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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0259

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 『戒をお前に渡すわけにはいかねぇな』
 会談に臨んだ司の執務室の応接。
 コーヒーテーブルを間に挟み、つくしと司は真正面から相対した。
 何度か神崎と仕事に励む司を、窓の外、中庭から覗いてはいたが、実際に彼女がこの部屋に入ったのは初めてのことだった。
 …こんな風になってたんだ。
 つくしが屋敷内で行動を制限されている場所などなかったが、あえて彼のテリトリーを訪れたいと思ったことがなかった。
 しかし、あえて家族の私室ではなく、司がこの執務室をつくしとの会談の場所に選んだのは、いったいどういった思惟ゆえのことだったのか。
 『戒は俺が引き取る。親権はもちろん、監護権についてもお前に渡すつもりはないし、今後一切、戒の養育や面会に関して、お前の関わりを道明寺家として拒否する』
 『……っ』
 司が親権を手放なさいだろうことはつくしも想定の範囲だった。
 またあるいは監護権に関しても、つくしの主張を受け入れないかもしれないとは思っていた。
 楓もそう予測立てていたし、つくし自身にしても、司が日頃どれだけ戒を可愛がっていたか実際に見聞きしている。
 しかし、よもやつくしの戒への関わり…養育どころか面会さえも拒否すると宣言されてしまうとは…。
 『そ、んな…そんな、どうしてっ!』
 監護権とは、子どもの近くにいて、子どもの世話や教育をする親の権利義務であり、親権の一部だが、たとえ親権は父親の元へと渡されたとしても、母親が監護権を有するのが一般的なのだ。
 ましてや、司は神崎と結婚する。
 すでに妊娠が確認されている彼女と家庭を持つ以上、もとより道明寺家に歓迎されていない立場の戒は、尚のこと不要の存在のはずなのに。
 父親の新婚家庭に、前の妻の子供が邪魔なのは貧富の差に関係なくよくあることで、たとえ新しい継母となる神崎がどんなに人のいい女であったとしても、戒にしてみれば実母のつくしと暮らした方が心安らかなのは目に見えて明らかだ。
 『あ、あたしはあの子の母親なのよっ?』
 『…母親?』
 顔を青ざめさせ、激昂するつくしとは裏腹に司の態度はどこまでも怜悧で沈着だった。
 これまでのつくしが知らなかった道明寺司。
 激易く傍若無人の少年でもなく、傲慢さの中に大きな包容力と熱い優しさを持つ男でもない、まったくの別人。
 『あんたが…戒を渡してくれないかもしれないとは、あたしも思ってた。でも、そう言われたからってあたしは黙って引き下がるわけにはいかないの』
 声を震わせ顔を強張らせながらも、ハッキリと言い返すつくしを見る司の目はあくまでも冷静だった。
 『なぜ?』
 『え?』
 一瞬、司の言葉を捉えそこねて、聞き返すつくしからわずかに視線を晒せ小さく吐息を落とし、司はソファからいきなり立ち上がった。
 ビクッ。
 怖じけるつくしをチラッと一べつしたのみで、以前のようにショックを受けることもなく、司が窓辺へと歩み寄る。
 そして、両腕を組んで窓に寄りかかり窓の外を眺め出す。
 『今のお前はあいつの母親なんかじゃねぇだろ』
 『なっ』
 淡々と吐き出された司の言葉に目を剥き、つくしは衝撃に言葉を詰まらせた。
 …母親じゃない?
 『少なくても、今のお前のそれは母親としての愛情じゃねぇよ』
 『道明寺っ!?』
 冷たい横顔からは、今彼が感じている感情を伺い知ることができない。
 だが、一つだけわかったこと。
 司が初めから、つくしの言い分を聞き入れるつもりは微塵もないのだ。
 『あたしは…』
 『…この屋敷がいったいどれくらいの金をかけて維持されてると思う?』
 『は?』 
 『お前たち庶民と言われる人間たちが想像もできないほどの莫大な金だ』
 『…………』
 司の話題の転換は唐突だったが、彼の言わんとしていることはつくしにも理解できないわけではなかった。
 『あたしには、あたしみたいなお金も地位も、何も持っていない庶民の女には、道明寺家の御曹司である戒を育てることはできないって言いたいの?』
 『そうだ。教育一つをとっても、今のお前が戒に十分な教育を与えてやれるか?』
 『それはっ』
 不本意ではあったが、つくしは戒を引き取る以上、本来の望み―――道明寺家との関係を一切断ち切きりたいという意思を、ある程度曲げることになっても、養育費他戒にとって必要なものの援助は受け入れるつもりだったし、申し出がなくても主張するつもりだった。
 …虫がいいとは思わない。
 たとえ、司や楓がそう思ったとしても、さすがのつくしもそこまで愚かではなかったから。
 今の自分がどれだけ非力か、世間を知らないかわかっていながら、自分の意地だけで戒を巻き込むつもりはなかったのだ。
 それなのに、司は言うのだ。
 『あいつは…この家しか知らない。俺と同じく、道明寺しか知らねぇんだよ』
 『………でも、それは』
 それは…なんと言おうとしたのだろう。
 自分の中の答えを探り出す前に、司は続ける。
 『それにたとえお前がそうした戒の戸惑いや違和感を補ったとしても、道明寺からは一生逃れられない』
 『逃れられない?』
 『戸籍や環境がどうであろうと、あいつが俺の息子であることは永遠に変わらないし、変えられない。戒の出生が世間に知られたとして、道明寺の保護を失った状態で、果たしてお前にあいつの身を守ってやることはできるのか?』
 ハッとつくしが司を振り返った。
 窓を見ていたはずの司もまたつくしを見ていた。
 交わった視線と視線。
 互いの目の中に理解を見出しながら、それでもつくしは認めたくはなかったというのに。
 『誘拐』
 『っ!』
 『…排斥もあるか。戒を守ろうとするなら、どうしたって道明寺の保護の中にいるしかないと、能天気なお前の頭にも理解できるだろ?』
 『でも、でも、それは…』
 それは…、どうすればいいと言うのだろうとつくしは自問自答する。
 司の言葉を認めることは、戒との別れを意味するのだ。
 『戒と一緒にいてやりたかったのなら、…お前は俺を我慢するしかなかったんだよ。道明寺の保護の下にいるのなら、最初から事を起こす必要なんかなかった。起こしてはならなかったんだ』




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NoTitle

更新ありがとうございます!!まさかの可愛さあまって憎さ百倍系の司登場ですかぁ・・。
 でも、進君は検事ですよね。ということは確実に弁護士資格は持っている訳でしかもやり手の代理人(つくしの)になれますよね。。
 

 どうせならもっと監護権やすくなくとも面会権については争うって欲しいし、日本の法律上いくら金持ちでもこういう形での離婚で母親側の主張が一切通らないということはほぼないですし、

母性愛はともかく、戒君を思い、母親としての役割の重要性も理解しているつくしなので、そのまま引き下がるとも思えないのですが・・どうなっていくのでしょう。。
 戒君ぐれちゃうってことはやっぱり司が言うとおりになるのでしょうか。予想がつかないです。
 

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