「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0258

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 「奥様、もうすぐ、道明寺邸の正面ゲートに到着いたします」
 「あ…はい」
 見るともなく外の景色を眺めていたつくしだったが、その運転手の声かけで、いつの間にか見慣れた界隈に到着していたことにやっと気がついた。
 一応、道明寺邸の者には、桜子の屋敷を出る前に連絡してある。
 特につくしが通話にでなくても、三条家の運転手が名乗るだけで、正面ゲートの門は開かれるだろう。
 …そういえば、いつの間にかSPも立たなくなったな、と思う。
 一時期――司がつくしと出席したパーティの帰り道、門前で襲撃を受けた直後一ヶ月ほどは厳戒態勢に置かれていた道明寺邸も、いまやだいぶ落ち着きを取り戻し、以前の事件の名残は少ない。
 とはいえ、さすがに約一年前、若夫婦が帰国した当時に比べれば警備も厳重だったし、間違っても一般人が敷地内に足を踏み入れることなどできはしないだろう。
 どこまでも続くような長大な外塀と、その奥に見え隠れする宮殿のような建物を透かし見る。
 この世田谷の屋敷に彼女が実際に住んだのは、司に囚われた16才の頃の約半年ほどと、日本に帰国した1年あまりの期間だけだったが、なんとたくさんのことがあったのだろうとつくしは小さく嘆息した。
 彼女にとって…苦悩と苦痛に彩られ、これまでけっして抜け出すことができなかった迷宮。
 …これで最後だ。
 この屋敷へと向かう道行は。 
 いつか…とこの日が来ることだけを待ち望んでいたはずなのに、それなのに、心は虚ろに凪ぐばかりで、空っぽな心に何の感情も浮かばないことが、つくしは自分でも不思議だった。
 そして、気が付けば、想いはどうしてもアメリカにいる戒へと回帰してしまう。
 傷つけたくない…守ってあげたいと願ったつくしの子。
 たとえ産んだことをや、生まれた日の喜びを憶えていなかったとしても、戒の彼女を見て輝く目や愛情の篭った甘える声音を聞くたびに、深まっていった愛着。
 『…離婚する?』
 つくしの口から出された言葉に、戒はポカンと口を開けたまま茫然としていた。
 それはそうだろう。
 自分の幼い頃を思い起こしても、もし両親がそんなことを言い出したとして理解できたとは思えない。
 それでも、何度も唇を舐め、驚愕している子供の視線の圧迫感を感じつつ、つくしは恐る恐る問いかけ直した。
 『えっと…、離婚って意味、戒、わかるかな?』
 驚きと…ショックとで見開かれたままだった戒の目が、二度、三度と瞬いて…、やがてはウルりと潤んでコクンと一つ頷いた。
 『わかる。お父さんとお母さんが、別の家の人になっちゃうこと』
 『…そうだね』
 ポツリと雫が俯いた戒の顔から流れ落ちて、暗く湿った子供の悲しそうなその声だけで、つくしの胸は締め付けられるような痛みに内心呻いた。
 『あとで…道明寺、戒のお父さんからも、お話があると思うけど、もう…お母さんは世田谷のおウチで、戒や…お父さんとは一緒に住まないの』
 住めないではなく、住まない。
 この言葉の意味を、戒が知る日が来るのは一体いつの日になるのだろう。
 そして知られてしまった時、この小さな子はつくしを恨み、憎むのだろうか。
 大好きだと、目を煌めかせて愛らしく甘えてくれたその口で、つくしを『お母さん』と呼んでくれる日はもう二度と来ないのかもしれなかった。
 ソファにちょこんと座っていた戒の小さな肩がブルブルと震えだし、司にそっくりなクルクルの巻き毛の頭が前後に揺れだして…。
 『えっ…ひっ…ど、…ヒクッ…えっ…ど、うして…どうしてえええっ』
 カクンと前倒しに戒の膝が崩れて、床へと膝をついて蹲ってしまう。
 『か、戒っ!?』
 床についた小さな手にボタボタと大粒の涙が落ちて、えっえっと、戒が泣き出し嗚咽を零す。
 コーヒーテーブルを挟んで対面側のソファに座っていたつくしが、慌てて回り込んで小さな肩に手をかけた。
 とたん―――、
 『うわあああああぁ、あああああ、ああああん、あああああん、ああああああああ』
 普段はお兄さんぶりたがる戒が赤ん坊のように絶叫して、傍らに腰を下ろそうとしたつくしの膝に飛び込んだ。
 そして、つくしの背中に回した小さな二つの手で、痛いくらいに彼女の背中の肉ごと服を掴み締め、涙にまみれた顔をグイグイとつくしの腹に押し付け泣きじゃくった。
 『やだああああ、やだああ、やだやだやだああああっ』
 『…か、…か、い…うっ』
 自分が引き起こしたことだ。
 すべては自分が選び、この事態を心のどこかで予測していながらも、それでも…この小さな子供の為に耐えることを選べず、結局自分の望みを優先してしまった。
 けっして泣く資格など自分にはないというのに、熱い塊が喉の奥から込み上がって、溢れる涙を耐えることなんてできなかった。
 この子がどんなにか大切になっていたことだろう。
 無垢な目で一心に彼女を慕ってくれるこの子を我が子だとは思えなくても、いつの間にか誰よりも可愛いく、憎しみと恨みに凝り固まって凍えてしまっていた彼女の心を安らげ癒してくれた。
 彼女の小さな天使。
 厭わしいばかりの10年の日々をそれだけではなかったのだと教えてくれた存在。
 それでも…、それでも、それでもなのだ。
 『…戒、ごめん』
 本当にごめんなさい。
 『俺もお母さんと行く。ずっと、ずっと、ずっとぉ!俺は、ずっとお母さんと一緒にいる。お母さん、どこにも行かないでっ、お母さん、おかあさああああああんっ!!』
 「……ぁあっ」



*****



 「ほんとうにありがとうございました。桜子にもよろしくお伝えください」
 道明寺邸の正面玄関に車をつけてもらい、数人のメイドたちが見守る中、つくしは送り届けてくれた三条家の運転手に頭を下げた。
 「お気遣いなく。お嬢様には、もしよろしければ、新しいお住まいにもお送りするようにと言付かっているのですが」
 「いえ、大丈夫です」
 丁寧だがきっぱりとしたつくしの断り文句に、三条家の運転手もしつこく食い下がることなく引き下がり去っていった。
 「…若奥様」
 見慣れた年若いメイドたちは、つくしと深く関わり特に親しくなった者たちばかり。
 そして、傍らに断つSPの中野もまた…。
 気が付けば、あれほど疎外感に悩まされ、厭わしいばかりだったこの屋敷にもそこかしこ、温かな思い出や人との関わりが出来ていたことに気がつく。
 戒、タマ、絵里、そば近く仕えるメイドたちや庭師たち、そして彼女の送迎をいつも担ってくれていた運転手に、護衛を勤めてくれたSPたち。
 そして―――。
 ふいに誰かに呼ばれた気がして見上げた窓の向こう、自分を見下ろす司と視線があって、つくしは驚きに目を見開く。
 …道明寺。
 まさか、司が屋敷にいるとは思わなかった。
 あの日…つくしたちの策略により司が神崎と望まぬ肉体交渉に及んだことが発覚した後、つくしが司と顔を合わせたのはたった一度だけ。
 あれほどどんなにつくしとの関係が殺伐としたものになっていても、屋敷に帰ることをやめなかった司が、パタリとつくしを避け、接触を持とうとはしなかったというのに。
 …当然のことだよね。
 それを寂しいとか思うことはなかったけれど、しかし、屋敷の部屋のそこかしこに司の気配を感じて愕然とすることはあった。
 まるであるべきものがないような、不思議な空虚感。
 あれほど彼がいることが厭わしくて、彼から解放されることだけを願っていたというのに…。
 神崎が妊娠したことや、離婚後のつくしの進退について、彼女に詳細を伝えたのは司によって差し向けられた弁護士と、あらたにNYから派遣されたという司の第一秘書の西田によってだった。
 たった一度の会談で再会した司の顔は、あの決別の日からたった二ヶ月弱の間で、一気に10才も年老いたようにつくしの目には映った。
 まだ年若く、けっして老いたという表現が相応しくない青年の顔は苦悩に老け込み、彼を恨み憎んで陥れたつくしでさえも息を飲まずにはいられないほどに様変わりしていた。
 『戒は渡せねぇ』




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