「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0250

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 後ろ手に主寝室のドアを締め、つくしはその場に蹲った。
 何度も何度も脳裏に現れ、まるで走馬灯のように目の前を行き過ぎてゆく様々な過去の光景が彼女の胸を苛み、まるで振り子のように彼女の心を惑わす。
 しかし…すでにもう、つくしは後戻りできない道を来てしまったのだ。
 ノロノロと立ち上がり、後ろ髪を引かれる想いを堪え、ゆっくりとその場を離れる。
 『お前を愛している』
 司の声がふいに耳元でした気がして、ドキリと胸が大きく鼓動を打ち、振り向いてしまいたい衝動を懸命に耐えた。
 つい先程交わしたばかりの神崎との会話に想いを馳せる。
 『本当にいいの?神崎さん。あいつは…道明寺は、あなたのことを愛してないのよ。もしかしたら、…あなたのことを憎んで受け入れないかもしれない』
 そう忠告したつくしに、わずかに神崎が息を飲んで怯んだように見えたのは、きっと気のせいではなかっただろう。
 けれど、その目に強い意思の光を宿して…。
 『人を好きになることは狂気に似ています。たとえあの方が、私を愛することはないのだとしても、私はホンの小指の爪ほどの可能性にも縋りつきたい。人は弱い生き物だし、生きている限り絶対ということはないでしょう?』
 彼女の強さが羨ましかった。
 たとえ、それが間違った強さだったのだとしても。
 人の心の闇は深く昏く、とても他人には見通すことはできない。
 『こんなことをしようとしている私を、愚かな女だと軽蔑しますか?』 
 だから、神崎が何を思い、何を決意していたのだとしても、つくしには彼女を愚かだと判じて軽蔑する権利も、筋合いもないだろう。
 それを言うのならば、一番軽蔑されるべきなのは、つくし自身だったのだから。
 「…羨ましい、だなんて」
 バカみたいだと思うけれど、たしかにあの一瞬、愚かさを認めながら、司への恋心に殉じて捨て身の賭けに出ようとしている神崎が眩しいと思った。
 『副社長が私に振り向いてくださる日が果たして来るのかどうか、それはわかりません。でも、これだけはわかっています。…たとえ、私が社長の申し出を断ったとしても、他の女性がこの役にあてがわれるだけで、私はけっして副社長を手に入れることはできないのだと』
 だから…と。
 だから万に一つの可能性にかけるのだと言い切った神崎を、真っ直ぐに見ていることができなかった。
 つくしは、何かに追い立てられるように、居間を抜け、主寝室とは反対側の寝室へと足早に急ぐ。
 けっして、居間を挟んだ主寝室の声など聞こえるはずがないとわかっているのに。
 それでも、遠く微かに男女の情を交わす喘ぎ声や音が、耳に聞こえた気がして、つくしは両手で耳を塞いだ。
 それでも、この部屋から出るわけにはいかない。
 今はまだ、誰にもこのことを知られるわけにはいかないのだから。
 …こんなことを何度繰り返さなければならないのだろう。
 暗澹たる想いに、つくしはけっして後悔しないと誓ったというのに、すでに後悔し始めている自分をどこかで自覚していた。



*****



 コチコチコチコチコチ。
 規則正しい音にウトウトとしかけていたつくしは、ふと顔を上げた。
 誰かに呼ばれた気がしたのだが、当然それは単なる幻聴に過ぎなかった。
 …夢を見ていた?
 眠れないだろうし、呑気に寝ている場合ではないのだから、寝るつもりは初めからなかったけれど。
 寝ぼけてボンヤリしている顔を片手で撫でて、ふわあっ洩れる欠伸を堪えて大きく伸びをする。
 …あれから何時間が過ぎたんだろう。
 暗闇を手探りで探って、擦り寄った窓辺から見上げた夜空には、先程まで浮かんでいた月はすでに完全に姿を消していた。
 今夜はたしか上弦の月。
 暗い夜空に星がまだ隆盛を誇っているのだから、夜が明けるのはまだまだ先のことだろう。
 寝不足に重い頭を振り、ため息をついて、つくしはどうしても気になってしまうドアの向こうの部屋の様子を無理矢理に頭から振り払う。
 「どうしようかな。本でも読んでようか」
 口に出してみたものの、もちろんとてもそんな気分ではなかった。
 かといって、
 「こっちがえっとぉ、真夜中の3時だから、フロリダは今頃まだ、前日の、ん――」
 寝ぼけ眼の頭を叱咤し、ソラで計算する。
 「ああ、まだお昼ご飯くらいの時間だ」」
 それならばフロリダの戒に電話をしても別段問題もないだろうが、逆にこんな時間に電話してくることを、周囲の大人たちに不審がられてしまうかもしれない。
 そんなよけいな心配をしてしまって、どうにも携帯にも手が伸びなかった。
 第一、どんな顔をして戒と言葉を交わせばいいというのだろう。
 ドアの向こうで起こっているだろうことを思えば、長閑に戒と電話などできるはずもない。
 彼の父親が、彼の母の策略に陥れられ、母ではない別の女とベッドをともにしている時間に、いったいどんな話をすればいいというのだ。
 それとも…もう、すべては終わってしまっているのだろうか。
 「あたしには関係ない」
 いや。
 「関係ないわけもないか」
 すべてを画策したのは楓であっても、その画策の駒に自ら志願したのは自分なのだから。 
 他人を傷つけるだろうことがわかっている思案に加担しておいて、関係ないなどとはつくしにはとても言えなかった。
 『慰謝料はもちろん、お支払いするわ』
 『必要ありません。あたしのことでは、道明寺家からビタ一文、何かを貰うつもりはありませんから。でも戒のことは別です』
 現在の自分が、一人で戒に十分な生活や教育を与えられないのは、重々自覚していた。
 自らのプライドにこだわって、戒を路頭に迷わせるわけにはいかない。
 そして、自分がそうであるように、当然、父親である司にも、戒を養育監護する義務と…権利があるのだ。
 『まさか、あなた、本気で戒を連れて行けると思っているのではないでしょうね?』
 『そのつもりです』
 『……………そう』
 どこまでも怜悧な態度を崩さなかった楓が、わずかに表情を変えたように思ったのは、つくしの気のせいだったのだろうか。
 『ダメですか?』
 顔をわずかに俯け視線を落としていた楓が、つくしの問いに視線を戻した時にはもうすでに常の彼女だった。
 クールで感情などまるでないかのような冷徹な鉄の女。
 『ダメか、ダメでないか、それを決めるのは私ではないわね』
 『はぐらかさないでください』
 はぐらかしていいことではないはずだ。
 たとえ、戒を疎んじているこの姑にとっては大した比重のある話ではなくても、ハッキリとした言質が欲しい。
 だが、楓の答えはつくしの予想とはまるで異なるものだった。
 『離婚のことと同じよ。あの子の両親は私ではないということ。当然、あの子の養育権や監護権、親権の最優先者はあなたと司よ。でも、司はたとえあなたと離婚することになっても、戒をけっして手放さないでしょうね』




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何度も繰り返すんですか??汗
まさか…と更に嫌な予感しかないんですが。
私的に最も嫌な展開になりそうで、また警鐘が。。。
目覚めて、司が発狂して…だけでは、済まないってことですよね?
あぁ…以前こ茶子様はドMだと書きましたが、小説内容としてはドSでした。。。
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