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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0251

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 『どちらにせよ、戒のことは、あなたと司の問題なのだから、私は一切口出しをするつもりはありません』
 『そんなっ』
 つくしの胎から生まれた子だからと、戒を孫だと認めていないのではなかったのか。
 司が戒を手放したがらないと言うのならなおさらのこと、楓の助力が必要なのだ。
 たとえ彼女の策略が成就して、二人の離婚が成立したとしても、戒の親権の問題は別だった。
 世間一般常識的に考えれば、母親の親権が強い。
 ましてや、離婚の原因となる理由が理由となるだけに、圧倒的につくしの方が有利で、希望が取り入れられるがの本来ならば当然のこと。
 しかし、争う相手は道明寺司なのだ。
 白を黒とも変える権力を持つ男。
 …あたしじゃ、とても勝てない。
 顔を青ざめさせ、気色ばむつくしの顔をジッと見返し、楓がふっと小さく息を吐き出す。
 『…あなたは本当に、戒が欲しいの?』
 怪訝に見返したつくしへと向けられた楓の眼差しは、不思議に柔らかな気がした。
 『あなたが…少なくても、今ここにいるあなたが愛して望んだ男性の子ではないでしょう?』
 『……………』
 言葉を返せない。
 どう繕おうと、楓の言うことが真実で、けっしてつくしが望んだわけではなかったのだから。
 『当然、あの子の存在を知って嬉しかったはずもないわね?』
 『………それでも、あたしは戒のことが大切なんです』
 大切で可愛くて、愛しいと思える存在。
 『そう。あなたはそういう人だったわね。でもそれは本当に母性なのかしらね。あなたのそれは愛情ではなく、義務感や責任感なのではないの?.』
 『え?』
 母性――この世でもっとも見合わぬ女が言う母性。
 『望んで生んだわけでもなく、生んだ記憶すらなくても、本当に子供を愛することってできるのかしら』
 『………』
 揶揄っているわけではなかったのだろう。
 ポツリと呟かれた口調には純粋な疑問と、そして同時にどこか自嘲を伴った、独り言のようだった。
 『それに、戒はあなたにとって足手まといよ』
 『そんなっ』
 『おためごかしを言っても仕方がないでしょう。もし戒をあなたが引き取ろうとするなら、道明寺家との繋がりをキッパリと切ることなど不可能なことだし、あなたが本来望んでいる、あらたな人生を生きなおすことなどできるはずがないのよ。まさかそれさえわかっていないだなんて、愚かなことは言わないわよね?』
 『………』
 もちろんわかっていた。
 養育費一つにとってもそうだったけれど、そうでなくても実の父親を慕う戒を司から引き剥がして、完全に接触すらさせないことなどできるはずもない。
 しかし、わかっていてなお、
 『それでも、あたしがあの子の母親です』
 それが真実なのだ。
 『私が、あの子を守ってあげなければならないんです』
 体だけではなく、心だけではなく。
 望む望まざるに関わらず、彼女が戒という一人の存在を生み出した瞬間から、彼を愛して守り、一人の人間として独り立ちするその時まで見守ることこそ必然なのだから。
 そして、それをつくしは疑ってはいなかった。
 無意識の意識で、たとえ誰に教えてられずとも、彼女はそれを知っていたのだ。
 それはたしかに楓の言うとおり義務感や責任感なのかもしれなかったが、それでも戒を愛していた。
 『だから、お願いします。戒をあたしに引き取らせてください』
 『ふぅ………何度も言うけれど、あなたと司はすでに成人した大人よ。それに、もしあなたたちが未成年のままであったとしても、婚姻を結んだその瞬間から、親である私も勝手な口出しはできないの』
 未成年であっても、婚姻を結んだ時から成人として扱われる。
 当然、成人としての義務も権利も発生するのだ。
 『…なぜ、結婚を許したんです?』
 そもそもその未成年同士は親の同意がなければ、結婚できないはずなのだ。
 たとえ司がつくしを騙して婚約者として囲い込んだとしても、この女性がそれを見過ごさなければ、少なくても今の事態へと発展しなかったのではないだろうか。
 …記憶がなくなっていたって、道明寺の奥さんになんかなっていなかったはず。
 適切な処置を施す義務が、この女性にもあったのだ。
 司の母親として。
 『忘れたの?私があなたの存在をハッキリと知ったのは、あなたが流産した後のことだと』
 『…あ』
 『しかも、その直後だというのに、司はあなたをすぐに妊娠させてしまったのよ』
 『え?』
 初めて知った事実に、つくしは驚愕した。
 知らなかった。
 司はともかく周囲のものたちは特に隠す意識もなかっただろうが、10年も昔のことを誰もいまさら言い出す人間がいなかったのだ。
 当然のこと、司がそんなことをわざわざつくしの耳へ入れるはずもない。
 おそらく尋ねれば答えたことだろうが。
 …道明寺。
 胸の奥に巣食う憎悪と哀しみは、ホンの少しのきっかけですぐに膨らんで、溢れて制御できなくなってしまう。
 時に彼への哀切に、その憎悪を忘れてしまいそうになることもあったけれど。
 傷つけられた心は容易に、その憎悪を思い出し、けっして忘れさせてはくれないのだ。
 悲しみの記憶を、辛く苦しかった日々を。
 『…やってくれたわね、司も』
 『…………』
 『私が事実を知ったら、あなたを司から取り上げて、隠してしまうだろうとわかっていたんでしょうね。…見くびってたわ』
 見くびっていた…その言葉の意味を理解しかねて、首を傾げるつくしの目に、皮肉に笑む楓の顔は、その言葉とは裏腹に、むしろ頼もしげに思えたのは気のせいだったのか。
 『自分自身の不祥事や道明寺家内のゴタゴタを、マスコミを通じて表沙汰にすると、私への取引材料にして、あなたのことを簡単には切り捨てられないように捩じ込んできたのよ』
 …まただ。
 つくしの心や哀しみなど、より大きな価値を持つものの前では取るに足らないものなのだと無視をされてしまうのだ。
 その価値を決めるのは司や楓であって、それ以外の人間は虫ケラでしかないのかもしれない。
 しかし、今はそんなことよりも、つくしには気になることがあった。
 ある程度の予測はすでにつけてはいたが、聞かずにいれるはずもない。
 『その時の…、二度目の妊娠をした時の赤ちゃんはどうなったんですか?』
 『…流産したわ』
 『っ!』
 尋ねる前からわかっていたことだったし、つい先程まで知らなかった事実だ、悲しいわけもない。
 それはそうだ。
 一度目の妊娠ですら望んだことではなかったのだから。
 それどころか、つくしが殺してしまった。
 自らを殺し損ねて小さな命だけを摘み取って。
 それでも、受けた衝撃は自覚していた以上で、瞬かせた目から涙が零れ落ないようにと堪えるのはとても辛かった。
 こうやって、過ぎ去った過去のことでも傷つけられる。
 何度でも何度でも何度でも…。
 司がどう変わったのであろうと、当時…彼女をどう思っていたのにせよ。
 彼が彼であるというだけで、彼の傍にいるだけで、つくしは傷つけられ憎しみの黒い渦に飲み込まれて闇に囚われてしまう。
 『一度目の時とは違って外的要因の流産ではなかったそうよ』
 『…………』
 それが救いになるわけでは、もちろんない。
 『これは司のカタを持つわけではないけれど、司も流産後の女性のカラダや心の状態についてよく知らなかったんだと思うわ。一度目の流産の直後は、出来事が出来事だったし、流産そのものよりも、あなたや司の怪我…それにあなたの記憶喪失のことが重なって、本来ならなされるべき医師の説明も省かれてしまったらしいの。医師の怠慢でもあるわ。でも、そうでなくても、初期の流産は珍しいことではないし、当時はあなたの精神状態が普通ではなかったから、ある意味なるべくしてなった事態だと言えなくもない』
 『…なるべくしてなった事態』
 楓の言葉はあくまでも客観的だったが、それだけによけいに憤く腹立たしかった。
 『仕方なかったとおっしゃるんですか?』
 彼女の声音の震えを楓は果たして気がついていただろうか。
 おそらく気が付いていただろう。
 しかし、だからといって、つくしの感じていた苦痛を、楓が斟酌することはなかった。
 少なくても、しようともしていなかったようにつくしには見えた。
 『そうね。どちらにせよ、過去は過去。どんなに悔いようと嘆こうと、けっしてもう取り戻すことはできないし、どうにもならないことだわ』
 『…………』
 『…………』
 『…………そう、ですね』
 怒りに任せて怒鳴り散らして、目の前の女を打ち据えたとして、それで彼女のなにが変わるわけではないのは、もう十分にわかっている。
 それでも…。
 それでも、心の奥底からパラパラと剥がれ落ちて、粉々に壊れてゆく何かが積み重なってゆく音が聞こえた。
 『先程、なぜ私があなたたちの結婚を許したのかと聞いたわね』
 『…ええ』
 『あなたはどうしてだと思うのかしら?私があなたをまがりなりにとも、かつて受け入れた理由』
 ‘許した’でも‘認めた’でもなく、‘受け入れた’。
 そこに楓の、かつての彼女に対する真意が見える。
 …しかも、まがりなりにとも、ね。
 『道明寺が、あたしをもう一度妊娠させてしまったからですか?そしてそれをネタにあなたをゆすったからでしたっけ?』
 『そうよ。けれど、それだけじゃないわ。妊娠や醜聞のことだけなら、とんでもないことではあったけれど、最終的にはおそらくなんとでもなった』
 たぶん、道明寺家お得意のお家芸というやつだろう。
 多少遅すぎるきらいはあるが、金で解決できる、あるいは、かつてのつくしが危惧したとおり、結婚などさせずとも愛人として囲わせて、子供は私生児として育てるか養子にでも出すという算段もあっただろうし、国家権力さえも黙らせることができる家なのだ。
 『でも、司が執着してあなたを離さなかったのよ。あの頃の司は、家を出るなどという暴挙を平気でやりかねなかったわ。愚かにもあなたを認めないのなら、家を捨てると騒ぎ立てた。道明寺の跡取りとして生まれ育って、他に生きる道などありはしないあの子が』




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NoTitle

いつも作品を楽しんでる読者です。
ハッピーエンドになるのはわかってるけど…。

司、つくし、早く気付いて~。

ここでつくしの過去話が入ったことで、やっぱりつくしの気持ちもわかる!と司寄りだった気持ちがまたつくしにも戻り…
でもやっぱり、目には目を方式はツラい、、、
司はつくしの良い所も殺してしまったといったところでしょうか。。。

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