FC2ブログ

「夢で逢えたら…全207話完+α」
第一章 もう一度逢いたい

夢で逢えたら001

 ←夢で逢えたら ~プロローグ~ →夢で逢えたら002
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 どんよりとした空だった。
 排気ガスに汚れ、どんなに晴れていたとしてもどこか茫洋としたNYの空を見るともなしに眺めて、司はため息をついた。
 雨は嫌いだ。
 凍えて虚ろになった今の自分でさえ、憂鬱な気分を思い起こす。
 普段は、どんなに疲れている時でさえも、明朗と冴えわたる意識が、白く濁る。
 すると、決まって彼を苛む様な女の哀しい泣き声が耳に蘇り、やまない頭痛が彼を苛んだ。
 幻聴だ…もちろん。
 そんなことは、わかっている。
 その原因もわかっていて、直視できないのは彼の弱さゆえ。
 …笑えるな。
 悪魔の申し子。
 鋼鉄の魔王。
 あまりに非情な経営手腕と、私生活において巻き起こしてきた冷酷な所業に、そんな呼び名で世間が彼を称するようになったのは、いつの頃からだったか。
 日本の英徳学園を卒業することなくNYに居を構え、鉄の女といわれる母の下、道明寺財閥の後継者として大学と仕事の二束の草鞋を履く日々。
 多忙な日々。
 過密するスケジュールは、巨大な組織の経営者としての経験を獲得するという充実感も、未来への抱負を夢見る希望も与えてくれず、ただ道明寺の生ける駒として常に巨大な虚無を抱えて生きるのみ。
 睡眠薬が手放せない…それでも、浅く短い睡眠。
 彼の権力に群がる女たちを次々に貪り、捨て去った…それでも、いつも身の内は凍えるほど寒い。
 浴びるほどに酒を呑んだ。
 途切れる間もないほどにタバコが必要だった。
 休む間もないほどの秒刻みのハードスケジュールな仕事は、彼の体と心をさらに一層蝕んだが、その間だけは寒さを感じずにいられる。
 薬に手を出さなかったのは奇跡というよりも、効用の切れ目に経験した、怖ろしい幻影に耐えることができなかったからだ。
 逢いたい。その声が聞きたい。
 そう思いながら、実際に夢に、幻覚に、彼女を見てしまえば、息をしているのさえも辛く、心の底から脅えた。
 この何者も恐れるはずがない道明寺司が!

 余計なことを考えたことによる報いに、頭痛ばかりか手の震えに襲われ、司は手をギュッと握りしめた。
 かつては手の冷えなどになやまされたことはなかったが、夏だというのに爪先がひどく冷たい。
 「…副社長。あと、5分ほどで、本社に到着いたします」
 はるか前方、運転席との斜壁の向こうから秘書の山之内が告げる。
 「H・Gコーポレーションとの合併折衝会議だったか。何時に終わる?」
 「予定では16時からスタート18時終了で、そのあとは、そのままH・G側の社長・専務両氏を招いた会食の予定となっております」
 かつてはアメリカでも一世を風靡していた総合電化メーカーH・Gコーポレーション。長年の不況とこのほどの売り上げ低調による業績悪化を受け、株価が低迷し、道明寺による吸収合併が図られていた。
 しかし、売上が低調だったとはいえ、どちらかというとH・G社による原因というより、ワールドカップ終了による大型テレビの需要が減り、安価な韓国・中国製品の台頭、原油価格高騰などの煽りを受けてのことで、H・G社の技術力は目を見張るものがあった。 
 それでもなお、不利な条件下での道明寺への合流…吸収は、むしろ司によるM&A、それも敵対的買収によるものだった。
 折衝自体もほぼ形骸化したもの。
 道明寺…司は、どのような会議内容になろうとも、方針をとっくに決定していた。
 道明寺司の決定は道明寺グループの決定であり、動かされざる事実。
 これまでも、そんな強引な手段で次々と、有益無益を問わず、司が目を付けた企業を喰らい、道明寺という怪物は拡大、肥大していった。
 「…今日は、そのままメイプルに泊まる。適当に、誰か見繕って用意しておけ」
 こんな日は、熱い人肌が必要だった。
 そのあと、ドロドロとした嫌悪と不快感に襲われようと、今は麻薬のような鎮痛剤が欲しい。
 「かしこまりました。ただ…」
 「なんだ?」
 「実は、メイルズフォート病院から連絡が入ってまして」
 「メイルズフォート病院?」
 「はい。フロリダの大学病院に入院してらした要様が転院されたとのことで。その要様の担当医から一度、司さまにお会いしたいと」
 司は眉根を寄せた。
 要は、司が23才の時に結婚した朝倉財閥の末娘・恭子の生んだ司の一人息子で10才になる。
 愛なく政略結婚した司と恭子の間には当然血の通う愛情などなく、結婚当初から冷え切ったものだった。
 それでも恭子の方には司に対して愛だが恋だかといった感情があったらしく、長く司とその息子である要に執着した。
 だが、司の攻撃的な拡張路線の一端として、朝倉財閥もやがては浸食され恭子に利用価値がなくなると、長年見て見ぬふりをしてきた恭子の不貞を理由に別居。
 ちょうど1年前、2年にも及ぶ泥沼調停紛争によりようやく離婚が成立した。
 その際、司からの莫大な慰謝料、要の親権とそれにともなう養育費をせしめ、たいそうな悪態と啖呵を切って恭子は司の下から去ったはずだった。
 『いつまでも死んだ女の幽霊にとりつかれたイ○ポ野郎』
 さすがにお上品なお嬢様である恭子は、そこまであからさまな表現はしなかったが、ようはそういうことだった。
 『道明寺の一人息子であり、唯一の跡取り息子である要は立派に育てる』
 そう言い切り、要の親権を争っていた楓と、自分の息子のことだというのにまったく関心のなかった司の前から要を連れ去った。
 その一点に関しては、司は恭子を評価していた。
 あんな女でも、クソババアよりはよほど母親らしいってわけだ。
 たとえその言葉の裏にあるのは要に対する純粋な母親の愛情などではなく、要に付属する巨額の養育費や、いずれは道明寺財閥総帥の母として影響を及ぼす為の布石であったとしても。
 それが舌の根も乾かぬうちに要をこちらに寄こしたということは、新しい金蔓でも手に入れたか…。
 司は清楚な美貌に隠した貪欲な野心家のかつての妻の顔を思い浮かべ、わずかに唇の端を引き上げ、微笑した。
 「会食の後、一度メイルズフォート病院に寄る。だが、女はそのまま用意しておけ」
 道明寺本社の巨大なビルのグラスウォールの反射に、一瞬目を射られ、司は薄く目を細めた。

↓ランキングの協力もよろしくです♪
ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2

   
 
関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【夢で逢えたら ~プロローグ~】へ
  • 【夢で逢えたら002】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【夢で逢えたら ~プロローグ~】へ
  • 【夢で逢えたら002】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク