「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0273

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 司がちょうど、彼と戒の私室、一続きになっている彼ら父子の居間を出たところで、佑都を連れたタマとメイドに出くわす。
 その若いメイドは、道明寺家の若奥様として家を空けがちの遥香と、老齢でもはや子供の面倒を見ることが容易ではないタマの代わりに、佑都の乳母的のような立場で雇入れられた女だった。
 佑都はメイドの腕に抱かれ、コクリコクリと眠りかけている。
 司に気がついたメイドが佑都を抱いたまま慌てて会釈をするが、タマの目は物言いたげだった。
 タマは司にとっては乳母のようなものであり、祖母にも等しい存在だ。
 そんな彼女の忠告や説教は無視し難く、またそうされるのを忌避して、あえて司はその眼差しの意味に気がつかないフリで無言ですれ違う。
 が、
 「ぱーぱ…」
 ハグハグと半ば拳ごと指をシャブっていた佑都が、司の気配に気がついたのか、目を瞑ったままニコッと微笑み、涎まみれの手を伸ばす。
 しかし、当然のようにその小さな手や佑都をチラリとも省みることなく、背を向ける司の態度にタマが小さく溜息をついた。
 「お待ちください、若旦那様」
 「……………」
 やむなくであったとしても、そうして司の歩みを引き止められるのはこの数多い道明寺家の使用人たちの中でもタマだけだっただろう。
 「…真美、先行って佑都坊ちゃんをお部屋にお連れしておくれ」
 「はい、かしこまりました」
 チラリと司の動向を伺いながらも、特に口を出してこない様子に、タマの命令を受けて真美と呼ばれたメイドが佑都を連れ、司の向かった先とは真逆の方向へと歩み去る。
 年齢に見合わぬカクシャとした動きで、立ち止まっている司の背に追いついたタマが、すぐ脇の客間を指し示す。
 「少々お時間をいただけますかね?」
 「……忙しい」
 「戒坊ちゃんのことですよ」
 無言のため息と、タマが開けたドアに体の向きを変えたことが司の答えだった。




*****



 タマの用件は、ひそかに司の危惧していたような説教や諫言などではなく、戒の近況、学校での様子、家庭でのこと等々、これまでも電話等でこと細やかに報告してきた内容とほぼ同じこと。
 忙しい中でも司が心を砕いてきた成果もあって、そのほとんどはあらかじめ把握していた事柄ばかりではあるが、こうした最も戒の身近にいる老婆からの報告は、もっとも重要なニュースソースであり、司も疎かにはしていなかった。
 もちろん、タマの他にも戒には人を付けてある。
 しかし、護衛であるSPたちの役目はあくまでも戒を危険から守ることで、息子をスパイすることではない。
 「元々賢いお子ですからね。ご自分が一定の成果を出さなければ、お母さまのつくし様が悪く言われる。蔑まれると人一倍頑張ってらっしゃいますから、学力やスポーツに関しては奥様も目を見張る成果をだされて、たいへんご立派ですよ」
 戒は司とは異なり英才教育にも元々従順な子供だった。
 そこにはつくしの愛情や励ましもあったし、周囲に認められているという喜びが向上心にも繋がっていた。
 しかし、今は違う。
 まさにタマの言う、母を悪く言われたくない、その一心なのだろう。
 「…けれど、学校はね」
 「フン、俺だってロクに通ってなかっただろ?」
 「総二郎坊ちゃんたちと悪たれ三昧、好き勝手やってた若旦那様、あんたとは事情が違いますよ」
 ズケズケと歯に衣着せぬタマの物言いに司が苦笑する。
 いまや彼にこんな物言いをするのもできるのも、ロスアンゼルスにいる姉の椿とこのタマだけだった。
 「相変わらず、ダチ、いねぇのか?」
 「……ハァ。つくし様も心を砕かれていたことですがね」
 実母のつくしがいる頃からの懸念だった。
 しかし、それでも従姉妹の咲姉妹とは仲が良かったし、スイスでは当時の秘書の息子とも友達になったりしていたのだ。
 戒は気難しい子供ではなかったけれど、司によく似た子供ながらに人間離れした美貌と元々の警戒心の強さが仇となって、他の子供たちに敬遠されやすかった。
 そして、その出生や両親の事情が、なおさらに人付き合いを遠ざけてしまったのだろう。
 また司の時には総二郎、あきら、そして類といった、かなり家格が近く立場の似たよった子供たちが同学年にいたことが幸いしたが、戒の場合には彼におもねるか忌避することしかできない家格に激しく劣る子供たちしか英徳学園には在籍していなかった。
 まるで畑の違う政財界の大物の孫息子は、どうやら戒と意気投合するどころか不倶戴天の敵になってしまったようでもある。
 「それに…」
 考え込んでいた司の耳に、声音を変えたタマの声が届いて怪訝に老婆の顔を見返す。
 タマにしては珍しく言いあぐねて、しかし、意を決したような決然とした眼差し。
 「なんだ?」 
 「それに、どうやら戒坊ちゃんは、つくし様を探して歩かれているようなんですよ」
 「………っ」
 司が息を呑む。
 ちょうど、さきほど戒からも問いかけられていたことだ。
 『お母さん、どこにいるの?』
 それは通り一遍の問いかけなどではなく…。
 戒が、つくしをずっと恋しがっていたことは司にもわかっていたことだった。
 「屋敷からは今までどおり、学校へ行くために定時に出て行かれています。しかし、どうやら学校に通ってはいても、運転手が帰りに迎えに行くまでの間に街をあてどもなく徘徊して、つくし様の行方を探し歩いているようなんですよ」
 当然、当てずっぽうで探し歩いても、この広い東京、そして日本で目的の人物に出会えることなどあるはずもない。
 そして聡明な戒がそんなことをわかっていないはずもなかった。
 「お小さかったですけど、たぶん多少は記憶にあるんでしょう。つくし様のご実家のあったあたり、それに西門様や三条様のお屋敷にも出向かれたそうですよ」
 「三条桜子」
 たしか当時、つくしとそれなりに仲良くしていた相手だ。
 司にも含みがあったようだが、つくしと離婚して以来、親友の婚約者としてほとんど交流もなく、顔を合わせれば社交辞令で挨拶を交わすくらいなものだった。
 たしかに桜子であれば、つくしの行方を知っている可能性はある。
 「それで?わかったのか?」
 桜子はつくしの行方を話したのか?
 「いえ、それが…現在、ご実家のお祖母様が病気療養中だとかでドイツに行ってらして」
 「…そうか」
 そうしたこともあって、既にかなり長く婚約しているにも関わらず、いまだ桜子はあきらと結婚していなかった。
 「どうされるおつもりです?」
 「どうする?」
 真剣なタマの問いかける顔に、ほろ苦く小さく笑う。
 それは存外に儚く、今にも消え失せてしまいそうな力ない笑みで…。
 「いずれは話す。だが、今はまだ時期じゃないだろう」
 「…………」
 「あいつは…つくしは、今、東京にいない。…俺とは別の男と結婚して、他に家庭を持ったことを、戒はまだ受け入れられないだろうからな」




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