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愛人~2016年夏

Industrial Blue~慕情~ 【類×つくし】

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※写真:by ulyankina
愛人

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 平日の昼間の水族館は、予想の通りほとんど人影もなく、手を繋いで水槽を眺める類とつくしに興味を示す人間は誰もいなかった。
 それは薄暗い館内の環境もある。
 しかし、たとえ彼のその類まれな美貌に関心を持つ人間がいたとしても、その正体には気がつかなかったかもしれない。
 経済界の重鎮であるこの高名な青年が、妻でもない女と二人、こんなところで堂々と呑気に魚を眺めているとは、誰も思わないだろう。
 それでも――、
 …良かったのかな。
 ついつい青年の秀麗な横顔をジッと眺めてしまい、つくしの視線に気がついた類が、ん?と小首を傾げて不思議そうに彼女を見返した。
 その顔があまりに綺麗で、昔の少年の日の彼―――つくしの憧れの王子様だった頃そのままだったから、もはや純朴なだけの少女ではなくなってしまったというのに、間近で覗き込まれてつい赤面してしまう。
 「ぷっ…顔、真っ赤」
 「うるさいわね。そのやたらと綺麗な顔をわざと近づけて、あたしをからかうのもう辞めてよ」
 「だって、牧野があんまりに変わらないからさ。つい面白くなっちゃうんだよね」
 …変わらないものなんて、何一つない。
 だというのに、そんなイタズラっ子じみたことを言う類を見ていると、遠い過去へと戻ったような、そんな錯覚を抱いてしまう。
 懐かしいわけじゃない。
 たぶん、そうだ。
 それでも、過去、この青年と時を重ね合った時代を遠く思い出すことはあった。
 …もう本当に昔のことなのに。
 「バカなこと言ってないで、もっと気合入れて見てなさいよ」
 「気合?魚を見るのに?」
 「…そうよ、あんたが見たいってここに来たんでしょ?」
 つくし的には既婚者のこの男と、真昼間からこんないかにもなデートコースでデートするなど、ありえないことだったというのに。
 …ハァ、類に何か言われると、つい従っちゃうのよね。
 つくしの相変わらずの遠慮のない物言いに、類は小さく笑って、だが特に何を反論することもなく、繋いだままの手を引き次の水槽へと足を進める。
 「俺…大きな魚が、悠然と水の中を泳ぎ回ってるのをボウッと見てるの、けっこう好きなんだよね」
 「…ボウっとって」
 音に聞こえた大企業の専務がそんなことでいいのだろうか。
 …まさかいまだに三年寝太郎だとか?
 そんなはずはないだろうが、それでも彼を伺い見る彼女へとニッコリ笑う無邪気な顔を見ていると、まんざらありえない話でもなさそうで、つくしはわずかに頭痛を覚えた。
 「和まない?」
 「むむ…そう聞かれると、まあ、和むかな?」
 おべんちゃらというわけでもなかったけれど、好んで水族館に訪れるほどでもない。
 グルグルと渦を巻くようにして水槽の中を回遊する魚を眺め、つくしはわずかに顔を顰めた。
 「でも、…なんかこういう回遊魚っていうの?忙しなく動き続けなければ死んじゃう生き物って、あんまり好きじゃないかも」
 「動き続けなければ死ぬ?」
 「そう。回遊魚って泳ぐのを辞めると呼吸ができなくて、死んでしまうんでしょ?」
 まるで自分たち、地を這いずり回る有象無象の人間たちのようだ。
 …類たちとは違う。
 そんな風に思うのは、自虐的なことだろうか。
 とっくに諦めたそんな思いが、時々胸の奥を軋ませ蝕む。
 彼らと自分の世界が違うことなど、最初からわかっていることだったのに、その壁を越えようとした結果が…ひどく傷ついて、そして、類をも傷つけることになってしまったのだ。
 「それって、マグロとかカジキみたいな、一部の魚のことでしょ?」
 「え?そうなの?」。
 「大抵の魚はもっと自由で刹那的だよ」



*****



 ひとしきり館内の魚を眺めて、もうソロソロ出口へ出ようかというところで、ハンドバックに入れてバイブにしてあった携帯が、呼び出しをしていることにつくしは気がついた。
 ほとんど同時に、類も気がついていたようだ。
 「いいよ、出れば?」
 「あ、…うん」
 携帯の着信画面の名前に正直出るかどうか迷っていたのだが、そう勧められてしまうと、あえて無視をするのも自意識過剰のようで、つくしは唇を舌先で湿らせ、小さく吐息をついて着信ボタンをスライドした。
 「はい」
 『……つくしちゃん?』
 「うん、鹿嶋さん?」
 電話の相手は、現在海外出張中の婚約者。
 三ヶ月の出張の後、つくしとの結婚が決まっていた。
 『ごめんな、中々電話できなくて』
 気遣う言葉に、チクリと心が痛む。
 類と繋いだ手の重みが重く伸し掛る。
 しかし、そんな彼女の気持ちを察したように、握った大きな手が強くしっかりと握り直された。
 …類?
 『でも、結婚が決まったばかりで…ロクに打ち合わせもできないままに、こっちに来ちゃったからさ』
 「大丈夫。鹿島さんだって、そっちには遊びで言ってるわけじゃないし、少しでも時間があれば、咲良ちゃんに電話してあげて?」
 咲良は5才になる鹿島の娘だ。
 バツイチ子持ち。
 見合いで決まった縁だ。
 それでもそれこそが彼女の望んだ平凡で、穏やかな幸せへの道なのだろう。
 『そう言ってもらえると助かる。咲良ももうつくしちゃんのことママみたいに慕ってるし、お見合いからこっち、俺よりもずっと咲良の方がつくしちゃんにゾッコンなくらいでさ。早く俺に結婚してくれ、結婚してくれって、いつもせっつかれてるよ』
 「……ははは」
 高校時代の熱い恋の後遺症か、恋愛に臆病になってしまった彼女が見合い結婚を選んだのは、当然の帰結だったのかもしれなかった。
 分に合わない幸せを望むことの苦しみを十分に味わったから。
 …もう橋は渡らない。
 今度こそ幸せになれる。
 そのはずだった…目の前で、そんな彼女を感情の伺えないガラス玉みたいな目で、見ている彼さえ現れなければ。
 『じゃ、あと一か月くらいで帰るから。それまであんまり電話もできないかもしれないけど、勘弁な?』
 「うん、鹿島さんも無理しすぎて、病気になったりしないように気をつけてね」
 通話を切って携帯をハンドバックにしまい、なんとはなしに気まずく類を見上げる。
 「えっとぉ」
 「婚約者の彼、また夜に電話するって?」
 「…いやぁ、あっちも忙しいし」
 言外に否定したつくしを無感動に見下ろし、ふ~んと言った類の顔はどこか拗ねているように見えた。
 …そんなことないよね?
 つくしと婚約者の関係も恋愛ではなかったが、類との関係もまた…おそらく恋愛ではないのだから。
 とはいえ、それならばなんなのだと言われると、つくしにも今の類との関係を上手く表現することはできなかった。
 客観的には‘不倫’というのが一番相応しい言い方なのだろう。
 しかし、こんな関係に陥ってしまっても、いまだにつくしにはその自覚が乏しかった。
 それというのも…。
 …どうせ後一ヶ月限定のことだし。
 二人が袂を分かった6年前ですら、互いの間には歴然たる格差と障害が横たわっていた。
 その内の一つが、類とつくしの気持ちの温度差でもあったのだろう。
 司を愛していた。
 彼女を忘れて去っていった司を思い切れず、大事な親友だった類を空虚さの慰めにしてしまった。
 自分の弱さが彼を傷つけてしまったのだ。
 その後悔が、後にいつまでも心に残り続けて、あげく今になってこんな関係を結んでしまった。
 彼を振り回すだけ振り回して、一人逃げ去った過去の引け目が、こうして歪なカタチで彼と再び結びつくことになってしまったのかもしれない。
 …でも、もうダメだよ。
 いまさら遅い。
 あの頃でさえ逃げた自分が、さらに他人を傷つける道を選べるはずがなかった。
 もうすぐ終わるから。
 だから、せめてそれまでは…。
 「決めた」
 「え?なにを?」
 「今日は東京に戻ろうかと思ってたけど、せっかくだから、こっちのホテルに泊まろうよ?」



*****



 一歩、ホテルのスウィートに足を踏み入れた瞬間、振り向いて彼女を抱き竦めた類の雰囲気が一変した。
 陶磁器でできた人形のように体温などまるで感じさせない男が、一瞬で眼差しに強烈な魅惑を帯びた情熱的な情人に変わる。
 ビー玉みたいな薄茶色の瞳にジッと見つめられると、それだけで体中の熱が上がって、全身の力が抜けてしまう。
 クタリと寄りかかったつくしの体を支えて、類がクスリと笑った。
 「…なによ」
 「ん…そんなふうにうっとりした目で見つめられると、凄いあんたに愛されてる気がするなってさ」
 「しょってる」
 「そう?」
 熱くきらめく目で見つめられて、その圧力に耐えられずつくしが目を泳がせる。
 とても彼を真っ直ぐに見ていることなんてできなかった。
 だって、今はもう…たぶん類の言ってることは本当のことだったから。
 頬の熱さが、いくら口で否定しても彼の言い分を認めてしまっていた。
 「……冗談だよ」
 「え?」
 からかうようだった類の顔が、急に真顔になって、戸惑う彼女からわずかに視線を反らし困ったように苦笑する。
 「好きなのは俺の方なんだ」
 「……類」
 「あんたが好きだ、牧野。逢わないでいた間も…ずっと愛してた」




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