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ずっと君だけを見ていた…7話完

ずっと君だけを見ていた6

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 牧野との話し合いはずっとここのところ、平行線のままだった。
 話し合い?
 あんなの話し合いじゃないでしょ。
 一方的に宣言して、俺と切れるとか、俺が本気で納得するとでも思ってるの?
 けど、頑なに俺と別れる、これっきりだと一点張りに繰り返す牧野を無理矢理に屋敷に連れ帰ることなんてできなくて、結局、進の方を説得して、俺所有のマンションにしばらく間借りさせることを承諾させた。
 牧野のアパートなんて、セキュリティの欠片もないところだ。
 数日は進が有給を取って、泊まってくれたけど、いつまでもそのままでいられるわけもない。 
 牧野の方でも、さすがに現在のアパートに一人で住み続けるのは怖かったみたいで、渋々、当面は俺のマンションで過ごすことにして、今は、新しい住まいを探すんだと譲らない

 半月前とは天地ほど変わってしまった事情に、さすがの俺も溜息を禁じえない。
 それに、問題は牧野の頑なさだけじゃなかった。
 トゥルルルル、トゥルルルル…。
 滅多にかかることのないテレビ電話のコールに、大きく息を吐く。
 来たか。
 思ったより早くないのは、それでも良心が疼いたのか、あるいは一度は婚約を認めた俺たちへのあの人なりの配慮だったのか。
 いや、もちろん根は同じ。
 牧野もたぶん俺のそうした事情をあらかじめ予測していたからこそ、あんなことを言い出したんだろうな。
 深呼吸1つで、受話器に手を伸ばした。
 「はい」
 『私だ』
 予想に違わない相手からの通話は、内容も想像していた通りのもので、小さく笑ってしまった。
 それでも実際に連絡が入るまでほとんど脳裏にも浮かばなかったのは、やっぱり期待していたんだと思う。
 俺にとっての牧野の存在を理解してくれたんだから、経営者としてではなく、親であることを優先してくれるんじゃないかって。
 …俺も甘いよね。
 『……お前たちには可哀想なことだとは思う』
 沈鬱な顔したオヤジの顔は、すでにもう反論を許さない強固な意志が浮かんでいた。
 『牧野さんが悪いんじゃないということはわかってる。世間一般で言えば、同情されこそすれ、責められるべきことでもないということも。だが、我が家は一般の家とは異なる事情で成り立っている家だ』
 ようは、将来的に俺が花沢物産の社長として立つ時、牧野の事件が表沙汰になれば醜聞になるということだった。
 世間は面白可笑しければそれで良くて、実際の事実が捻じ曲げられることなんて珍しいことじゃない。
 そして、悪意ある人間が一人、二人いれば、それだけで社交界での牧野の立場などあっという間になくなってしまう。
 ましてや、牧野には司との過去もあり、後ろ盾のない身の上であればこそ、なおのこと。
 「それなら、俺が花沢を出ますよ」
 どのみち、オヤジたちにしてみたって、一時は俺に跡を継がせることをあきらていたくらいなんだ。
 オヤジも俺のセリフは予想していたらしたく、息を飲んだもののそれほどの動揺は見えなかった。
 でも、そのあとのオヤジから出た言葉は、俺には予想外で、その事情が俺の思惑通りに運ばせてくれなくなってしまった。
 『……アレがもう長くない』
 「は?」
 オヤジの言う‘アレ’というのは、俺の母親のことで、照れ性なのか昔気質なんだか知らないけど、昔からロクに名前を呼んでいることなんて聞いたことはなかったけど、このオヤジがオフクロを掌中の珠のように愛してきたことは、子供心にも感じていた。
 『ガンだそうだ』
 突然降って湧いたような現実。
 まさか、俺の母親までもが、牧野の父親と同じ病に冒されていようとは。
 …まあ、今や日本人の国民病みたいなものだけどね。
 不思議に、そんな風にしか感じられない俺は淡白というより、冷淡なのかもしれない。
 けれど、その時にはそうとしか考えられなかった。
 俺にとって牧野を失うかどうかの方が、子供の頃から馴染みが薄かった母親の生死よりもずっと大事なことだったから。
 それでもすぐには二の句が告げられなくって、何度か唾を飲み込んで、舌で唇を湿らせた頃には、顔を歪めた沈鬱な表情のオヤジの顔も冷静に見られていたと思う。
 「…だから、俺に牧野を諦めろと?」
 『アレはお前を束縛しようとはしないだろし、けっして、口に出して望みはしないだろう。彼女は、そういう女だ。だが、お母さんにとって、お前がウチを継ぐことが本願だったことはお前も知ってるだろ?』
 …知らないよ。
 そう言えればどれだけ良かったか。
 でも、俺は知っていた。
 跡継ぎが産めない石女など、オヤジと結婚後もなかなか子供が授からなかった母の苦労譚は等の母親本人からよりも、彼女が実家から連れてきた古参の使用人たちからよく聞いていた。
 それだけに、花沢の後継問題に関しては、母にしてみても内心では一言があったのも当然のことだろう。
 しかし、それはそれ、これはこれだ。
 「…すみませんが」
 『それに、牧野さんの方でもどうだ』
 俺がお袋やオヤジのことでは、ガンとして受け付けないだろうことは、とっくにオヤジにしてもお見通しだ。
 「…どういう意味です?」
 『お前が花沢を捨てるというのなら、すべて花沢のものはおいていけ。裸一貫無一文でもやっていけると思っているのか』
 「プッ」
 俺は噴き出してしまった。
 この人は俺をいくつだと思っているのか。
 たしかに家を出て、花沢の専務の地位を捨ててしまえば、今までような生活というわけにはいかないだろう。
 けど、俺もこの年になるまで、ただボンヤリと生きてきたわけじゃない。
 他人からはそう見えていたにせよ、彼女のそばにいたい、彼女の笑顔を俺の手で守りたいと思い決めた以上、自分が漫然と引かれたレールの上を歩んでるだけではダメだと気がついていたから。
 花沢物産から以外でも、それなりに収入を得ているし、今回のことはかなり予想外の事態だったけど、俺が家を出なければならない場合も含めて予測し、将来に備えて蓄えていた。
 俺の個人資産だけでも十分に牧野を食わせて行けるし、それなりの生活レベルも保てるつもりだ。
 もちろん、新しく会社を興すなり、俺だっていつまでも無謀無策のガキなんかじゃない。
 「俺を脅すつもりかもしれませんが、お好きにどうぞとしか言えませんよ。牧野だって贅沢な生活を望むような女じゃない。俺がたとえ裸一貫でやり直したとしても、逆に養ってくれるくらいの気概のある人だ」
 『…そうだな、そうかもしれない。だが、自分のせいで、お前がすべてを失ったとしたら、彼女はどう思うだろう?』
 「………」
 オヤジが突いてきたのは、まさに俺のアキレスの踵だった。
 実際に、とうの牧野が俺に別れ話を持ち出してるのも、そうした理由からだろう。
 彼女は自分のために、大切な誰かが傷ついたり、何かをなくすのをひどく恐れる女だった。
 『しかも、牧野さんのお義父さんの件もある。お前がどれだけ自分の甲斐性を見込んでいるのかしらないが、家を出たばかりで、彼女のお父さんの莫大な医療費が、お前を圧迫しないだけの力を保つことができるだろうか?そんなお前を見て、牧野さんは負担に思わないでいられるだろうか?』



*****



 「専務?」
 いつの間にか物思いに耽ってしまっていたらしい。
 秘書の怪訝に呼びかける声に顔を上げれば、いつの間にか俺が指示をしていた退社時間になっていた。
 「…ああ、ごめん。えっと、まだ今日中に片付けなればならない仕事、ある?」
 「いえ、なんとか今日のところはこれで帰っていただいても大丈夫です」
 「そう。じゃ」
 椅子を立つ。
 「お疲れ様です」
 「お疲れ」
 会釈する部下たちの間を通り抜け、無人のエレベーターに乗り込む。
 スラックスのポケットから取り出した携帯の履歴から、呼び出した名前に指先で触れる。
 すぐに呼び出し画面になってしまったのを切り、再びポケットに押し込んだ。
 ポケットに片手を入れたまま、疲労に頭痛を訴えだしている額に手を当て目を瞑る。
 「俺…どうしようか」



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なるほど…
お父さんの治療費はここにかかってくるんですね。
つくしと別れても類は幸せになれないんだし、お互いに不幸になる道を選んでもなぁ…
ずっとつくしちゃんを見届ける役目になっちゃうのかな…
どうか二人で生きていける道が見つかりますように。
見守る愛だけじゃ、切なすぎる…
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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