「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0274

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 沈黙が落ちた。
 タマも口を噤んだことで、話は終わっただろうと司が席を立つ。
 しかし―――、
 「若旦那様…いえ、司坊ちゃん」
 彼を『坊ちゃん』とタマが呼称するのは、使用人としての言葉ではなく、司の育ての親としての諫言や忠告を告げようとしている時。
 「聞かねぇぞ」
 「まだ何も言ってやしませんよ。わざわざそうやって、あたしの話を遮るところを見ると、坊ちゃんなりに察するところがあるんでしょうが」
 ああ言えばこういう。
 小さく息を吐き、それでも立ち去らないのは、タマの言う言葉を軽んじてはいないからだ。
 「坊ちゃんはやめろ」
 それでもそんな子供じみた文句がついて出たのは、せめてもの司なりの抵抗だったのか。
 「…では、若旦那様。これも年寄りの冷水とお思いかもしれませんが、大人の事情はともかくとして、子供には罪が無いということをそのお心にお留め置きください」
 「……………」
 「タマは、若旦那様と若奥様の間に何があって、つくし様とお別れになることになったのか、その経緯の本当のところを存じ上げません。しかし、そのことと佑都坊ちゃんのことはまた別の話です。たとえ何があったのだとしても、佑都坊ちゃんもまた戒坊ちゃん同様、司様のお子であり愛されるべき存在なのです」
 無言の司は背を向けたまま、何も答えない。
 その冷たい横顔の無表情はあまりに、その母親に似て…。
 「かつて、奥様を恋しがって泣いてらしたあなた様には何一つ罪はなかった。しかし、佑都坊ちゃんを愛さず放置されるのなら、それは罪だ。奥様と同じ罪をあなたはまた再び犯そうとなさるのですか?」
 「……罪?」
 「そうです」
 「ふ、今更罪の一つや二つ、その罪状が増えたところで、俺には痛くも痒くもねぇな」
 「司様っ!」
 この世でもっとも愛する女を傷つけたその瞬間から、司の罪は彼自身にさえもはや背負いきれぬほどに大きく、そして重く伸し掛っていたのだから。




*****




 「にんにん、ぴーあん」
 「そうそう人参とピーマン。じゃあ、これは?」
 「バナナ!」
 「すごぉい、佑都、バナナがちゃんと言えたねぇ」
 「きゃははは」
 屋敷の広い食堂内に明るい笑顔が広がっている。
 食堂に足を踏み入れた瞬間、戒は後悔していた。
 すぐさま回れ右をしかけて、背後に付き従っていた給仕係の胸にブツかり、大きく溜息。
 「あら、おはよう、戒君」
 「に~に!」
 「……はよ」
 佑都の隣に座って何くれとなく世話をしていた遥香が、戒の気配に気がついてニッコリと微笑みかけてくる。
 こうなると今更逃げるわけにもいかずに、仕方なく、給仕係の指し示す席――長大なテーブルのほとんど端と端に腰を下ろす。
 すかさず配膳されるカトラリーの準備が整うのを見るともなく見守った。
 「偉いわね、学校のない休日にも、ちゃんとこんな朝の早い時間に起きてきてるのね」
 現在、遥香は司や楓のように道明寺HDの事業には直接関わっていなかったが、前妻のつくしが担っていたような社会福祉事業や社交界での交際を引き継いでいる。
 庶民出身のつくしとは異なり、英才教育的なものを今更学ぶ必要がなかったから、彼女ほどにはハードスケジュールを架されてはいなかった。
 しかし、遥香が患っている病や、服用している薬の関係上、床に臥していたり部屋に引きこもっていることも多く、こうして朝食の席で戒が彼女たち母子に出くわすことは稀だった。
 もちろん、戒自身が避けているせいもあるのだが。
 「お父さんと、ヨーロッパに行ってるんじゃなかったんだ?」
 「…え?」
 いつもは最低限、質問されたことに答えるくらいしかしない戒から話しかけられたことに、遥香が驚く。
 別にそれほど興味があったわけではなかったから、聞くだけ聞いて、戒の注意はあっさりと遥香から反れて、給仕されたサラダへと移っている。
 「あ…ええ、その予定だったのだけれど、少し体調が良くなかったものだから」
 たしかにわずかに顔色が悪いか。
 しかし、この家に嫁いで以来、遥香は体重を激減させ、精神的不安定もあってそうした顔色でいることも珍しくはなかった。 
 だから、おそらく体調不良というよりも、精神面でのコンディションの問題なのだろう。
 「海外への渡航は、お医者様に止められてしまって…」
 「…そ」
 遥香の表情が申し訳なさそうに、暗く複雑に曇る。
 司のヨーロッパ出張は業務であり、パートナー同伴のパーティに出席することも彼の妻としての重要な仕事の一つだ。
 それらのことを誰よりも熟知している遥香としては、自分がその勤めを果たせないことが歯痒く、何よりも辛いのに違いなかった。
 「まぁま、まんま」 
 「あ、ごめんね。待たせちゃったわね、次はどれを食べる?」
 「ん~、バナナ!」
 「ふふふ、美味しいものねぇ」
 ほとんどもう大人のものが食べられるとはいえ、戒や遥香とは違い、佑都はコースではなくシェフ特製の離乳食を一度に配膳されて食事をしている。
 にも関わらず、後から入ってきた戒よりもよほど時間をかけ、母との食事の時間を楽しんで過ごしていた。
 かつては戒にも与えられていたはずの温かで優しい時間。
 砂を噛むような…味の感じない食事を黙々と口に運ぶ。
 ―――早くここから立ち去りたい一念で。
 「戒坊ちゃん、今日のデザートは桃のゼリーとリンゴのムースのカルヴァドス風ですよ」
 「…いらない」
 デザートを勧めてくる給仕係の言葉を断って、席を立つ戒を遥香が引き止める。
 「あ、戒君っ!」
 「……………」
 「あのね、今日は私、一日時間が空いたものだから、この後、佑都を連れて動物園に行こうと思っているの。良かったら、一緒に戒君も行かない?」
 わずかに緊張している顔が、戒から向けられる敵意を恐れている。
 「…悪いけど、この後したいことあるし」
 「そ、そっか、そうだよね…せっかくのお休みだもの。お友達との約束もあるだろうし」
 わずかに寄せてしまった眉根は、わざとではなかった。
 そして、そんな正直な心情を顕にしてしまった羞恥と屈辱に、自然、皮肉が溢れた。
 「それ、イヤミ?」
 「…え?」
 「俺に友達なんていないの知ってるんだろ?」
 八つ当たりだ。
 もちろん、戒にだとてわかっていた。
 遥香はたんに言葉のあやとして言っただけで、戒に対して何かしらの含みがあったわけではないと。
 それでも―――、
 「英徳の連中に、バスタード(※雑種)のあぶれ者を相手にする奴なんていないよ」
 「そんなっ」
 とっさに否定しようとした遥香を戒がせせら嗤う。
 子供らしくないその表情は卑屈に歪んで、自虐的に自分をさらに傷つけていた。
 「全部あんたも知ってるんだろ?学校にスパイがいるんだもんな」
 「…戒君」
 「無理して俺に構うのは辞めてよ。お父さんの関心が欲しいからって、俺を利用しないで」
 自分の言葉で傷つく遥香の顔を見たくはなくって、戒は言い捨てたまま後ろを振り返ることなく、その場から足早に立ち去る。
 いわれなく他人を傷つけることは、この上なく苦しく…そして何よりも自分の心を暗く塗り込め貶めるものだと、戒は幼いながらに実感していた。




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いつも

ストーリーの世界が、会話だけでなく表情、そして登場人物の動作全てが目の前に拡がるようです。
そろそろ更新されてるかな?来て正解でした
続きが気になる!

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