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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0244

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 「後悔なさいませんか?もう、後戻りすることはできなくなるんですよ」
 司を恨んでいると言って、つくしへと近づいてきた女が、彼女へとそんな翻意を促すような忠告をかけてくるのが、なんだかとてもおかしい。
 けれど、つくしは笑わなかった。
 笑うことなく、ただ一つだけ小さく、しっかりと頷く。
 …後悔したりなんかしない。
 そんな彼女の顔をジッと見つめ、そして桜子も一つ頷き返す。
 「それでは、これを―――」
 桜子がハンドバックから取り出した小さな白い包み紙を、つくしへと手渡す。
 「効いてくるまで、30分ほどだそうです。即効性がある代わりに、覚めるのも早い。本当はお酒に混ぜた方がいいのですが…まあ、パーティでもある程度お飲みになってるでしょうからねぇ」
 「そうだね」
 …できれば、あんまり身体に負担をかけさせたくない。
 「無味無臭のはずですが、水とか味のないものでは、カンがいい方なので気がつかれてしまうかもしれません」
 「どうしたらいいの?」
 「そうですね。ジュースとかペリエのような炭酸水に混ぜてしまえば、おそらく誤魔化せると思います」
 「わかった」
 いっそ気がつかれた方がどれだけ良いだろう。
 そんな矛盾した想いが思い浮かんで、つくしは自嘲した。
 「あの秘書の方は今回は同行されてないんですか?」
 「ううん、いるよ。ここのところ、道明寺のパーティでのパートナーはあたしが務めてるから、表には出てきていないけど、裏方とか、ほら、あたしじゃまだパーティを取り仕切ったりとか準備したりできないから、そういうのを代行してくれてるの」
 「ふっ、なるほど。楓社長ともあろう方が、ずいぶん俗で陳腐なことをさせるものだと思いましたけど…」
 「…過去形なんだね?」
 「えげつないとは今も思いますよ。でもそうですね。物事は時に陳腐なものほど余計に破壊力があるものなんです。陳腐なものほど人の心の裏にある愛憎を的確に捉えた秀策であるともね。おそらくあの方は策略によってではなく、人の心の弱さや脆さそのものを使って策を成就しようとなさっている。とても恐ろしい方ですね」
 「…人の心の弱さや脆さ」
 つくしには桜子が言いたいことがよくわからない。
 楓が考えていることも。
 ただ、
 『それでも、あなたはあいつの母親ですか?』
 そう弾劾した彼女に、静かな眼差しで、
 『あなたにわかってもらおうとは思っていないわ。あなたにはあなたの正義があるように、私には私の正義がある』
 そう答えた楓の瞳に、一瞬過ぎったものは何だったのだろうかと思う。
 「どちらにせよ、すでに賽は投げられました。そうであれば、私たちのような地上で蠢き足掻くしかない只人は、自分の前に指し示された道を、手探りであっても信じて進んで行くしかないのでしょうね」



*****



 「大丈夫?疲れた顔してるけど」
 パーティが終幕を迎え、最後の招待客の見送りを終えた頃には、すでに23時を軽く回っていた。
 いつものことながら、華やかな見た目とは裏腹な内実に、司やつくしの疲労も嵩んでゆく。
 それでも他に特にやるべき務めのないつくしはどうとでもなったが、経営者としてパーティに出て顔繋ぎをしていればそれでいいわけではない司の方は、さらに通常業務をこなした上でのことなので、体を壊しても致し方がないのが実情だった。
 「疲れてないと言えば嘘になるが、まあ、俺の場合はいつものことだからな」
 平然と嘯く。
 それでも色濃い疲労が司の顔に出てしまっている。
 以前の司は本人が言うように相当な激務をこなしても、それほど堪えたところを見せていなかったから、おそらく彼の疲労の大半は体調の不調からきているのだろう。
 「まだ本調子じゃないってことだよね」
 司は酒を制限されていたが、それでも付き合いである程度は全く飲まないというわけにもいかず、ほろ酔い加減に飲酒していて、その影響もあるのかかなりダルそうだ。
 「戒とは電話したのか?」
 「あ、うん、さっき、パーティを途中で抜け出してね」
 「そうか。こっちは23時だから、あっちは今頃朝の9時頃か」
 スラックスから携帯電話を取り出した司が手近のソファへと歩み寄って、携帯を耳にあてた。
 しかし、機械的な電子音はいつまでも呼び出しの音を鳴らすだけで、一向に切り替わらない。
 「ふん?移動中か。電話、出ねぇな」
 子供のことだ。
 何か他のことに夢中になっていれば、電話の音に気がつかないこともよくあることだ。
 手渡された司の上着やネクタイをハンガーにかけ、いつもはそのまま自室として使っている夫婦の主寝室へと一人姿を消すつくしが、その日に限ってハンガーを手に、ソファに腰を下ろした司の背後に立ったまま立ち去る気配がない。
 「どうした?」
 「…えっと、あのぉ」
 キョトキョトと落ち着きなく視線を彷徨わせて、言葉を選んでいる。
 眉根を寄せて怪訝につくしを見つめていた司だったが、すぐにつくしの言いたいことに思い当たり、腰掛けていたソファから勢いをつけて立ち上がった。
 ビクッ。
 とたん体を背後に一歩引いてビクつくつくしの様子に、
 「…悪い」
 歪めた顔を反らして、一言謝罪する。
 「あ、いや。こっちこそ」
 ここのところ、頑なだったつくしの態度が彼女の宣言通り軟化していたから、ついうっかりとしてしまっていたが、彼の一挙一動、急な動きにつくしはいまだ恐れを抱いているのだろう。
 こうしてついとってしまった何気ない行動の一つ一つが、常に彼女を脅かし、その事実が彼自身を傷つける。
 ―――自分はまだ赦されたわけではない。
 お人好しな彼女が我を曲げ歩み寄った結果、いや、彼の身勝手に従わされ受け入れざる得ずに、今のこの状態がある。
 …それでも、俺はこんな自分を変えられない。
 彼女を手放しやることができない。
 彼女が彼に望んだ唯一絶対の望み、その望みさえ叶えてやれないのだから。
 …俺は、どんなお前でも受け入れる。
 たとえ一生涯、彼女に指一本触れることを許されなくても、それを受け入れ耐える覚悟がある。
 …もし、お前が俺にその場で死ねと言ったとしても。
 「今日寝るところだろ?俺はそっちの右の部屋使うから、お前は…」
 「あの!」
 それなのに…。




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あぁ…
なんとなーく、いや、かなりの確率で嫌な予想が当たりそうで参ってしまってます。
誰か…誰か、この計画を止めてくれる人がいれば…と願わずにいられませんが、時すでに遅し…ですかね。。。
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