「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0286

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 「お帰りな…まぁ、坊っちゃん」
 玄関から入ってきた戒を迎えに出たメイドが驚いて目を見開く。
 いつもはビシッと仕立てられた制服は汗と泥でドロドロ、髪はぐしゃぐしゃ、よれよれになった格好はとても道明寺家の御曹司には見えない姿だ。 
 幸い戒自身に怪我はないようなのは行幸だったが、ここのところこうした姿で帰宅することはなかったのに。
 「…タマは?」
 「え、あ…ええ、今はたぶん南翼にある東屋の修繕の件で、業者の検分に立ち会ってると思いますけど」
 「ふぅん、……佑都は?」
 一瞬の躊躇の後に、本当に聞きたかった人物の行方を尋ねる。
 「佑都坊っちゃんですか?」
 「…うん」
 今の時間ならば専属のメイドの真美とお昼寝をしている頃だろうか。
 「佑都坊っちゃんなら、若奥様と西館の中庭で水遊びをされていますよ」
 「…遥、佑都のお母さんと?」
 「ええ、お付きの浦川が今日は風邪でお休みをとっていまして、若奥様もお出かけの予定がないからと、中庭にビニールプールを出してご一緒されてるんですよ」
 「へぇ、…そっか」
 遥香がいるのなら、顔を出すのは気まずかった。
 朝のことがなくても、あえて会いたいとは思えない。
 ポケットに突っ込んだままのチョコレートを指先で転がし、小さく溜息をつく。
 「…おやおや、またずいぶん派手な格好でお帰りですねぇ」
 「タマ」
 噂をすれば影、戒のいかにもな格好に眉根を潜めてはいるものの、老婆は応対に出たメイドほどには驚いているようには見えない。
 タマに言わせれば、『若旦那様のお小さい頃に比べれば、いくらかマシなもんですからね』だそうだ。
 とはいえ、司がグレだしたのは小等部も高学年に入ってからで、戒のように受動的なものではなかったけれど。
 「美咲、お前はもういいよ、仕事に戻りな」
 「あ、…はい」
 自室へと歩き出した戒に合わせてタマも歩き出す。
 「…自分のことは自分でできるから、ついて来なくていいよ」
 「まあ、そうですけどね。図体ばかりデカくなって、ロクに自分の身の回りのこともできない若旦那様より、戒坊っちゃんの方がよほど自分で自分の面倒を見れるお子だ」
 そうは言うが、なんでも他人がやってくれる環境下で育ったわりには、司も人手がなければ生活できないという手合いではない。
 せいぜい脱ぎっぱなし、やりっぱなしというくらいなもので…。
 タマの物言いは単なる戒への世辞に過ぎず、朝のことで気まずさを感じている彼への気遣いだった。
 「若旦那様は、今日明日は会社の方に泊まり込みだそうです」
 「…そうなんだ」
 おそらく来週の上海出張や再来週のオフに向けて、社内での仕事が詰まっているのだろう。
 元々忙しい父ではあるが、特にオフ前となればなおさらだ。
 いつもはそれを寂しく思うのだが、今はそれが返ってありがたい。
 「心配してらっしゃいましたよ」
 「…………」
 タマを振り返る。
 しかし、老婆は戒の顔をあえて見ずに、前を向いたまま話を続けた。
 「坊っちゃんの苦しみ、哀しみを十分に理解して、気遣ってあげられていなかった自分の不甲斐なさに意気消沈してらした」
 「…お父さん、怒ってなかったの?」
 「そりゃあ、怒ってましたよ」
 「…………」
 「どうして悩んでいることがあるなら、自分に言ってくれないのか。一人で苦しんでいないで、それをなぜ、自分に伝えようとしてくれないのかってね」
 「だって……」
 言えるはずがない。
 母を追い出し、その母に会いたい気持ちを口に出すことすら禁じた父に。
 戒が父に言いたかった願いは、ずっとたった一つのことだけだったのだ。
 …お母さんと会いたい、お母さんと暮らしたい。
 いや、違う。
 元の家族に、父がいて母がいて自分がいる、幸せだったあの頃に戻りたい。
 ただ、それだけ。
 「タマにはわかっていますよ」
 「…タマ」
 「でもね、親も一人の人間にすぎないんですよ」
 痛まし気に戒を見る老婆の目を見つめ返す。
 しわに埋もれた小さな目は温かくて、大きな優しさに満ちていた。
 戒への愛情、司への愛情、佑都への愛情、遥香や楓たちへの愛情。
 たくさんの人たちへの愛情に満ちて―――数多くの哀しみや苦悩を呑み込んで歳月を過ごしてきた者の透明な慈愛。
 まだ幼い戒には理解しきれぬ、深い何かを湛えた目をジッと見る。
 「たくさんのことを間違って、…哀しんで苦しんで、もがいてるんですよ」
 「よく、わからないよ」
 戒の目から見て、司には何一つ迷いがないように見える。
 大きくて強くて、何一つ間違うことなどない真の王者。
 『狩りをしてたんだぜ。お前の母ちゃんで遊んでたんだ』
 耳元に悪意に満ちた三田川の声が蘇る。
 その声を振り払うように、戒は緩く首を振った。
 「坊っちゃん――」
 「あ!先輩っ」
 西館の中庭へ出る出口の方から飛び込んできたメイドが、タマを見つけ声を上げた。
 その腕には、半分体を折るようにしている口元を抑えている遥香が抱えられていた。




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