「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑥

愛してる、そばにいて0262

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 「若奥様」
 沈鬱な面持ちの使用人一同に、深く礼をして、つくしがニッコリ笑う。
 そんな彼女の明るい晴れ晴れとした笑みに、戸惑ったように顔を見合わせていた一同も小さく唸き、淡い笑みを返した。
 その中で、いつも彼女を送迎してくれた運転手が進み出て、つくしの荷物を受け取ろうと手を差し伸べる。
 「若奥様、お荷物を」
 「…いえ、相良さん。あたしはここで」
 一人一人に言いたい言葉はあったけれど、すでにここに至るまでに別れは済ませている。
 もっとも言葉を交わしたいタマとは、すでにロスアンゼルスの司の姉の屋敷で。
 対面を望む椿とは、結局会わずじまいだった。
 …だって、何を言ったらいいかわからなかったし。
 とりあえず今の自分の心境と、これまで世話になったことを丁寧に手紙にしたため、タマには託した。
 不義理なことだったかもしれないが、おそらく今の彼女には椿に伝えられる言葉は何もない。
 見知らぬ他人の目で自分を見る義妹を見せ哀しませるくらいなら、弟を見捨てたひどい嫁よと憎まれる方がいい。
 タマから伝え聞く椿の人となりは、そんなつくしを憎んだとしても、戒のことは愛し守ってくれるだろう人だから。
 「若奥様、新しいお住まいまでお送りします」
 たしかに都内とはいえ、バスと電車で向かうには一苦労だったけれど…。
 「いえ、歩いていきたいんです」
 「そんな、こんな寒い日に」
 「そうですよ、雪も振りそうです」
 使用人たちが口々につくしに思い留まるよう声をかける。
 みな、すでに事情はある程度知らされていた。
 彼女がこの屋敷を去り、新しい女主人がやってくることも。
 けれど、彼らはこの権高くなく、人の良い女性が好きだったのだ。
 司との不仲もある程度は察してはいたが、それでも彼女が優しい女性であることは誰もが知っていた。
 戒に接する態度だけでなく、使用人一人一人に対する思いやりや心遣いが彼女の人となりを十分に皆に知らしめ、彼女を慕わせた。
 「それに、屋敷の敷地は門に行くだけでも大変な距離なんですよ」
 「全然、平気です」
 「若奥様?」
 見上げた空は、そろそろ春も近づこうという季節だというのに、雪が降りそうに暗く重い雲に覆われていた。
 よく見れば、チラチラと淡雪が降り始めている。
 …もっと雪が降ればいい。
 ふと、そんな事を思う。
 降り積もった雪が、屋敷から去る彼女の足跡を…これまでの過去からの痕跡を消し去ってくれればいいのにと、そう思った。
 「自分の足で歩いて行きたいんです」
 ここに連れて来られた時には、自分の意思ではなく…また自らの足でもなく、気がついたらここにいたから。
 だからこそ、しっかりと自分の足で大地を踏みしめ、自分の意志と足とで歩いて出てゆきたかった。
 ぶわっと吹き込んだ風が、一瞬彼女の長い髪を散らし、彼女を背後へ――今屋敷を出ようとしている彼女を見守っているだろう司へと視線を向けさせかける。
 瞬間――、
 …つくし。

ままさん…愛してる、そばにいて②

 司の声が聞こえた気がした。
 彼に抱きしめられた気がした。
 ふわりと香った甘いコロンの匂いに、つくしの中の別の彼女が悲鳴をあげて、彼のもとへと帰りたいと切望するのを感じる。
 しかし、つくしはけっしてもう振り返らなかった。
 「じゃあ、皆さん、ほんとうにありがとうございました」
 再び深々と頭を下げ、今度こそ振り向かずに真っ直ぐに門の外を目指して、つくしはその一歩を踏み出す。
 「若奥様!お元気で」
 「お元気で!!」
 「どうか、ご健勝でっ」
 皆の見送る声を後に、一歩を踏み出すたびに、つくしは自分があらたに生まれ変わるのを感じていた。
 …剥がれ落ちてゆく。
 あたしじゃない、あたし。
 重くのしかかっていたすべてが剥がれ落ちて、自由になるのだ。
 …本当の自分。
 本来のつくし、‘牧野つくし’である彼女へと還る。
 つくしは、今、真実、彼女の信じる明日へと向かって歩きだした。



*****



 カラン。
 揺らしたグラスの酒はすでに飲み干してしまっていて、手探りで探し出した酒瓶を手に取り、まだ大きな塊のままの丸い氷の山の上へと注ぎ込む。
 ドポドポドポ。
 ゴクゴクゴクッ。
 「フ―――ッ」
 カッと臓腑の奥まで焼けるような強い酒が酩酊を運んでくれることを望んでいるというのに、キリキリとした痛みをもたらすのみで、アルコールに強い彼には少しも効いてくれない。
 …ふっ、因果な体質だぜ。
 いっそのこと、部屋中にある酒瓶でも一気飲みして急性アルコール中毒にでもなって死にたいくらいの気分だったが、それでも残った理性が、そんな自分の自暴自棄な気持ちをたしなめ制御していた。
 どうせ酔えない酒だ。
 そろそろ体を酷使する愚かなマネは辞めなければならないだろう。
 そうでなければ―――。
 「おいおい、そうかとは思ってたけど案の定、このありさまかよ」
 「……司」
 呆れたような総二郎の聞き慣れた声と、あきらの咎めるような心配げな声が、背後からかかって、司は我知らずフッと笑う。
 振り返るまもなく、酒のグラスを抱えた彼の両サイドを、馴染んだ親友二人が囲み、あきらが司のグラスを取り上げた。
 「…それでも一応、ロックにしてるところが、けっこう冷静なのか?」
 「水で割るほどじゃねぇけどな」
 「水ぅ?そりゃ酒じゃねぇだろ」
 「ハァ」
 ため息をついたあきらが、仕方なく座ったばかりの椅子から立ち上がって、世話を焼く。
 だいぶアルコールの入っている司には総二郎に酒じゃないと言われた水割りを、総二郎と自分にはロックで酒を作り、それぞれに配布する。
 「あいかわらずマメなヤツ」
 「つまみはねぇのかよ」
 「…俺はバーテンダーじゃねぇぞ」
 ボヤきつつも、あきらはミニバーの冷蔵庫や棚を漁って、チーズとスナック類を皿に盛り付け配膳し出す。
 そんなあきらをカウンター越しに見るともなく見ながら、総二郎が琥珀色の酒を口に含む。
 そして、司を見ないままに、
 「で?牧野はもう行ったのか?」
 「………ああ」



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