「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0252

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 PiPiPiPiPi
 目覚まし時計のベルの電子音に、つくしは追憶から覚め、ギョッと慌てて周囲を見回す。
 「あ、あった」
 探すまでもなくすぐに窓辺で見つけ、停止ボタンを押した。
 …もう、5時なんだ。
 気が付けば、間もなく夜明けになろうという時間帯だが、それでも、夏の早い夜明けとは異なりまだまだ夜の闇が深い。
 …たしか、こっちって東京より日の出の時間が遅いんだっけか。
 それでも、そろそろ早番の使用人たちが活発に活動を始める時間帯になる。
 今はまだ、すべてを明るみに出すわけにはいかなかったから、神崎と一緒に眠っているはずの司に気がつかれることなく、すみやかに入れ替わらなくてはならなかった。
 場合によっては、見たくもないものを見るハメになることは覚悟している。
 それでも重い腰を上げるのには、まだもう少し時間が欲しい。
 『そうか、そうだったんですね』
 あの時、見えていなかった楓の心が、一瞬だけ覗いた気がした。
 もしかしたら、それさえもつくしの願いにも似た錯覚だったのかもしれなかったけれど。
 『あの時のあなたは、少なくてもあの子の敵ではなかったわ。でも今はどうかしら?』
 ビリリと空気が震えた気がした。
 『獅子身中の虫を懐に入れたまま、生き抜けるほど私たちの世界は甘いところではないのよ。どんな強い獅子も、身の内から喰われてしまえば、いとも容易く倒されてしまう』
 あの日、病床に伏した司の病室で、つくしを見た楓の目に浮かんでいたのは…。
 たしかなつくしへの憎悪と敵意。
 最初から楓はつくしの味方ではなかった。
 そして、今尚、ずっと敵のままだったのだ。
 『もし司を陥れようとしているのが、私じゃなかったら?真実、あの子を打倒して退けようとしている政敵だったとしたら、どうなっていたかしら?あの子を失脚させる、あるいは殺す計画にあなたが協力すれば、きっとたやすくそうした策略は成功してしまうわね』
 『お義母……道明寺さん』
 お義母さんと呼びかけ、この目の前の女性をなんと呼べばいいのかいいあぐねて、結局、無難に呟いた。
 『あなたはどう思ってらっしゃるかわからないけれど、司は元来とても用心深いタチなのよ。他人から渡された食べ物や飲み物に手を付けることは滅多にないし、身も知らない人間と二人っきりになることなどまずないことなの』
 それはおそらく司が幼い頃から受けた帝王学の一つの自衛策でもあっただろうし、他人を信じがたい環境や警戒心の強い元々の性質のせいもあっただろう。
 戒と同じように。
 『たとえ私が相手だとしても、今の司だったら容易に信じたりしないでしょう。…けれど、あなただけは例外なのよ』
 ――薄々感じていた。
 冷たい横顔をしか見せず、けっして本心を晒さない男が、つくしの前でだけは本音を語った。
 愛して欲しい、と。
 彼女にただそばにいて欲しいと。
 愛してる、そばにいてくれ、とそう言い続けた。
 おそらく…10年前のあの日にも、彼の目や態度はそうつくしへと懇願し続けていたのだろう。
 『これまで司は私が送り込んだどんな女性も寄せ付けることがなかった。それはどんな策略を弄したものであっても、同様よ』
 『……… 』
 『あなたならできるの。司を陥れることも、殺してしまうことさえも。あなたに引き入れられた敵に、司は地位ばかりか命だって奪われるのかもしれないのよ』
 激しい言葉とは裏腹に、その声音も司によく似た美貌にもなんら激情は浮かんではいない。
 それでも怜悧な女傑の中にも、その息子と同じ熱く激しく…不器用な心がある。
 『……あなたにとって大切なのは、会社だったんじゃなかったんですか?』
 『もちろん、そうよ。司は私の息子であり、同時に…次代の道明寺ホールディングスそのものなのだから』
 『…………』
 それは楓の欺瞞だったのか。
 あるいは真実彼女自身もそう信じていたのもしれない。
 彼ら母子の愛憎になど関わるつもりもないつくしには、どちらでも良いことではあったけれど。
 『あなたの信じる道、信じる未来を作るためなら、あなたの息子の心や人としての良心はどうでもいいんですか?』
 それは楓の息子への愛だったのかもしれない。
 いや、おそらくそうだったのだろう。
 司やつくしには見えなかったとしても、おそらくそこにも、彼女なりの愛があったのだ。
 人には人の数だけ、正義があり…そして愛があるのだから。
 しかし、いまだ年若く未熟なつくしには、楓の抱く愛情はあまりに彼女の知る愛とは隔たって、理解することができなかった。
 『ええ、そうよ。以前に、あなたに言ったわね?自分の信念のためなら、私はどんな泥を被ることも厭わないし、誰かを踏みつけ苦しめてもかまわない。それがたとえ司であっても同じことだと』
 司の立場や命を守ると言いながら、彼の心を踏みつけ、苦しめることも厭わないと言い切る楓の顔は、自信に満ちて、自身の正義をまったく疑っていなかった。
 …この人には通じない。
 わからない。
 だが、そうとわかっていても、つくしは司や戒の笑顔に言い募らずにはいられなかった。
 『それでも、あなたはあいつの母親ですか?』
 『あなたにわかってもらおうとは思っていないわ。あなたにはあなたの正義があるように、私には私の正義がある』
 けっして互いの正義が相容れることはないと言い切る楓が、つくしを見据えて冷ややかに微笑む。
 『勘違いしないでちょうだい。あくまでも、選ぶのはあなたよ。でも、もしあなたが、どんな理由からにせよ、司の隣に居続けようとするのなら、私が再びあなたの前に立ちはだかります。私は必ずあなたを、司の前から排除してみせるわ』



*****



 足音を忍ばせ、耳をつけた主寝室のドアの向こうはシンと静まり返っていた。
 窓の外の景色は、いまだ夜が空けてはおらず、微かな光が地平線を覗き始めているとはいえ、確認した時計の針は、すでに約束の5時を大きく回ってしまっていた。
 本来なら、眠っている司を一人残して、神崎が部屋を抜け出し、つくしのいる寝室を尋ねる予定だったはずなのに。
 何かアクシデントが起きたのだろうか。
 しかし、それにしては、司の声も神崎の声も聞こえてこない。
 …まさか、あたしが妙な夢を見たとか。
 そんなことさえ、脳裏を過る。
 …どうしよう。
 しかし、そうこうしているうちに、廊下の外にかすかな人の気配がし始めた。
 まだ早い時間帯だから、使用人たちも足を忍ばぜ声を潜めてはいるのだろうが、疚しさを抱え焦燥を堪えているつくしにはことさら大きな音に聞こえる。
 …ダメ、これ以上、待てないよ。
 たとえ昨夜の一連の出来事が、司から逃れたい故のつくしの妄想だったのだとしても、ただ手をこまねいて事が露見する以上の最悪の事態があるだろうか。
 事はなされた…おそらく。
 だが、一夜の過ちだけでは、離婚の事由には弱すぎる。
 それに司には白を黒にする権力があるのだ。
 たとえ、その一夜を前面に騒ぎ立てたとしても、それこそ楓と同様金と力で、神崎の実家を黙らせてしまい、世間を騒がせることすらできないかもしれなかった。
 …神崎さんだって、どうなってしまうか。
 神崎は捨て身だったが、司の意に沿わない行動をした以上、ただでは済まない。
 殺人以外なら、なんでもありえそうだ。
 少なくても、数ヶ月…この一夜の結果が出るまでの間は、司にも屋敷の誰にであっても露見してはならない。
 そのために、楓はタマと戒を遠ざけ、司の息のかかった者が多い屋敷を避け、舞台を遠隔地の別荘に選んだのだから。
 ブルリと底冷えする恐怖に素肌を泡立たせ、つくしは意を決して、ドアノブに手をかけ押し開ける。
 キィ~。




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ここで神崎さんがいなく、司は一人でことを為した展開だったら、どんなにいいか…
ってコメディに変わっちゃいますね、失礼しました笑
きつく抱き締めて眠っているとかは見たくないってのが本音です。
そして子供や赤ちゃんを巻き込む話もツラいのが本音です。
が、こ茶子様は大好きです。
やっと追い付きました!
(待ってない?笑)
コメントするだけで、ひーひー言っている私からすると(すみません…)こ茶子様はホント異人!?偉人?!ですね。。。
明日のあきつくスキップも、苦渋の決断とありましたが、勿論私からすると延期しても更新してくれようとするその熱意だけで、土下座ものです。
本当にありがとうございます!

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