「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑥

愛してる、そばにいて0265

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 あきらの問いかけにチラリと振り返った司が、一瞬虚をつかれたように目を瞬き、一瞬の後にニヤリと唇を歪め笑う。
 内心はどうであれ、その顔にはすでにいつもの自信と精悍さが蘇り、先ほどまでの切なさや悲哀はその傲慢な表情に覆い隠されてしまっていた。
 「ふっ…なんでだよ?そんなことするわけねぇだろ、バーカ」
 悪態をつく司の憎々しげな顔に、総二郎とあきらが顔を見合わせ苦笑する。
 「お前な、バカはねぇだろ、バカは」
 「ガキか」
 「はん」
 軽く手を振り、そんな二人を置いて、司は見慣れた屋敷の廊下へと足を進め寝室へと向かう。
 道明寺を出る―――。
 そんな選択肢が司にあるわけがなかった。
 つくしの為にだったならば、道明寺を出ることなど一分の迷いもない。
 だが、つくしは…彼を愛してくれたつくしはそんなことを望みはしないだろう。
 彼女が望んだのは司が司であること、彼がありのままの‘道明寺司’であること、ただそれだけだった。
 人は彼を道明寺家の御曹司としか見なかったが、そうした生まれもまた彼の一部であり、戒が道明寺から逃れられないように、司もまた生まれた瞬間から死ぬその時まで道明寺司以外の何者でもないのだということを、つくしが教えてくれた。
 『あんたが本当に今の場所から逃げ出したいというのなら、私はどこまでもあんたについてゆくよ。でも、あんたは違うよね?そういう男じゃないでしょ?だったら、力の限り戦ってよ。それでこそ、司だもの』
 そう言って、常に彼の尻を叩いて戦いに向かわせて…そして、病み疲れた彼を癒してきたのも彼女だったのだ。
 今、司が道明寺を捨てれば、生き残りをかけて組織再編を余儀なくされている財閥の方針は、ワークシェアやレイオフなどの緩和策を押し出した中道路線から、一気に従業員削減への道へと踏み出すだろうことは間違いない。
 また対外的にも、今ある姿とはまるで違う道を進むことになりかねなかった。
 非道な手段で他社を飲み込み、切り捨て倒産させてしまうこともありえる。
 道明寺財閥という強大な企業は、その力を掌握する者の能力や裁量によって、国家的経済にも波及しかねない大きな影響力を有しているのだ。
 …派閥闘争しまくったあげくに、あっちこちに食い荒らされて潰したとかもシャレになんねぇしな。
 大量の失業者、貧困…多くの不幸が生まれるだろう。
 そうなれば、結局、財閥関係者が恨まれるのは自明の理。
 そうしたことの前例が、大型プロジェクトの契約解消に端を発して倒産したウィルバー鉄鋼関連会社の人間たちが、司や道明寺家を恨み、彼ばかりではなく彼の家族へと凶刃を向けた誘拐事件や襲撃事件だ。
 本来会社関係者ではないつくしや戒には関係ないことであっても、人の怨嗟や憎悪はより弱い相手…容易に付け入ることのできる存在へと挿げ替えられ易い。
 正しく財閥の関係者である司や楓を害することができなければ、その害意はつくしたちに向かいかねないのだ。
 …それだけはさせられねぇ。
 また財閥内にも派閥がある。
 司の父が健在で、彼の後継者としての地位が磐石だった高校時代とはまた事情が違った。
 かつて財閥を強大な権力で掌握していた父が数年前に病で倒れ、第一線を退いて後、楓や司の地位を虎視眈々と狙う親族たちの轡も緩んでいる。
 彼らが微妙な立場の戒を利用しようとすることも、大いにありえる。
 つくしの存在は戒にとってアキレスの踵だが、同時に彼女にとっても戒と関わり続けることは、諸刃の剣だった。
 せっかく司との関係を絶っても、道明寺家の後継者の実母という立場は、彼女の自由を束縛し、再び道明寺家の相克と権力闘争に巻き込まれかねないものなのだ。
 だから、恨まれるのを承知でつくしを戒から遠ざけもした。
 …お前はお前が望んだとおり、自由に生きればいい。
 そして…、司の前にはかつてのつくしが彼へと指し示し続けた道がある。
 弱者を切り捨て強者の論理で動く大企業にあって、せめて司だけでも財閥で働く従業員たちの盾であってくれ、会社を潰すようなマネをして社員たちを路頭に迷わせるなと願い、鼓舞した女自身が去っても、その意志は今なお司の中に残っていた。
 …誰がどうなったって、俺の知ったことじゃねぇけどな。
 しかし私利私欲を望まぬ彼女が、そうしてくれと司に唯一願ったことだったから。
 …だから、俺は戦い続けなきゃなんねぇんだ。
 彼女の意思を捨てる時こそ、真実彼の中からつくしが失われてしまうことなのだ。
 そして、また司が道明寺財閥を掌握し君臨すればこそ、今後起こりうる有象無象、つくしや戒への災厄を庇護する存在であれる。
 世を拗ねて下野することは簡単だったけれど、弱者のままでは愛する者たちの誰一人守ることができない。
 そのことを今の司は重々承知していた。
 「…チッ、さすがに飲みすぎたか」
 それでもあきらの気遣いで酔い潰れるまでの醜態を晒すことはなかったようだ。
 フラつく体を壁についた手で支え、なんとか家族の私室へと辿り着く。
 何度、心躍らせこの道を通ったことだろう。
 …もうすぐ彼女に逢える。
 それだけを縁に。
 しかし、それももう…。
 司がドアノブに手をかけ、回すまでにわずかな間があった。
 が―――。
 大きく肩で息を吐き、ノブを掴んだ手に力を込め、押し開く。
 キィ~っとわずかにドアが軋む音を立てて開いた。
 『お父さんっ!』
 『お帰りなさい、司ぁ』
 「……ふっ」
 一瞬耳に届いた幻聴が、空気に融けて、わずかに乾いた笑みを彼の口元に浮かばせる。
 常夜灯のままの居間をすり抜け、夫婦の寝室へ。
 当然のごとく、数ヶ月ぶりに訪れた寝室は物音一つ、人の気配さえもない。
 ただ、ふわりとわずかに香ったその匂いは、いつの頃からかつくしがつけ出した香水の匂いなどではなく、長く馴染んだ彼女自身の甘い香だった。
 その匂いの呼び起こした切なさと懐かしさ、哀しみ…そして、恋しさ。
 ツンと走った鼻梁の奥の痛みに司は顔を顰め、何度も目を瞬かせ、指先で抑えた鼻頭から顔を手で撫で、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 「んっ…ん……ふぅ…っ」
 喉に絡んだ咳払いの湿った音に気がつかないフリをする。
 しかし、なんとか絞り出した呼気は、みっともなく震えて我ながらおかしいくらいに弱々しかった。
 引き寄せられるようにして歩み寄ったベッドへと深く腰を下ろして、司はそれに気がついた。
 Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen.
 ―――何があってもお前を放さない。




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