「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0277

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 いつの間にか話し込んでいたらしい。
 彼らと知己を得たい者たちが周囲を取り囲んで、話に割り入るタイミングを図っていた。
 「萌奈ちゃんって…とても愛らしいお名前ですのね」
 一同の視線を受けて、歩み寄ってきた女がニッコリと笑う。
 司や遥香は見覚えがなかったが、どうやら滋の方はあったらしい。
 「…ああ、お久しぶり」
 「お久しぶりです、大河原さん」
 チラチラと司を見て期待をしている目が、滋に紹介して欲しいと望んでいたが、滋は特にそのつもりはないようだ。
 それだけで相手がどういった立場の人間なのかわかる。
 すれ違いばかりで社交界で顔を合わせることがなかった滋はともかくとして、名前は覚えていなかったとしても、ほとんどの有力者の顔くらいは司の頭に入っている。
 まるで覚えがないということは、その程度の人間ということだ。
 同窓会がどうの、どこそこのクラスにいた○○がどうのと、話している内容からして、滋の学生時代の学友か何かなのだろう。
 滋にしても一見愛想は良さそうだが、あきらかな愛想笑いで適当にあしらっていた。
 第一陣の声かけが成功したと見て取ると、我も我もと後続が押しかけてくる。
 招待客の滋はともかくとして、ホスト側の司や遥香がいつまでも一箇所に留まっているわけにもいかない。
 和気藹々と話し込む滋たちに一声かけ、立ち去りかけて…。
 「どうした由来がおありになるの?たしか大河原さんのご主人は、アラブ系アメリカ人の外交官の方でしたわよね?萌奈ちゃんのファーストネームは、やはりあちらのお名前ですの?」
 どうでもよい雑談だったが、ふと思いついた言葉が司の口をついて出てしまっていた。
 「…願望」
 「え?」
 意外に大きな声だったらしく、誰にともなく呟いたつもりだったのに、尋ねた当の人物にまで届いてしまったようだ。
 隣に立つ遥香もまた、訝しげに司の顔を見上げている。
 「よく知ってるわね」
 滋と萌奈だけが、少しだけ驚いた、しかし、嬉しそうな顔をしていた。
 「さすがは道明寺財閥の次期総帥。あまり中近東には版図を広げられていないと聞いていたけど、その尖兵であるあなたは、アラビア語にも堪能なのね」
 「…………いや」 
 「でも、この子の場合はどちらかといえば、‘希望’の意味かな。アラビアの名前には教訓的なものもあって、この子の父親の名前がサブール、忍耐強いっていう意味でしょ?それで自分の娘にはもっと未来を明るく照らしてあげられるようなものがいいって、この名前をつけたのよね」




*****




 屋敷に戻れば、右左。
 さすがに玄関に入ってすぐに、というわけではなかったが、司と妻の遥香の住まいは庶民の居住区でいえば、一区画ほど離れているところに私室がある。
 広大な屋敷を構える道明寺家のこと、それぞれの家族が棟を変えて暮らすことは難しいことではない。
 司は戒と共に、つくしと生活していた東翼側に変わらず居住し、遥香は中央にほど近い西翼側に佑都と共に私室を与えられていた。
 当初、遥香との同室を画策した楓だったが、まともな夫婦生活など最初から送るつもりがない、そもそもそのスタートからしてまっとうな始まりとは言えない妻を司が拒絶した。
 それでも‘結婚’、そして佑都の認知には同意したから、楓もそれ以上の口出しは控えたのだ。
 そして、遥香自身も、いつまでも待つと言う言葉のとおり、結婚当初、司や戒の心情を慮りあからさまな妻然とした振る舞いは控えていたし、権利を求めて我を通そうとはしなかった。
 しかし、そんな歪な家庭のカタチがさらに歪んでいったのは…。
 「…ふぅ」
 私室に入るなり、肩にかかった緊張がわずかに緩んで、司は大きく息を吐き出した。
 ブラック・タイとシャツの間にグッと指先をいれ、そのまま引き抜きソファへと投げ捨てる。
 そして、戒の子ども部屋へと向かい、ノックをしかけて腕時計を確認した。
 「…ふぅ、さすがに遅いか」
 すでに時間は22時を軽く回っていて、必ずしも戒が眠ってるということもなかったけれど、シーンと寝静まった子供部屋の向こうの気配に、わずかに迷って結局、入らずに戻る。
 全身に染みた酒の匂いと女の香水や化粧品の匂い、その他、陰謀渦巻く虚飾の臭いを愛する我が子の寝室に持ち込みたくはなかった。
 いずれ…戒もまた道明寺家の後継者として、そうした世界に身を投じることになるのだとしても、今はまだ彼の腕に庇って守っていてやりたかった―――愛する‘彼女’の代わりに。
 少しでも時間が空いてしまうと、余計な雑念が脳裏を過ぎって、胸を掻きむしってのたうち周りたい狂気に支配されてしまいそうになる。
 まるで塗り込められたような胸の奥の暗闇に蹲って、再び愚かなだけの愚者に戻ることができたのなら。
 そうしたら決して‘彼女’を、他の男の手に渡したりなどしなかったのに。
 今頃、夫となった男の腕の中にいるだろう‘彼女’の姿が脳裏に明滅して、手当たり次第手に触れるものを壊す衝動を堪え、司はシャワー室へと向かった。
 今はただ、冷たいシャワーの水を浴びて、熱く濁った脳内の映像を洗い流してしまいたい。
 そして凍えて何も考えられなくなってしまえれば…。




*****




 バタン―――。
 夢現に聞こたドアの開閉する音は、父が部屋に戻ってきたからなのだろうか。
 「ぶぶぶぶぶ」
 腕に抱いた小さな体がモゾモゾと動いて、鼻先を柔らかな髪の毛がくすぐった。
 ふんわりと匂うミルクの香りはどこか懐かしい気がした。 
 …温かい。
 その温もりをもっと感じたいと動かした手を小さな手がグッと握り返す。
 彼の小さな手よりも、もっともっと小さく熱い手の温もり。
 まるで凍えて粉々に壊れてしまいそうな彼の心を癒し、柔らかく包み込んでくれる。
 …もう起きないと、遥香も帰ってくる。
 その時に佑都が、彼女の部屋にいなければ心配させてしまうだろう。
 そうなれば屋敷中が大騒ぎになってしまうかもしれない。
 それでもこの温もりを手放すのが惜しくて、赤ん坊のようにイヤイヤをする自我を叱咤し、戒はゆっくりと目を開いた。
 まず見えたのは、佑都のふわふわの髪の毛。
 母親の遥香に似た柔らかな猫っ毛が、まるで綿帽子のように目の前で揺れていた。
 「むにゃむにゃ…にー…に」
 …佑都。
 無心にしがみついてくる自分よりもっと小さな存在の温もりに、キュッと胸の奥が痛んで、きゅううっと抱きしめ直す。
 バタン。
 ハッ。
 もう一度聞こえたドアの開閉音に、我に返って入口へと視線を向ける。
 しかし、どうやらドアの音は子供部屋ではなく、その外にある居間への入口の開閉音だったらしい。
 「…やば」
 それでハッキリと目が覚めた。
 佑都の方は目を覚ましてはいないらしかったが、なんともバツが悪い。
 一番初め――母親の遥香を探してベソをかいている佑都の様子に、つい連れてきてしまったのは単なる出来心だった。
 もちろん、誰にも咎められるいわれはない。
 しかし、それ以来こうして時々、佑都を自室のベッドに連れ込んでしまっていることは、遥香はもちろんのこと、司にも誰にも知られたくなかった。
 もしかしたらタマや佑都の乳母がわりのメイドの真美は知っているのかもしれなかったが、もし何か指摘されていたら、どんなに佑都が泣いていたとしてもけっしてもう二度とは自室に連れてきたりはしなかっただろう。
 様子を伺おうと、そっと子供部屋の入口のドアへと近づく。
 司が寝室に戻ったタイミングで廊下に出て、何食わぬ顔で佑都を誰かメイドに渡してしまえれば。
 ソロソロと音を立てないように、ゆっくりとドアを開けて、居間の様子を伺う。
 「……っ!?」
 …遥香っ。




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