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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0246

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 どれくらいの沈黙が続いただろうか。
 つくしの言葉が、司に聞こえてなかったのではないかと、彼女が疑い始めた頃―――。
 「フ―――ッ」
 大きく息を吐き出した司が、つくしから顔を背け、額に手をあて項垂れた。
 「えっと、あの、道明寺?」
 遠慮がちに名前を呼ぶ彼女の声にも顔を上げず、わずかに首を横に振り小さく笑い出す。
 「くくくっ」
 「ど、道明寺?」
 「…それ、どういう意味だ?」
 「へ?」
 どういう意味。
 女が男に言う『同じベッドで寝たい』という言葉に、そんな風に問い返されるとは予想もしていなかったつくしは、困惑してただ司の出方を見守るしかできない。
 「お前、今、自分が言った意味わかってんのか?」
 「…意味って」
 「女が男のベッドで一緒に寝たいって言う意味」
 先ほど自分が言った言葉だというのに、その当の男から問い返される言葉の威力に、つくしは思わず息を飲み込み、だが、すぐに息を吐き出した。
 「…わかってる」
 「わかってねぇよっ!」
 笑っていたはずの司が、激して声を荒らげる。
 しかし、司も感情を抑えてはいるのだろう。
 一瞬声を荒らげさせたのみで、内心怖じけるつくしを前に、何度か小さく深呼吸を繰り返しただけで、いつもの沈着さを取り戻し不機嫌に吐き捨てる。
 「お前はわかってない。俺はたしかに、お前が望まないことはもう二度としないと誓った。でもな、俺は別に去勢されちまったわけじゃない。お前がそばにいれば、いつもその手に触れたい、顔に触れたい、その素肌に触れて抱きしめちまいたい。…抱きたい。そんな風に思う普通の男だ。それともそんな俺を苛んで、お前を目の前に餌みたいにぶら下げて、指を咥えて眺めさせようっていうのがお前の魂胆ってやつか?」
 お前を抱きたい。
 司の男の本音。
 過去を彷彿とさせる言葉がどれほど怖いかと覚悟していたというのに、彼の声が苦痛に軋んであまりに悲痛なものだったからか、不思議にそれほどの恐怖や嫌悪はつくしの中には生まれなかった。
 それでもそれらの感情を完全にはぬぐい去れない。
 だから、言葉に詰まってしまったのは、司の拒絶に尻尾を巻いてしまったからではないはずだった。
 「復讐にしては利口じゃないな。俺にとってはなるほど拷問みたいなもんだが、お前にとってもずいぶんリスキーな話だろ」
 皮肉に返される。
 しかし、
 「復讐じゃないよ」
 …復讐ではない。
 それだけは本当だ。
 楓は、彼女をそう唆したけれど、彼女にとってはそうではなかった。
 たぶん。
 「それにあんたの言うことの意味もわからずに、こんなことを言い出したわけでもない」
 「…………」
 「自分を壊したいの。このまま…このままっ、あんたを憎むだけで、誰かに恋したり愛したりできないまま、不毛なままで人生を終えたくない。たしかにあたしはあんたをまだ赦せてはいない。だけど、以前のあたしは…少し前までのあたしは、たしかにあんたを愛していたのよね?」
 伝え聞く夫婦の睦まじい様子が、戒の健やかな成長が、彼女の携帯の中の司の写真が、司の彼女への愛ばかりではなく、彼女が当時感じていた司への愛情をつくしへと伝えていた。
 …この男を愛してる。
 大切だと、かつての彼女が感じていたことを。
 望む望まざるに関わらず。
 たしかに、司を愛して、彼を大切にしたいと思っていた女は‘そこ’にいたのだ。
 ‘道明寺つくし’今はもう、この世のどこにもいない司の妻。
 「だから…だから、もう一度、あたしにあんたを愛させて。あんたを愛して、赦させて欲しいの。新しい人生を生きたいのよ」
 その叫びは、すべてがすべてウソではなかった。
 …真実でもなかったけれど。
 震える指先が、つくしへと伸ばされる。
 そういえば、大人になった司が彼女に触れる時は、いつも壊れやすいガラス細工に触れるように柔らかく慎重だったと気が付く。
 かつてのように骨も折れよと、彼女の苦痛や感情を慮ることなく、自分の思うがままに触れてきた男はもうたぶんどこにもいない。
 抱きしめてられた男の胸は、広く大きく逞しく…そして温かかった。
 どうしても強張ってしまう彼女の体と心を解きほぐすように、つくしの髪や背を撫でてくれる手同様に、熱く優しい。
 …これは欺瞞なんだ。
 そう心の中に唱えて、一心に銘じて置かなくては、この温もりに絆されて、情に負けてしまいそうな自分をつくしは懸命に叱咤していた。
 「あたしに過去を忘れさせてよ」
 つくしの首筋から香るふんわりと甘く艶やかに香るコロンの匂いが、司の鼻腔を妖しく擽り、その思考に霞みかける。
 今目の前のこの女だけを…唯一絶対の愛する女に溺れて、ただその柔らかな温もりに癒され、包み込まれたい…と、司はすべての懸念を振り払う。
 …たとえ、お前が俺を。
 復讐の炎に焼き尽くし、滅ぼそうとしているのだとしても、もう一度だけその胸に抱きしめてくれるのならば…。
 「…牧野っ」




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司の思いが、命をかけた思いが伝わってきてツラいです。。。
復讐ではないなら、なんなんだろう。
自分を壊したいがために、相手を巻き込むのは、復讐ではないというのかな。。。
司の為を思って…?
いやいや、それもエゴですよね。。。
1つ言えるのは、女は怖いってことですね苦笑
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