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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑥

愛してる、そばにいて0264

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 「……………」
 「……………」
 「……………」
 沈黙が続き、司が総二郎の問いかけに答えないのだろうと二人が思い出した頃、司が重い口を開き始めた。
 「仕方ねぇだろ。俺が憎い、俺といると虫唾が走る。自分を餌に俺をハメてまで、俺といたくねぇっつーんだからよ」
 何食わぬ口調を装ってはいたが、声の調子ほどには彼が苦痛を感じていないわけではないことは、長い付き合いの総二郎とあきらには容易に察せられた。
 「幸せにしてやりたいのに…、幸せでしょうがねぇって笑わせてやりてぇのに、俺が原因で不幸にしてんじゃ本末転倒だろ。……さんざんぱら地獄の底に叩きつけておいていまさらだけどよ」
 「司」
 「………」
 本当はこの腕に抱きしめたまま、自分の傍に縛り付けて置きたかった。
 冷たくつくしを突き放して、もう二度と戒に会わせない、道明寺家とは関わるなと言いながら、彼女の顔を見てしまえば、足元に跪いて、赦してくれと縋り付いてしまいそうな自分を司は自覚していた。
 …ざまあねぇ。
 だが、それほどに愛してる。
 愛して、愛して…ただ、彼女が恋しい。
 今にも腕を伸ばして、何があってもお前をどこにも行かせない、この腕に閉じ込めて他の誰も何も見ることは許さないと、抱き縋ってしまいそうな自分のエゴと狂気を抑えることがいかに難しかったか、彼女にはわからなかっただろう。
 「あいつの笑顔は、マジすげぇ綺麗なんだぜ」
 「…………」
 「…………」
 「俺が間違ったことすっと、すぐ殴る蹴るするような凶暴な女だったけどよ、絶対に間違ったことをしたことがなかった」
 「そうか」
 それなのに、つくしに過ちを犯させしまった。
 つくしは真っ直ぐで、情の深い本当に優しい女だった。
 彼女を襲わせ、集団で虐めさせた彼さえも許したような女を、あそこまで歪めてしまったのもまた彼の罪。
 どんな悪も罪も…、罰さえ彼はけっして恐れはしない。
 彼女を手に入れるためなら、どんな非道をも成し遂げることに躊躇する司ではなかったけれど、その彼女そのもの…誰よりも愛しい女の魂を濁らせ、昏く澱ませていまうことだけは耐えられなかったのだ。
 …あいつにあんなことをさせてしまった。この俺が。
 司がかつて彼女の心を壊してしまった時のように、なおも彼がつくしを縛り付け続けてしまえば、きっと彼女の魂は穢れてしまう。
 今度こそ完膚なきまでに彼女を壊してしまうだろうと。
 二度と彼女を壊してしまうことは、もう彼にはできない。
 なぜなら、つくしこそが今の彼を作ったのだから。
 神話の彫工ピグマリオンが、石でできた石像に‘愛’を持って命を与えたように。
 心を持たない木偶人形を、人に作り替え…ただ彼女を愛することだけの為に生きる一人のただの男へと変えてしまった。
 「お前たちの本当のところは、第三者の俺たちには、全部が全部わかるわけじゃない」
 「…………」
 「けど、……お前の奥さんをしてた牧野は幸せそうだったよ」
 あきらの言葉に総二郎も無言で頷いて、司が泣き笑いに小さく笑う。
 「そうだな、俺もそう思う」
 らしくないとは思いつつ、そんな友の横顔に言わずにはいられなくて、総二郎が自分でも信じていない可能性を口にする。
 「思い出すかもしれない」
 「…思い出す?」
 司はそんな総二郎のお為ごかしを鼻で笑った。 
 口にした総二郎自身でさえ信じられないものを、司が信じられるはずもなかったからか。
 いや…きっとそうではないだろう。
 誰よりも、それを願い待ち続けていたのはこの当の男だっただろうから。
 しかし――、
 「俺の女房だった頃の記憶が戻るのを期待して、あいつのこれからの何年だか、何十年だかの人生をまた縛るのか?」
 「…………」
 そうするには、司はもはや彼女を愛しすぎていた。
 きっとそうだ。
 つくしがいなくては息をするのさえ、こんなにも辛くて…苦しいばかりだというのに、それでも彼女を壊せない…忘れられない。
 たとえこの身が滅びて灰になったとしても、せめてその一掴みの灰が彼女の傍らに辿りつくことができるなら本望だと司は思う。
 「それに…思い出したとしても俺を赦しはしねぇだろうよ」
 「司」
 「すべては夢幻。あいつにとっては俺が作った悪夢だったんだからな」
 「お前らは愛し合ってた。…幸せだったんだろ?」
 なおも言い募るあきらや総二郎から顔を背け、目を瞑り、その脳裏にただ一人の女の姿を思い浮かべる。
 『司』
 彼女の笑顔が見えた気がした。
 彼を愛している、ずっとそばにいると夜毎に囁いてくれた女の姿が。
 「ああ、幸せだった。愛してた…いや」
 …今も愛してる。
 ずっと、ずっと…永遠に、この身が滅びるその瞬間まで、きっと自分は彼女を想い続けるのだろう確信を持って司は頷く。
 「司、おふくろさんを恨んでるか?」
 「…いや」
 それは司の正直な気持ちだった。
 意外そうな顔をした総二郎やあきらへと首を振り、手の中のグラスの酒の最後の一滴を飲み干した。
 カラン。
 つい先程まで少しも揺らぐことがなかった氷が、グラスの淵にあたって小さな音を立てる。
 そろそろつくしは、新しい住処へと辿り着いた頃だろうか。
 彼女の…司のいない新たな世界と人生の入口へと。
 もうすでに司は彼女に逢いたかった。
 …あいつに、逢いたい。
 「司?」
 「恨むも恨まねぇもないさ」
 つくしが母親に唆されたのだと思い当たった時、殺意を覚えるほどの憎悪を楓に感じたのは確かだった。
 もしかしたらあの母親が関与しなければ、お人好しなつくしのことだ、あるいは司に絆され、彼といることを許容する日がいつか訪れる可能性もなかったとは言えない。
 そんな虫のいい期待をしなかったことがなかったわけではなかった。
 だが、それもまた結局、責任転嫁に過ぎず、いつか来るだろう破綻を先延ばしにしただけのことだったのかもしれない。
 『土台のない虚構の上に作った城は、しょせん砂の城でしかないのよ』
 母親の言葉が蘇る。
 その言葉の真実を悟っていながら、愚かさを贖うことができず、間違いを正すことができなかった自分はなんと卑小で愚劣で、そして…脆弱な人間だったのか。
 そしておそらく、今もそんな当時と大して違いはないのだ。
 たとえ虚構であっても、彼女が笑ってくれたなら、その虚構を積み重ねる努力を辞めることはできはしなかっただろうから。
 …もう一度、あいつの本当の笑顔が見たかったな。
 ガタンと音を立て、フラつく体を椅子についた手で支えながら、司は席を立つ。
 「司、お前…道明寺を出るつもりなのか?」




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