「中・短編+」
ずっと君だけを見ていた…7話完

ずっと君だけを見ていた5

 ←ずっと君だけを見ていた4 →ずっと君だけを見ていた6
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「これ…きりって何言ってるの?お前」
 類の声が掠れて、わずかに震えていたのは気のせいじゃないと思う。
 それだけじゃない。
 とても眠れなくて散歩に出たナースステーションで出くわした時の類の顔。
 真夜中に叩き起された疲労だけじゃなく、あきらかに抑えきれない動揺と心労に顔を青ざめさせ、類らしくなく取り乱していた。
 あたしと一緒にいると、いつもそんなことばかり。
 あたしはいつも彼にしてもらうことばかりで、なに一つ彼にしてあげられることがないんだ。
 きっと、これからもずっと。
 ううん、違った。
 これからなんてない。
 ボンヤリと眺めていた驚愕している類の顔から、見るともなく自分の両手へと視線を移した。
 手の皮膚の中からじんわりと滲み出す赤い何か。
 ああ…。
 ああ…。
 「あぁっ」
 心の中だけで呻いていたつもりだったのに、いつの間にか出てしまっていた自分の声に怯える。
 あたしの目にハッキリと映る、両手の真っ赤な汚れ――罪の証。
 「血、血がっ」
 さっきたしかに手を洗ったはずなのにと、手から伝わった震えが全身へと広がってゆく。
 「牧野?」
 「あぁ、どうしよう。あたし、あたし…」
 言いたいことが上手く言葉にならない。
 ブルブルと震えている両手を握り合わせて、まるで祈りを捧げるように口元に引き寄せ、ギュッと目を閉じた。
 その瞬間、あたしは目の前に蘇った光景に喉を引き攣らせて喘いだ。
 「牧野っ、牧野っ」
 自分もベッドに腰掛けた類が、あたしを抱きしめて肩を揺すぶる。
 それでも、消えてくれない。
 肉を抉って突き刺すあの感触。
 獣の呻きのような断末魔の悲鳴とドサリという人が倒れた音。
 濃厚な血の臭い。
 そして、そして…なぜだか瞑った瞼の裏に、チラチラと道明寺の顔がチラいた。
 ああ、そうか。
 あの時みたいだったからだ。
 あの赤い血が、あたしの大事なものをあたしの手の届かないどこかへと押し流してしまう。
 「あたしが…あたしが人を殺した」
 「殺してないっ!」
 「…殺したの。あたしが、あの男をっ」
 …あたしは、人殺しになってしまった。



*****



 錯乱状態になってしまった牧野を抱きしめ、ひとまずナースコールで医師を呼んで、鎮静剤を投与してもらった。
 やっぱり警察官が危惧していた通り、当初は感情や感覚が麻痺していたのだろう。
 あの狂乱の時の、牧野の虚ろな目が怖かった。
 興奮していることはたしかなのに、牧野が見ていたのは目の前の俺ではなく、その俺を通り越した別の何か。
 何が映っていたにしろ、それが彼女を怯えさせ嘆かせている。
 眠りながらも滾々と涙を流している牧野の目尻を、俺は指先でそっと拭った。
 …可哀想に。
 一夜で窶れてしまったように見える、青白い頬を何度も何度も撫でた。
 俺のこの想いが、少しでも彼女の心を慰めてくれるようにと、儚い祈りをこめて。
 俺もまだ全部が全部、把握しきれているわけじゃない。
 けど、連絡をしてきた警察と担当医の説明は聞いた。
 牧野が真夜中の夜道で襲われたのは完全に偶然だった。
 それまでもその界隈では、何度か痴漢の被害や露出狂のことが取り沙汰されてはいたらしい。
 どれにしてもたわい無い…って言っていいかわからないけど、今回の牧野に襲い掛った事件に比べれば遥かにマシな軽犯罪で、被害者や当の加害者が怪我をするようなものではなった。
 そんな物騒な通りが近所にあったなんて、迂闊さを責められるべきなのは俺の方だと思う。
 それでも牧野が普段通勤に使っている道は別の明るい道で、その時に限ってどうしてわざわざ遠回りになるその道を歩いていたのかは俺にもわからない。
 けど、肝心なのはそんな他人のこととか、済んでしまったどうでもいい行動の軌跡なんかじゃなくって、彼女が身も知らない男に襲われたってことなんだ。
 おそらく俺の婚約者だと、特定されて狙われたわけじゃなかった。
 強盗…もしくは、レイプ目的の犯人で、路上の暗がりで待ち伏せた牧野をナイフで脅して近場の茂みまで引き摺っていこうとしたらしい。
 ところが、牧野がなまじのか弱い女なんかではなく、気骨逞しい勝気な女だったのが裏目にでてしまったのだろう。
 ナイフを取り合って揉み合ったあげくに、牧野が相手を刺してしまった。
 もちろん、誰から見てもまごう事なき正当防衛だ。
 それでも、彼女が受けたショックは計り知れない。
 たぶん…。
 それにたぶん、牧野は司が港で刺された時のことも思い出してしまったんだと思う。
 薬による強制的な眠りへと誘われる途中、何度か、『道明寺』って呟いていた気がする。
 正直なところ、それがひどく胸に堪えてもいたけれど。
 「…今はたくさん眠りな」
 牧野の頬に唇を寄せて、チュッと1つキスを落とす。
 たとえ一時のことにしても、彼女の眠りが安らかだといい。
 牧野の頬は、涙に濡れてひどくしょっぱかった。



*****



 一通りの検査を終え、見た目の怪我以外に特に異常がなかった牧野は、予定通り一泊で病院を退院することになった。
 俺も一度は会社に出勤したけど、かなり仕事のスケジュールを秘書に詰めさせ、退院する彼女を迎える為に、すぐに病院に折り返した。
 そこには、
 「お久しぶりです。類さん」
 「進。来てたんだ」
 「はい。朝に姉ちゃんから連絡が来て、驚いて新幹線に飛び乗ってきたんですよ」
 進は花沢ではなかったけれど、大手の外資系商社マンで、現在大阪に赴任している。
 昨年は海外赴任の話も出たらしいけど、たぶんそれが立ち消えになったのは、お義父さんの病とも無関係ではないんだろう。
 あね弟二人とも親孝行で仲の良い家族だ。
 「今夜は東京?良かったら、俺のとこで泊まりなよ。牧野も一人でアパートに帰すのが心配だから、このまま屋敷に連れ帰るつもりだし」
 俺が出勤する時には、まだ眠っていた牧野には話さなかったけれど、屋敷の方では万事いつでも牧野を迎え入れられるように用意を整えさせてある。
 もう俺の両親もすでに日本を出ていて、牧野が気兼ねすることはないし、ホテルや俺所有のマンションに連れ帰るよりも、人目がある方が安心だと思ったから。
 …まだ、一人にするのは危険だ。
 昨日の惑乱する様子からもそれはあきらかで、今こうして平静に見えても、突然昨日のようにパニックに襲われることも十分ありえた。
 「…えっと、それが」
 困ったような顔をした進が、横で黙々と帰る身支度を整えながら、俺たちの会話を聞いていないふりで、だけどあきらかに気にしていただろう牧野の顔を伺った。
 進の視線に応えて、牧野が小さく深呼吸をして、俺へと振り返る。
 …良かった。少し、顔色良くなってる。
 俺と目があってしまったことにたじろいで、牧野がわずかに視線を反らせて…。
 「類」
 「……なに?」
 「あたし、昨日言ったよね?あなたとの婚約解消のこと」



◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ




web拍手 by FC2



関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【ずっと君だけを見ていた4】へ
  • 【ずっと君だけを見ていた6】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

私、この人のこういう所が、嫌いよ
迷惑かけるから、別れるとか、言うなら、最初からちょっかいかけなきゃ良いのに…
お金目当てだったんでしょ、お父さんの治療費の…玉の輿目前で、怖じけづいたのね

NoTitle

このコメントはなんなんの?!
署名見たら、納得した(爆笑)

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

すみません、コメントに笑ってしまいました!
いかにも、つくしが言いそうなことですよね。
でもやっぱり正当防衛でもなんやかんや言う輩はいそうだし…
それをはね除けることのできる強さや自信、類への信頼がないってことになるんでしょうかね。
まぁ今すぐにそんな自信は沸いてこないでしょうから、落ち着いたら二人で乗り越えてくれるといいなぁと思います。
もしや落ち着くの、何十年先とかありえる?!
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ずっと君だけを見ていた4】へ
  • 【ずっと君だけを見ていた6】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘
女性に大人気!ビジネスから恋愛相談まで全部500円~!  
価格満足度97%、日本最大級のココナラに今すぐ登録!!

┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘┘