「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0281

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 「おはようございます」
 「おはようございます」
 「……おはよう」
 使用人たちの挨拶に応え、戒も挨拶を返す。
 司や楓などは、せいぜい鷹揚に頷き返すくらいなもので、使用人に対してわざわざ声に出して挨拶を返すことは滅多になかったが、戒は幼い頃から必ず律儀に返した。
 「よう、なんだ、今日は珍しくゆっくりなんだな?」
 一歩、食堂に足を踏み入れた途端、すでに食事を終え、コーヒーを片手に新聞に目を通していた父が、戒に向かって優しく微笑み声をかけてきた。
 「………………」
 「俺ももう少ししたら、出るから学校まで送ってやるよ。お前、律儀に毎日通学してるんだろ?」
 給仕係が用意した司の直近の隣席ではなく、あえて入口付近の席に腰を下ろした戒に、給仕係は戸惑ったように司へと視線を送る。
 司の方も、自分の言葉に一言も返事を返さない戒の態度に眉根を寄せた。
 「戒?どうした、ずいぶんご機嫌斜めなようだな?」
 なおも答えようとしない戒に、さすがの司の顔にも苛立ちが浮かぶ。
 「おい、無視してんじゃねぇよ」
 怒気を含んでドスの利いた司の低い声音に、戒の心臓が縮み上がってビクリと肩を揺らした。
 さすがにこれ以上、無視することができず、
 「…む、無視なんかしてないよ」
 硬い表情で俯いたたまま、蚊の鳴くような声で返事を返す。
 しかし、司だとてそれで納得するはずもなく、手に持っていた新聞をテーブルへと投げ出し、あらためて戒へと向き直った。
 そんな親子の緊張をハラハラと伺いながら、給仕係が戒の座っている席へとカトラリーやグラスの配膳をしなおそうとするが、司がそれを片手で制止する。
 「戒、こっちに来い」
 「今日は、こっちで食べるからいいよ」
 「こっちに来いっつーてんだよ」
 怒声を上げているわけではなかった。
 けれど、もうそれだけで戒の意気地も簡単に砕けて、渋々、給仕係に最初に指し示された席へと移動する。
 そんな戒の憮然とした顔を眺めながら、小さく吐息をついて、司が気持ちを切り替える。
 「来週の上海出張の話だけどな」
 いつの間にか日々が過ぎて、あれほど楽しみにしていた父との上海行きが間近に迫っていたことに、今になってやっと気が付いた。
 …そうだ、俺だけ連れて行ってくれるんだ。
 昨日の今日で、さすがの戒もそう簡単には気持ちを切り替えられなかったけれど、それでも昨夜の―――母や自分よりも、遥香や佑都の方が父にとって重要なのだと感じさせられた絶望感を押しのけ、戒の心にわずかな光が差し込む。
 それでも、さっきまで不機嫌だったのに、そう簡単には素直になれなくて戒は黙り込んだ。
 司もそんな戒の態度を無理矢理には改善させようとは思っていないのか、特に咎めることなく話を続けた。
 「ちょっと予定変更になった」
 「…え?」
 差し込んだ光が暗雲にわずかに遮られ、陰ったかのように、戒の胸に嫌な不安が滲み出す。
 「あっちで会う予定だった政府高官の都合で日程がズレ込んだ。その関係で香港にまで足を伸ばすハメになってな」
 「…………」
 「どうやら上海滞在中は、時間取る暇なさそうなんだわ」
 「……そう」
 よくあることだ。
 そこは戒も聞き分けている。
 幼い頃から、父の仕事のことに関しては、母からも厳しく言い聞かせられていたのだから。
 『お父さんはね、とてもたくさんの人たちの生活を支えなければならないの』
 だからワガママを言ってはいけない。
 お父さんが心置きなく頑張れるように、戒やつくしも頑張らなければならないことがあるのだと。
 そして、そうしたつくしや戒の心を司もわかってくれていて、できる限りの努力をしてきてくれた。
 すべてを記憶しているわけではなかったけれど、それでも母の教えや父の真心は、今も戒の中にたくさん息づいたまま残っている。
 「その代わり、再来週土日を挟んで3日休みを取れたから、今度こそお前の好きなところに連れて行ってやるよ」
 「え?本当!?」
 沈んだ気持ちが一気に浮上する。
 さすがの戒も不機嫌さを装うことすらできずに、パッと顔を明るくさせた。
 それを満足げに見やって、司が鷹揚に頷く。
 「ああ」
 「…でも、どうせ、またドタキャンになっちゃうんじゃないの?」
 「てめ、俺を疑うのかよ?」
 「だってさ」
 戒の疑いももっともなことだと、司が苦笑する。
 「まあ、今度こそ大丈夫だ。上海の方に同伴する遥香でなんとか対応できるはずだからな」
 「……え?」 
 遥香の名前に、戒の目が大きく見開かれる。
 ちょうど、空になったカップの中身の追加を頼むために、横を向いていた司はそんな戒の表情の変化に気づかない。
 「遥香も行くの?」 
 「だな。あいつの親族が香港に有力なツテ持ってて、顔繋ぎを頼むことになった。ついでだから、あっちの親も顔出したいっつーことになって、上海から香港滞在の数日間、佑都も連れて一緒に泊まることになってる」
 「…………」
 もちろん、その家族旅行のメンバーに戒は含まれていないし、戒自身も行きたいとはとても思えない。
 それでも、戒と一緒に行くはずだった司の上海出張に遥香と佑都が一緒に行くことは、司が戒よりも二人を選んだことのように感じられた。
 …やっぱり、お父さんは。
 テーブルの下、膝の上に置いた手をギュッと拳の形に握り締め、戒はボンヤリと料理の皿が自分の前に配膳されるのを見守った。
 「お前、まだ東南アジアはほとんど行ったことねぇだろ?どうせならフィリピンやタイ、シンガポールあたりを見て回らないか?急な予定外のぶっこみもありえるから、そう日本を離れてあっちこち遠出はできねぇけど、けっこう三日もありゃ、それなりに楽しめると思うぜ?」
 他の人間にはけっして見ることのできない司の柔和な笑顔。
 戒と――つくしだけに向けられていた司の確かな愛情の証。
 しかし、一度生まれた不信や失望は容易に拭い去ることができない。
 ましてや、父の心を今も信じるには、戒はあまりに幼く、そして傷つきすぎていた。
 大好きな母を奪われただけではなく、その母を否定するような周囲の軋轢に押し潰され続けて…。
 ましてや、今や戒の唯一の心の拠り所でもある父までもが、その周囲の言葉を実証するような言動をとっていたのだから。
 「ジョイポリスだったけか?そういったテーマパークに行きたいなら、似たようなやつはあっちにだっていくらでもあるだろうし」
 「……い」
 「あ?」
 怪訝に眉を潜めた司を、戒が反抗的に睨みつけ、鋭利な言葉を投げつける。
 「俺は、東南アジアになんて行かないっ!」
 「……戒?」
 「嘘つき!!」
 「!」
 「何、今更邪魔者の俺なんかのご機嫌とってんだよ!俺のお母さんを追い出したくせにっ、本当は俺のことなんていらないくせに!!」




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