「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑥

愛してる、そばにいて0263

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 グイッと、司はあきらが作った水割りを再び一気に飲み干す。
 酒の薄さに顔を顰めながらも、それでもあきらの心配を司なりに受け入れているのだろう。
 目の前のバーカウンターに立つあきらへと、無言でおかわりを催促する。
 それにため息をつきつつ…、
 「ハッ、いくら水割りにしてたって、そのペースで飲んでりゃ大して変わりもしねぇな」
 飲みたい…飲まずにはいられない友の苦悩と哀しみを慮り、文句を言いならもあらたな酒を作ってやる。
 総二郎の方は自分のペースを守ったまま、特に司を急かすでもなく…おそらく、彼が何も語らず口を噤んだとしても、司自身が望まないのであればそれ以上踏み込むつもりがないのは明らかだ。
 それでも司は饒舌なタチではない男だから、一応はあきらや総二郎が話しやすいようにと水を向けてやるのが、彼ら幼馴染みの間での定石だった。
 「どうせお前のことだ。離婚しても黙って牧野にSPつけてんだろ?」
 「ああ」
 道明寺家の軛から逃れたがっていたつくしには不本意な話だ。
 当然、道明寺家にいた時分に彼女につけていた中野や、顔見知りの人間ではなかったから、万が一にもつくしに気がつかれることはあるまい。
 「…バレたら、ますます嫌われるぞ?」
 嫌われる…そんな生易しいものではないだろうが、あえて軽口を叩く総二郎の言い分に司が鼻で笑う。
 「ふん、いまさらだな」
 「だな」
 「まったくだ」
 一気飲みし続けていた司も、小さな笑いに多少は気持ちを取り直したのか、あきらからあらたに渡された水割りは、一口だけ口に含んで口の中を潤すに留める。
 「バレるような間抜けをつけたつもりはねぇけど、そん時はそん時だ」
 「…お前と離婚したのが日本だったのは良かったのか、悪かったのか」
 「そうだな」
 道明寺若夫人として精力的に活動していたヨーロッパの社交界や一般大衆紙では、かなりつくしは顔と名前が売れている。
 しかし、日本では帰国してまもなく、彼女が過去と現在の記憶を入れ替えてしまったため、ほとんど表に顔を出すことがなく、また、つい最近まで道明寺一族が置かれていた世間的悪感情への警戒として、司が一家の顔写真を公表することを控えていたから、ヨーロッパやアメリカほどにはつくしは顔が知られていなかった。
 それでも、彼女が若くして道明寺財閥の御曹司に見初められて結婚したと持て囃された当時、『現代のシンデレラストーリー』として大々的にマスコミにも取り上げられてしまっている。
 一般大衆の興味と好奇を煽って、道明寺家に対して、強引につくしとの結婚を認めさせたのが、当の司自身だった。
 当時のことをまだ憶えている人間もいるだろうし、人は利に結びつくことに関しては驚く程の記憶力と推察を発揮するものなのだ。
 「あいつの意向がどうであろうと、しばらくは知らん顔してるわけにもいかねぇだろ」
 「離婚に関しての記者会見はやらねぇんだったよな?」
 芸能人ではない司だったが、それだけ彼への世間の注目度は高い。
 あきらや総二郎、類にしてみても似たようなところはあったが、そうした世間の関心をあえて利用してきただけに、司の場合は特に顕著だった。
 「ああ」
 「再婚に関しては?」
 「さあな」
 本人のことだというのに、離婚に比して再婚に関しての司の答えはおざなりで、その‘再婚’が、いかにも彼にとってどうでもいいことであるのは明らかだ。
 ドライな総二郎はともかくとして、人の良いところのあるあきらにしてみれば、正直神崎に同情するところがないわけではない。
 だが、司なのだ。
 さんざん不特定多数の女たちとの恋愛遊戯に耽ってきたあきらや総二郎とは違う。
 正直、妊娠を目論んだことを別にすれば、たとえ当事者であっても彼ら二人であれば、司ほどのダメージは受けなかったに違いない。
 してやられてプライドが傷つけられることはあっただろう。
 しかし、同じ状況に陥れられたとしても、司ほどに苛烈な拒絶反応を示すことはなかっただろうし、むしろ堂々と体を張って迫られれば、情に絆され色仕掛けも通じたかもしれなかった。
 結局のところ、人は自分の成したことは自分で責任を取るしかないのだ。
 彼らの結婚生活が、司を知る誰の目から見ても破綻することが目に見えていたとしても。
 むしろあきらにしてみれば、それらすべてをわかっていて画策しただろう司の母親の方こそを罪深く思う。
 「一応派手な報道は抑えたが、俺と離婚したことでどうしてもあいつのことは注目されてる。庶民出身で、高校の後輩だったことくらいは普通に知られてるし、結婚した当時は過熱報道もあって、あっちの実家や中学時代の出身校とかにも取材があったくらいだしな」
 「まさに現在のシンデレラ。玉の輿の代名詞てか」
 そして、それを司は止めなかった。
 つくしを手に入れる。
 そのためだけに、あらゆるものを利用し、そして…彼女を手に入れた。
 「慰謝料か」
 「ああ」
 世に聞こえた道明寺財閥の離婚の慰謝料だ。
 誰が聞いても莫大な物であると思わない者はないに違いない。
 「蛇の道は蛇っつーもんな」
 「たしか、都内にそこそこの物件の家屋敷用意して、管理会社に丸投げした高級賃貸マンション数棟丸ごと生活費がわりに譲渡したんだろ?周囲から見たらちょっとした一財産だな」
 もちろん有形のものだけではないし、ちょっとしたどころか、目に見えるものだけでも桁違いの財産だろう。
 「いや、最初に用意したもんはいらねぇっつーし、それこそ迷惑だって言うからな。本当に最低限だけだ」
 司が苦笑する。
 自分がつくしに言い放った言葉が、返す刀で返されただけのことだったが、それでも何も感じないでいることができない自分の弱さが可笑しい。
 誰に何を言われても、どう思われても構わなかったが、彼女だけには否定されたくなかった。
 拒絶されたくなかったのだ、ずっと。
 「マジか」
 「へぇ?」
 さすがのあきらと総二郎も顔を見合わせた。
 が、すぐに総二郎が肩を竦める。
 「ま、むしろ、俺からすれば、あの四角四面つーか、妙に要領の悪い女がよく受け取ったって気もするが…」
 ごく短い期間だったが、高校時代身近に接したつくしはそういう女だったように総二郎は記憶していたし、ごく最近、お茶の手習いで接した彼女はまさにその通りの女だった。
 彼らに取り入ろうとする者たちばかりの中、特権階級に位置する彼らにも平然と歯向かうだけでなく、彼らの持つ物に対してもおもねることがなかったのだ。
 だからこそ、頂点に位置する司にも靡かなかったのだろう。
 誰もが羨み、切望したその場所…司の妻という座をいとも容易く捨て去り、一人孤高の荒野へと旅立って行った。
 「ふっ、貧相な生活送られたらこっちの威信に関わる。母親を無一文で叩き出した父親だと、戒に俺を恨ませるつもりかって捲し立ててやったっからな」
 情愛の深いつくしが相手だったからこそ、通じた言い草だ。
 「………そもそも生活できねぇだろ?高卒?大卒だったか?」
 「大卒だな。一応、あっちで通信でだが、大学卒業の資格はとらせてたんだよ」
 「なるほど」
 道明寺家の次期総帥の奥方だ。
 たとえ後ほど、追い出す算段が司の両親の腹の中にあったにせよ、無教養、無学歴のままに放置することは許せなかったのだろう。
 実際、司と彼の両親の亀裂は、彼らがNYに在住していた数年間でさらに広がってしまっていた。
 一つにはもちろん、許されざる結婚を選んだ司との相克もあったし、息子夫婦への仕打ちが大半だったが、彼らが庶民出身のつくしに架した過剰な嫁教育への司の反発と反抗が確執を深めたのだ。
 「能力自体は元々あるやつだし、一時期無茶な英才教育で神経症になりかかるくらいにババアが詰め込もうとしやがったこともあるが、それも概ね吸収していた」
 「そっか。ガッツあるやつだったもんな」
 誰もが恐れ、逆らうことをしなかった司や、彼らF4を相手に正面切って宣戦布告し、全校生徒を相手に戦った女だ。
 雑草のように強く逞しく…そして、太陽のように明るく、誰よりも優しい温かな女。
 「司、…お前、よく手放したな」




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