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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第四章 夢の続き①

夢で逢えたら136

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 大事な時、肝心な時にこそ、寝こけるつくし。
 十何年も離れていたから、すっかりこの女のそんなクセ?を忘れていた。
 クークー気持ちよさそうに眠っている顔が、妙にあどけなくて、幼く見えて、思わず司は伸ばしかけた手を引っ込める。
 仕方なく溜息一つで様々な思いを拭い去り、つくしを抱き上げた。
 レンは左側のドアへ向かって消えていったから、反対側がつくしの寝室だと目星をつける。
 …ずいぶん軽いんだな。
 いつもは、小さな体いっぱいに活力と生命力をはち切らせている女だったから、彼女の小ささを感じることはあまりなかったが、こうして目を閉じ、頼りなげに司に身を任せていると、こんなにも儚く脆弱な存在だったのだと司に思い出させる。
 司を平気で罵倒し殴り飛ばす女。
 司を間違っていると糾弾し、人生を生きるということ、人を愛すること、そのために戦うこと…それらを身をもって体現する強い女。
 なのに、こうしてその勝気な目を閉じているだけで、司に泣きたくなるような庇護欲と愛情を感じさせた。
 思わず感情のままに抱き寄せた女を、ギュッと強く抱きしめる。
 「…俺が守ってやる。絶対にもうお前に哀しい思いも、苦しい思いも、寂しい思いもさせねぇ。どんなことがあっても、お前の傍を離れねぇ」
 苦しいほどの想いに耐え兼ねて、司は呟いた。
 …と、つくしがふっと目を覚ます。
 「…牧野?」
 つくしは寝ぼけているのだろう、その眼差しは夢に揺蕩って茫洋としている。
 だが、つくしはポツリと呟いた。
 「あんたはあの時、来てくれなかったじゃない。痛くて、苦しくて、悲しくって、寂しかった。あんたが、恋しかった。なのに、あんたは、あたしの傍にいてくれなかった」
 そして、そのままつくしの瞼が閉じ、スーっという小さな寝息と共に眠りの世界へと戻ってゆく。
 こみあげる哀切と、悔恨に苛まれ、司はもう聞こえぬ耳元で小さく囁き返した。
 「…ごめん」
 それはたった一言に込められた、17年分の謝罪だった。
 
 つくしをベッドに横たえ、しばらくその寝顔を堪能した後、そのままそこにいると自分の自制心に自信がなくなってくるのを感じて、司はキスを額に一つ落とし、早々につくしの寝室を出た。
 時計を確認すると、深夜の2時。
 呼び出そうとすればもちろん運転手に否やはなかっただろうが、さすがにこの時間では躊躇する。
 むろん、どんな有事が起こるかわからない立場なので、真夜中のNYを歩いて徘徊するほど愚かでもない。
 …しょうがない、明け方までここで仮眠とっていくか。
 昔のつくしのボロアパートと異なり、空調も快適に完備され、季節は春ということもあって、居間のソファでゴロ寝しても支障はなさそうだ。
 むしろ問題は大きさの方で、185cmある長身には3人がけのソファとはいえ、体を伸ばして寝転がることは不可能である。
 背に腹は代えられず、肘かけに頭と長い脚をかけ、仰向けに横たわる。
 と、何気なくつくしの部屋のドアを眺めていて、ふとそのわきにあるキャビネットの下に落ちているハンドバックに気が向いた。
 どうやら、つくしを抱いて横を通行した時に、つくしの手だか足だかが触れてしまい、床に落下してしまったらしい。
 そういえば、二人で呑んでいる時に、やたらとハンドバックを気にしてたと気が付いて、ソファから起き上がり、ハンドバックの傍に歩み寄る。
 そして、小さなそのバッグを拾い上げようとして、転がる小さな箱に気が付いた。
 そのいかにも高級なベルベッド地の掌サイズの正方形の箱。
 自分もかつて取り寄せたので、一目で何であるか予想できる。
 ヴァンクリーフ&アーペルの指輪。
 石留めの見えないミステリーセッティングと呼ばれる独特な細工をなされた指輪は、つくしの好みや彼女の細く華奢な指先に似合う繊細な作りだ。
 つくしの為に、つくしに似合うものをという、単に高価か否かだけではないつくしへの深い愛情から選ばれた逸品。
 …類か。
 類以外にありえない気がした。
 もちろん、見た目が地味だというだけで、あしらわれた宝石の一つ一つ、細工、ブランドからして一廉の人物でなければ用意できない品でもあったが、こうまでつくしの為だけに作られた一品であるかのようものを選べるのは類しかいないと確信する。
 プロポーズされたのか。
 そして、ここにその指輪があるということは…。
 自分の用意した指輪は、つくしに見てもらうことさえされず、今も邸の執務室の引き出しに眠っている。
 「…チッ」
 見続けているとそのまま持ち去って、完膚なきまでに破壊してしまいたい衝動に駆られそうで、司は乱暴にハンドバックに箱をねじ込み、元通りにキャビネットの上に置いた。
 そしてそのまま、ソファに戻り、ローテーブルの上にあった酒瓶を手に取る。
 そのまま氷も入れず、グラスに入れたウィスキーをストレートのまま口に含むと、一気に飲み干し、久方ぶりの眠れぬ夜を思い、嘆息した。



 時々、ポッカリと真夜中や明け方に突然目が覚める時がある。
 怖い夢をみたわけでもなく、具合が悪いわけでもない。
 ただ、ただ、理由もなく目が覚める瞬間。
 たいていは、そのまま再び寝入るのだが、その時はなぜだがすぐに眠る気になれず、つくしは重い頭を抱えながらベッドから足を下ろした。
 「うっ、我ながらお酒臭い…朝になったら二日酔いに泣きそう」
 いくら夜が明けても仕事ではないとはいえ、失業中の身の上。
 こうやって、呑んだくれているなどつくしには言語道断だ。
 そういえば、司はどうしたのだろう。
 「…てか、私、いつの間にベッドで寝たわけ?記憶がまったくない」
 ここまで飲むのは本当に久しぶりだ。
 元々弱いこともあって、深酒することなどまずありえないのだが、ましてや自分だけならまだしも、赤の他人の男が傍にいて酒を過ごしてしまうなどありえない。
 しかも、過去のみならずイロイロ訳ありの男なのだ。
 今更、酒に酔ったところを襲われるとも思わないが、それにしても我ながら警戒心がなさすぎる。
 酒のせいだけではない頭痛に襲われて、頭を押さえながら、リビングへと出ると、大きな体を縮こめるようにしてソファーで眠る司が目に入った。
 「…道明寺」
 よほど疲れているのか、無理な姿勢ながらかなり深い眠りらしく、つくしが身動きしても起きる気配はなく、聞こえる寝息は規則的だ。
 司が眠っているのを良いことに、男の傍にしゃがみこみ、気が付かれないように覗き込む。
 癖の強いクルクルの巻き毛、若い時に何度も密かに見惚れた秀麗な美貌、つくしにだけ見せたあどけない寝顔。
 躊躇は一瞬だけ。
 震える指先で、そっと頭を撫でると、ピクピクと瞼が震え、つくしは思わず手を引っ込めた。
 やっぱり高校生の時とは違う。
 当時もほとんどなかったが、無駄な贅肉はそぎ落とされ、少年の持つ幼さは消えて、精悍な大人の男の顔になった。
 それも当然だ。
 あれから、17年。
 赤ん坊が、高校生…つくしと司が出会った年齢になるほどの月日が流れたのだから。
 なのに、そんなにも長い年月が流れたというのに、この震える指先はなんなのだろう。
 ドキドキと胸打つ鼓動の音は?
 軋るような愛しさと、堂々と触れることを許されない哀しみと寂しさ。
 男が寒さを感じたのか、ブルリと震え、丸々ように寝返りをうった。
 溜息を一つ吐き、消化しきれぬ思いを断ち切るように、つくしは立ち上がり、自分の寝室に戻って毛布を持ち出す。
 男の体に毛布をかけると、つくしは踵を返しかけ、キャビネットの上に置かれたハンドバッグに目を止めた。
 チラリと司を振り返り、ハンドバックの中身を確認する。 
 類に渡された指輪。
 手に触れるなめらかなベルベッドの肌触り。
 これを差し出した時の類の真剣な眼差しを思い、つくしは右手で目を覆い隠す。
 『返さないで。俺の気持ちを絶対に受け取れないっていうのなら、それは捨てて。俺はいらない』
 それは、14年前のあの最後の別れの時と同じ目をした類の残像だった。




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月日

17年という長い歳月の中での司つくし、其々の人生…。
涙が出てしまいました(T ^ T)
つくしは司のようにストレートに単純に動くことが出来ない性格。
ケ・セラ・セラとまでは行かないまでも、少し人に頼ることを良しとしてくれると良いのですが…
また、類の想いも切なくて…
きゃ〜八方塞がりな展開。
今後どうなって行くのか益々、楽しみです。
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