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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第四章 夢の続き①

夢で逢えたら134

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 対面に座る女を眺めながら、司も勧められたウィスキーに口をつける。
 何も言わないうちにつがれたウィスキーのロックは、高校生の頃、よく司が好んで飲んでいたもの。
 偶然かもしれなかったが、そんな些細なことが嬉しく、自分のそんな初心なところが司は自分でも面映ゆい。
 女に潔癖だったあの頃はいざ知らず、記憶にも残らないほどの人数の女たちと関係を持ち、あらゆる汚濁も経験してきた。
 純粋だとか、一途だとか、真剣だとか、そんな言葉とはかけ離れた人生。
 それが、この女のを前にするだけで、胸はドキドキと高鳴り、言いたいことの半分も言えていない気がする。
 すでにつくしには酒が入っていたのだろう、司が部屋を訪ねてきた時から微かにアルコールの匂いがしていた。
 よくよく気を付けてみれば、頬はほんのりと薔薇色に上気し、いつもは意志の強い光を浮かべている宝石のような瞳もトロンと潤んでいる。
 やべぇ…。 
 下腹の辺りに、熱く重苦しい馴染み深い感覚がズクンと駆け上ってきそうで、司はそんな自分の気分を散らすように言葉を続けた。
 「…お前さ、今、好きな男っているの?」
 「へ?」
 あっと思った時には、思わぬこと…いや、心ではいつも聞きたいと思っていた言葉がついて出て、内心では焦っていたが、口に出してしまったものはしょうがないと、司は開き直る。
 「お前に付き合ってる男がいねぇのは先刻承知。なのに、俺をフりまくるのは、他に惚れてる男がいるってことなのかよ?」
 「フりまくるって…」
 「フッてるだろ?好きだと言えば、なんだかんだよくわかんねぇ理由つけてはぐらかす。プロポーズすりゃあ、頑なに断りやがって。あげくに、俺から逃走中だ。俺以外に好きな男がいるっていうならともかく、俺の何がいけねぇんだよ?」
 …逃走中。
 そのつもりだったのは確かだが、逃走したその日の夜に、こうして押し掛けられているのでは、逃走に成功しているとはいえまい。
 だが、酔っているところに、更に飲んだ酒がまわっているつくしは、そんなことには思い当たらず、ただ、何と答えて良いのか戸惑っていた。
 「…俺をもう愛してない、惚れてない。何度も言われるとめちゃくちゃムカつくけどよ、百歩譲ってお前の主張を受け入れたとして、お前は俺をけっして嫌ってねぇよな」
 「何を根拠に…」
 「俺のカン?」
 実際には、『嫌い』だと返されたらと内心ビクビクものだったが、ただ目を伏せただけでつくしが否定しなかったので、司はホッとした。
 「だったら、結婚はともかく、別に俺と付き合ったっていいじゃねぇか?…そりゃ、結婚を言いだしたのは俺だけどよ。お前が俺の女になるっていうなら、多少待ったってかまわねぇ。なのに、なんでだよ?」
 司の言うことはもっともでもある。
 以前にエリザベスにも言われたことだが、司は世間的に見て、地位も名誉もあり、もちろん金も持ってる。
 その上、イケメンでスタイル抜群、体の相性も悪くない…いわゆる人も羨むハイスペックな男なのだ。
 加えて、離婚歴があり子持ちとはいえ、列記とした独身。
 嫌いな男ならともかく、他に好きな男もいないのに、付き合うことさえも拒絶するのでは、司に納得されないのも当然だった。
 「類か?」
 憮然と吐き出された名前に、ドキマギしながらも、苦笑を禁じ得ないところもある。
 司の類への警戒心は故なきことでもなかったけれど、この構図はあまりに懐かしすぎる。
 つくしの苦笑が司にも伝わったらしく、司が眼光を強めて、つくしを睨み付けた。
 こ、怖いじゃないよ~。相変わらず、あんたは類のことになると、バカみたいにムキになるんだから…。
 「…昔から類、類って、気にしてるのはあんたの方じゃないのよ」
 「じゃあ、類になんのアプローチも受けてねぇって言うのかよ?」
 「……」
 嘘をつくわけにもいかず、口を噤むしかない。
 司はハアッと一息吐く。
 「俺が類にこだわるのは理由もねぇことじゃねぇぞ。俺はいつでも、お前に対しては真剣だし、余裕なんてねぇ。あいつはタダでさえ、お前の初恋の男で、いつでもお前の最大の理解者だった。…それが、十何年もたって、俺たちがこんな立場になったって少しもかわらねぇ。俺が焦らずにいられるかよ」
 「…道明寺」
 「しかも、やつは俺に真正面から宣戦布告しやがった」
 「宣戦布告?」
 つくしが目を瞬かせる。
 それをジッと見返し、だが、司はすぐに視線を反らす。
 「あいつは昔、俺とお前が付き合ってたから親友の俺に遠慮して、お前に手を出さなかったんだ。けど、今はあの時と状況が違う。俺にハッキリ、遠慮しねぇと、のたまりやがった。俺が心底、怖えぇと思うのも、お前を盗られちまうと危機感をおぼえるのも、結局、類の奴だけなんだ」
 「…それこそ、私からすれば、勝手だよ。あんたの中では、私にはあんたか類かの選択肢しかないわけ?私にだって、あんたたちの影も形もなかった十数年っていう時間が流れていたんだから、他に恋愛対象がいたっておかしくないじゃない」
 「だから、他に好きな男がいるのかって聞いてるじゃねぇか?類は違げぇぞ」
 つくしは司の言葉の意味がわからなくって、俯けていた顔を司に向け、首を傾げる。
 「類は違う。あいつはお前が、『牧野つくし』だから惚れてんだ。お前が一番こだわってる、今のお前じゃなくって、お前の中に14年前に惚れてた牧野を見ている。だいたい考えてみろ?俺以上にお前を愛している男がいっか?いままで愛した奴はいたか?お前が俺以上に惚れた男がいたのかよ?」
 「…っ」
 先ほど自分が再確認した思いを相手に言い当てられて、つくしは息を呑む。
 だが、それを簡単に認めるわけにはいかなくて、掠れる声を励まし、言葉を絞り出した。
 「…うぬぼれてる。相変わらず、傲慢で俺様なんだから」
 「おう、当たり前だ。人間そう変わるかよ。お前だって、なんだかんだ言っても、本質は変わってねぇよ」
 「それでも、やっぱり17年間って長いよ。あんたが言うように、そう簡単に乗り越えられない」
 「まったく、また、それか。だから、俺は別に過去なんてどうでもいいって言ってるじゃねぇか。お前が牧野でもキャサリンでも…」
 「違うよ、それだけが理由じゃない」
 司の言葉を途中で遮って、ぼんやりと部屋に飾られたレンと自分の家族写真を眺める。
 つくしはソファの上に両足を乗せ、その足を抱えて膝に顎を乗せた。
 「あんたさ、私とレンのこと調べたのよね?」
 「…ああ」
 「レンのパパがどういう出生の人で、ママ…セリがどういう人かってことも?」
 2人の一般的な経歴、生まれた時から出身校、結婚に至るまでの他に、通常の調査では知りえないことまで、道明寺財閥の力で調べ上げた。
 司とつくしの間で暗黙の了解だった事情が、いま、つくしの口から語られようとしている。
 いくら司にはつくしの過去や、背景など、彼女を愛する上で関係ない事とは思っていても、彼女の事情を知らずしてつくしの心を手に入れることなど叶わないことはわかっていた。
 だから、簡単な相槌だけで黙ってつくしの言葉に耳を傾ける。
 「ミッシェル・マーベルが、南米パラグアイの非合法組織…いわゆるマフィアの首領ルイス・アヤラの庶子。セリ・キャサリン・マーベルがアメリカでもそれなりに力のある日系企業のオカザキの庶子だということか?」




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人生イロイロある中での更新ありがとうございます

こ茶子サマに出会えたことに感謝。

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