「愛してる、そばにいて」
第4章 凍える牙①

愛してる、そばにいて0268

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~第4章 凍える牙~


 「おかえりなさいませ」
 「おかえりなさいませ」
 出迎えた数人のメイドたちの挨拶に小さく頷き、玄関へと足を進める。
 彼の父などは、使用人たちの挨拶には全く応えることはなかったし、彼自身も愛想良く応えるほど如才ないわけではなかったが、それでも完全に無視することはなかった。 
 開け放たれた重厚な両扉の玄関ドアを潜り抜けると、広大なエントランスのシンデレラ階段の昇り口に幼い子供が蹲っている。
 そしてそのすぐそばで若いメイドと一緒に子供を見守っていた老婆が、戒の気配に気がついて振り返って微笑んだ。
 「おかえりなさい、戒坊ちゃん」
 「タマ、ただいま」
 「学校はどうでした?何かいいことがありましたかね?」
 彼が帰宅すると必ずタマはそんなことを開口一番に尋ねるが、そうそう毎日変わったことがあるはずもなく、戒は小学生に見合わぬこまっしゃくれた仕草で肩を竦める。
 「にーに!にーにぃ!!」
 階段のステップに一心不乱にミニカーを並べていた幼児が、戒の姿に一転、興奮して歓声を上げ出す。
 数段だがそれなりの高さがある階段のこと。
 歩けるとは言っても、まだ足元の覚束無い子供が飛び出して行くには危険だと、慌ててメイドが子供を抱き上げる。
 「佑都(ゆうと)坊ちゃん、危ないですよっ」
 「おやおや、小さい坊ちゃんは、大きな坊ちゃんが帰ってらしたのが本当に嬉しいと見える。そんなに興奮して、…ふふふ、可愛いお口からまた盛大に涎が出ちゃってるじゃないかね」
 クツクツと笑う老婆と、子供を抱き上げたメイドが顔を見合わせ微笑ましく笑い合う。
 しかし、当の戒の方はフンッと鼻を鳴らしていちべつしたのみで、両手を自分へと伸ばしている子供を完全無視して、階段の横を通り過ぎる。
 「坊ちゃん、食堂の方に、パティシエがおやつを用意してますよ」
 「後でいい」
 「お兄ちゃまと一緒に食べたくて、佑都坊っちゃんもおやつを我慢して待ってたんですよ?」 
 「どうせ、そいつが狙ってるのは俺のおやつだろ?虫歯になるだの、体に良くないとか言って、あの人がほとんど味のないパンみたいのや甘くないのばっかやってるから飽き飽きしてるんだよ。俺を待ってたんじゃない」
 「…坊ちゃん。小さいお子ですから、そういうこともあるかもしれませんけど、佑都坊ちゃんは、お兄ちゃまが本当に大好きなんですよ」
 タマが悲しそうに顔を歪める。
 その顔を見ていたくなくって、戒は視線を反らして、空々しく周囲を見回しわかりきったことを口に出す。
 「そういえば、あの人は?いないの?」
 「若奥様ですか?」
 「NYの人も来てるんだろ?」
 「…坊ちゃん、おばあさまですよ」
 「ふっ、あっちもロクに俺と顔を合わせやしないんだから、別になんて呼んだって同じだろ?たしか、昨日夜遅くにこっちに着いてるって聞いてたけど?」
 冷めた表情には、特になんの苦痛も哀しみも浮かんではいない。
 けれど、戒を幼い頃から見ていて、またその父によく似た性質を熟知しているタマには不憫でならなかった。
 しかし、それをいざ指摘してしまえば、かえって意固地になってしまうのもこの父子の因果なところなのだろう。
 「奥様は…」 
 タマが口を開きかけたところで、先ほど閉まったばかりのドアが開き、使用人たちの出迎えの声が聞こえ始める。
 「帰ってらっしゃったようですね」 
 「…………」
 振り返った戒とタマの視線の先、使用人たちの出迎えの声をバックに傲然と歩み進む、彼の父―――道明寺司がゆっくりと姿を現した。
 「若旦那様、おかえりなさいまし」
 「パーパ!!」 
 「……………」
 三人三様、家族のそれぞれの出迎えに、顔を上げた司がゆっくりと微笑みを浮かべる。
 「帰ってたのか、戒」
 「……お帰りなさい」
 しかし、応える戒の声音は淡々として義務的で、かつての幼い頃のように父への愛慕は欠片も含まれてはいなかった。
 だが、そんな戒の反抗的な態度にも動じることなく、司は鷹揚に頷き、我が子の屈託に気がつかぬフリで…それとも本当に察していないのか、あくまでも柔らかく話しかけてくる。
 「英徳の小等部ではヤンチャしてるらしいな」
 「そ?」
 「校長からいろいろ聞いてるぞ」
 「…そうでもないと思うけど」
 「おやおや、そんな困ったところまでお父様とソックリでらっしゃるんですか?」
 タマの渋面に司が苦笑する。
 「俺よりずいぶんマシだ」
 「そりゃそうですよ。少なくても戒坊ちゃんは、屋敷の物を壊したり、使用人たちに暴力を奮ったりしませんからね」
 自分の幼少期のあれこれの藪ヘビを知っている老婆の言葉に、肩を竦める司の仕草は先ほどの戒とソックリだ。
 本当によく似ている。
 誰もがそう言うように、司も…そして、戒も自覚していた。
 それだけに、タマにしてみれば戒がよけいに心配だった。
 本性は司と同様に気性が激しく、不満があれば暴力や破壊行動に走ってもおかしくはないというのに、実際の戒は表向きそういう性質を顕にはしていなかったから。
 …あのお人の血かねぇ。
 あるいは幼い頃に施されたつくしの教育と、そして愛情の残り香が今の戒をカタチ取り、本来の凶暴性を抑え込んでいるのかもしれない。
 しかし、抑圧されたものは抑えれば抑えるほど、大きなストレスとなってしまう。
 やがて注ぎ込みすぎた杯から水が溢れ出るように、戒の憤懣も爆発しなければよいがと、老練なタマなどは思う。
 「まあ、皆さん、おそろいでどうなさったの?」
 「おかえりなさいませ、若奥様」
 「ただいま、タマさん。いつもすみません、佑都を見ていただいて」
 華やぎに満ちた気配と明るい声音の若い女が、司に数分遅れて玄関口に現れ、タマや使用人たちに会釈する。
 「戒君、お帰りなさい。私たちの方が早く帰れると思っていたのに、先に帰ってたのね」
 「短縮授業だったから」
 それでも一応は返事を返す戒へと嬉しそうに遥香が微笑み、ついで「あっ」と小さく声をあげ、軽く両手を叩き合わせた。
 「そうね、そうだったわ。ごめんなさい、私ったら、うっかりしてたわね」
 教師たちが校内会議を行うからと、短縮授業になることはあらかじめ学校からの配布物で知らされていたことだ。
 「…あなたでも、うっかりすることがあるのね」
 「お義母様」
 「奥様」
 「…………」
 「…………」
 ――道明寺楓。
 一族が一堂に会したというには、あまりに冷え冷えとした邂逅だった。




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※時系列…

第2章 『罪』

***

***

第1章 『泡沫に沈む月』

第3章 『風になる日』

第4章 『凍える牙』

となります。
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更新ありがとうございます☆楓、登場しましたねー!最終目標の大河原財閥を手に入れる為、どんな風に画策していくのか楽しみです(^.^;☆
頑張れ!策士・楓☆なーんちゃってf^_^;★

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