「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑥

愛してる、そばにいて0261

 ←愛してる、そばにいて0260 →愛してる、そばにいて0262
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 『人の口に戸は立てられない。戒がお前と接触し続ければ、どうしても他人に痛くもない腹を探られるだろうし、実際に痛いことだらけだ』
 『………』
 長く細い息を吐いた司が、再びつくしを振り返った。
 『お前には相応の慰謝料を払うし、財産分与も…』
 『いらないっ!!』
 俯き体を震わせていたつくしが、カッと顔をあげ、司を睨んだ。
 その顔は滂沱の涙に濡れ、堪えきれない悲しみと苦しみ…憎しみ、その他さまざまな負の感情に覆われ引き歪んでいた。
 『いらない、そんなもの一円だって欲しくないっ!』
 …そんなものが欲しかったんじゃない。
 いつだって、この目の前の男はつくしから奪うばかりで、彼女が真実欲しいものは何一つ与えてはくれないのだ。
 つくしは悟っていた。
 自分が今、この男に完全に打ち負かされてしまったのだと。
 本当は言いたかった。
 道明寺家の御曹司などという立場でいるより、自分が育てる方がどれだけ戒を幸せに微笑ませてやれるかと。
 しかし、一方でこの男を慕っている戒の気持ちも知っていた。
 司はつくしにとっては不倶戴天の敵ではあっても、戒にとっては違うのだ。
 そして、司もまた戒を愛して可愛がっているということを、彼女には無視することはできなかった。
 それならば、もうつくしにとってこの道明寺家に未練など何一つないし、司と話すことなど何もない。
 元々、この男から、この家から、逃れて自由になりたかったのだ。
 『もう、いい。あんたと話すことなんて、あたしには何もない』
 望むことなど何もなかった。
 好きにすればいいと、つくしは踵を返して部屋の外へと向かう。
 だが、くっ、と笑う声が背後から聞こえて、思わずつくしは振り返った。
 振り返ってしまった。
 司が皮肉に笑っていた。
 つくしを嘲笑い、見下す…かつて見慣れた顔。
 『なるほど、それがお前の復讐の一つってやつか?』
 『…なによ、それ』
 憤しい。
 いっそこの人形じみた顔を切り刻んで、めちゃくちゃにしてやれば、スッキリするだろうか。
 そんなありえない、できもしない夢想を思い浮かべ、つくしはゾッと背筋を震わせた。
 …あたしは。
 『ガキのまんまの頭のお前が、何の準備もなく世間に出てマトモにやっていけると思ってんのかよ?』
 『よけいなお世話よ!』
 元凶であるこの男に心配されるいわれはない。
 そんなつくしの憤慨を鼻で笑って男は取り合わない。
 『世間は愛人を家に引き込んで、元妻を裸一貫で屋敷から追い出したと道明寺を嘲笑うだろうな』
 以前に桜子がつくしへと語った名家の対面。
 だが、そんなことはつくしには関わりがない。
 知ったことではなかった。
 『……………』
 司を無視してそのまま部屋を出ようとしたつくしのもとへと、司が足早に歩み寄り手首を掴む。
 『ちょっ!』
 ギョッと振り返ったつくしを見る司の顔はもう嘲りを浮かべてはいなかった。
 『離してよっ』
 『母親のお前を路頭に迷わせたって、戒に俺を恨ませたいのか?』
 『………!?』
 『お前が本当の意味で戒の母親だというのなら、俺やお前を慕う戒の心を守ってやれ』
 『…………』
 ゆっくりと離された手を引き寄せ、今度こそ、つくしは部屋のドアを開け外へ出た。
 『お前が俺の金も力も何一つ、一切受けとりたくないと言うのなら、それだけの力をつけろ。一端の人間とかいうやつになって、俺を見返してみろよ』



*****



 「ふぅ――」
 あらかた荷物の大半は新しい住まいに移してしまっているとは言え、当面の生活用品など細々したものは手で持って出るつもりだった。
 …途中で買ってもいいんだけど。
 妙なところで出てしまう自分の貧乏性に苦笑してしまう。
 とはいえ、ドレスや貴金属類など、これからのつくしには必要がない。
 ホンのわずかな着替えとささやかな小物類があればそれでよかったから、大半の物はこの道明寺邸に置いてゆく。
 司はとんでもない豪邸をつくしに分与しようとしたようだが、それだけはさすがに彼女に付けられた弁護士を通して固辞していた。
 …まったく、あの男は限度ってものを知らないのよね。
 司の言い分は受け入れた。
 彼の言葉の真意を察せられないほどには、つくしも鈍くはない。
 だが、それはそれ、これはこれだ。
 司を赦す赦さないは別の問題で、そして、もうこの先彼の人生と自分の人生が交差することがない以上、そうしたことももはやきっと意味を成さないことなのだろう。
 人を恨んで憎む不毛な人生を生きる必要はもうないのだ。
 …あたしはあんたを忘れる。
 この屋敷であったことすべてを。
 忘れられない、忘れることのできないただ一人の存在のことを除いて。
 なるべく小さく作ったつもりのバッグをヨイショと持ち上げて、ふとつくしはそれに気がついた。
 「あれ……?」
 バッグの取っ手を持った左手の薬指。
 いくら石鹸を滑らせ、引っ張ってもビクとも動かなかった結婚指輪の向きが変わっていた。
 「えっと、たしかこの石の部分って一番外側についてたよね?」
 もしかしたら…と、反対側の指で抓んで、エイヤっと力を込め一気に引き抜く。
 指輪はこれまでの頑固さが嘘のように、スルリと指先から抜けた。
 「や、やったぁっ!!」
 どちらにせよ、この屋敷を出た後、どこか専門の業者を探して、切ってもらおうとは思っていた。
 …良かった。
 しかし、やはりどうせなら、こうしたものはすべてここに置いて出たい。
 抜けた指輪を目の前に翳し、なんとなしに眺める。
 「あ………」
 指輪の裏に刻まれていたドイツ語の文字に気がつき、つくしは眺めるのを辞めて手の中に握り込んだ。
 Egal was kommt, ich werde dich nie verlassen.
 ―――何があってもお前を放さない。
 つくしは指輪を握り締めたまま、ツカツカとベッドサイドのサイドテーブルへと歩み寄り、手のひらを開いて指輪をそっと置く。
 …バイバイ。 
 今度こそ。




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【愛してる、そばにいて0260】へ
  • 【愛してる、そばにいて0262】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

指輪のメッセージ、何があってもお前を放さない、に感極まってしまいました
司が報いを受けるのは当然だしまだ苦しむべきだと思いますが、彼の想いは嘘偽りのない愛ですよね…最初の手段が間違っていたとしても

つくしはこれからどう自立しようとするのか…そろそろ類がまた出てくるのか…類の会社なんかで働き始めたら面白いですね(笑)
楽しみにしています、頑張ってください

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【愛してる、そばにいて0260】へ
  • 【愛してる、そばにいて0262】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘
女性に大人気!ビジネスから恋愛相談まで全部500円~!  
価格満足度97%、日本最大級のココナラに今すぐ登録!!

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘