

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