「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0280

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 ざああああああっ。
 頭からシャワーを浴びたまま、肌が赤くなるほどボディタオルで全身を洗ってゆく。
 特に遥香が触れたところは念入りに。
 それでも虫唾が走るようだった感触は消えてくれず、司は何度となく同じ作業を繰り返した。
 「フ――――ッ」
 ひとしきり気の済むまで体を洗って、コックをひねり湯を止める。
 ダラダラと顔中を濡らす水の流れに閉口して、前髪をかきあげつつ見るともなくすぐそばの姿見へと視線を向けた。
 さすがに見えるところにはないが、厚い胸板や割れた腹筋のそこかしこに散りばめられた赤黒いキスマークの痕を目にして、皮肉に唇を歪める。
 「…汚ねぇもんだな」
 吐き出された声音は、言葉とは裏腹に妙に明るく虚ろだった。
 鏡の向こう、ショックに顔を強張らせて泣きじゃくる女―――少女の日のつくしの顔が二重写しに見える気がした。
 そんな自分の妄想を振り払って、司は鎖骨のすぐ下、胸元にかかったネックレスのペンダントヘッドを握り締め、一瞬の躊躇いの後に、二連の重ねられたリングのうちの一つを指先で抓んでそっとキスを落とす。
 それだけで身の内に染み入ろうとする汚濁が、触れた部分から浄化されるような気がした。
 あらためて新しいバスローブを身にまとい、大判のバスタオルで簡単に髪の水気を拭いながら脱衣所を出る。
 二方向になっている出口のうち、遥香が眠っている主寝室側ではなく、居間へと続くドアを潜り抜けて今度こそ戒の子供部屋へと向かった。
 カチャ。
 わずかにドアを開けて中を伺えば、柔らかい光を投げかける間接灯の下、こんもりと膨らんだベッドが目に入った。
 温かな空間。
 今となっては、司にとって唯一心安らげる場所。
 たとえ、戒がこの先、その母親同様彼を忌み嫌い、憎んだとしても、けっして愛さずにはいられない――彼が守るべき絶対の存在。
 足音を忍ばせて眠る戒の傍らへと歩み寄り、ベッドに腰を下ろして眉根を寄せる。
 「…連れてきてたのか」
 戒の背中にしがみつくようにして眠っていた小さな塊がもぐもぐと口を動かし、盛んにもぞもぞと動いていた。
 ポッカリと口を開けた無邪気な寝顔は、天使のように愛らしい。
 母親似の佑都はほとんど司やその司に瓜二つの戒に似ているところはなかったが、そうして並んで寝ていると、母親が違うとは思えないほどによく似ている。
 戒がたびたび佑都を自室に連れ込んでいることはタマから聞いていた。
 両親が留守がちな一家だったが、常に使用人たちが子供たちの動向に目を光らせ、安全には気を配っている。
 当然のことながら、佑都から人目が離れることはめったにない。
 しかし、どんな偶然が働いたのか、そうした稀な機会に戒と接触を持つことがあったらしい。
 もちろんいつまでも佑都の不在に気がつかないような管理体制ではなかったから、すぐにその所在も知れたらしいが、兄弟の…特に戒の佑都への隔意に心を痛めていたタマがあえてそうした隙を作り、見て見ぬフリで兄弟の交流を重ねさせていた。
 司にしても一応は報告を受けていたものの、それに否やを唱えるつもりもなく、見過ごしてきたのだ。
 ―――興味がない。
 タマに言われるまでもなく、たとえどんな経緯で生まれ、望んで得た我が子ではなかったにしても、佑都にはなんの罪もないことは司にだとてわかっていた。
 しかし、愛せない。
 ただそれだけなのだ。 
 戒に対する愛着や愛情、意識せずとも湧き上がる慈愛や庇護欲とは裏腹に、佑都にはなんの感情も沸かなかった。
 それこそ遥香に対する気持ちと同じように、愛しさも、憎しみも、疎ましささえも。
 小さく溜息をつき、愛しい我が子―――彼にとって、唯一我が子と言える戒へと視線を戻し、自分によく似たクルクルの巻き毛へと手を伸ばす。
 そして前髪をかきあげ、現れた形の良い額へと柔らかいキスを落とした。
 そのまま立ち去ろうとして…どんな思惟が働いたというのか、ぐっすりと寝込んでいたはずの佑都がうっすらと目を開いて、司へとニッコリと微笑む。
 「ぱー…ぱぁ」
 「………」
 戒のパジャマの背中を掴んでいた手を離してあぐあぐと口元に運びながら、反対側の小さな手を司へと伸ばしてくる。
 …戒もこんな感じだったっけな。
 ふいに脳裏に蘇る懐かしい記憶。
 今以上にハードスケジュールで、ロクに顔を合わせてやることもできない父親を、人見知りの激しい時期ですら戒は慕ってくれた。
 おそらくそこには、つくしの人知れぬ努力があったのだろう。
 一方佑都は、戒に比べて、元々からしてほとんど人見知りのない子供だった。
 それでも、めったに会うことのない楓やNYの司の父には構えてしまうことがあるというから、まったく人見知りがないというわけではないはずなのだ。
 それなのに、佑都は司を不思議なくらいに慕っていた。
 これまで司は、佑都を抱くことはおろか、目を向けることさえほとんどなかったというのに。
 けっして愛しさを感じたわけではない。
 タマに言い放ったとおり、いまさら一つや二つ罪過が増えようと何を恐れることもなかった。
 しかし―――。
 司は自分でもよくわからない情動のままに戒の体越しに伸び上がりざま、佑都の額にもキスを落とす。
 「…ゆっくりと眠れ」
 司の声音は存外に柔らかく、いつものように冷たくもそっけなくもなかった。
 幼子がコクンと頷き、彼の言葉のとおり再び深い眠りへと落ちてゆくのを見守って、今度こそ司は立ち上がった。




 キィ~。
 バタン。
 司が部屋から出てゆく気配に、戒がパチッと目を開き、ベッドの上へと体を起こす。
 そして、体を捻り背中側に眠る弟へと視線を向けた。
 …佑都にお父さんが盗られちゃう。
 遥香が母から、父を奪ったように―――。
 佑都を見つめる戒の目から、ポロリと一筋の涙が零れ落ちた。




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