「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0239

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 涙が溢れた。
 何度となくあの日々に流した涙とは違う涙。
 けれど、願う望みは変わることがなくって。
 「今のあたしは、幸せじゃない。こんなあたしでも幸せになりたいのっ」
 「………牧野っ」
 「たとえこの先、いつかあんたを愛せる日がくるのだとしても、それでも、どうしてもあたしはあんたを赦すことができない。赦すことができないし、憎むこともやめられないっ」
 司が彼女を解放してくれない限り。
 掛け違ってしまった運命のボタンは、ズレてゆくばかりで、いくら繕っても繕っても、けっして正しい形にはならないのだ。
 …だから、苦しい。
 人を憎むことは、限りなく不毛で彼女の心を荒らし、何よりも摩耗させ苦しめた。
 それなのに、司を愛することはさらなる苦しみを招くことになるのだ。
 憎みながら愛すること、あるいは愛しながら憎むことの苦悩と絶望とを思う。
 そうだ。 
 自分はもう誰も憎みたくないのだ。
 人を愛するのなら、苦しみではなく幸せを感じたい。
 ただ前を向いて真っ直ぐに生きてゆきたいだけ。
 「お願いよ、もうこれ以上、あんたを憎ませないで」
 …愛させないで。
 司が大きく息を吐き出す。
 髪をかき上げる指先の震えは、確かな彼の動揺をあきらかにしていた。
 けれど、何度も大きく息を吐き目を瞑った司は、つくしの哀訴に何も答えることなく、静かに席を立つ。
 「お願いっ!道明寺ぃっ!!」
 「お前の、気持ちは、よく…わかった」
 「それならっ」
 わずかな希望と期待を込めて、つくしは顔を上げ司を見る。
 けれど、そんな彼女から背を向けた司の背中は彼女を拒絶していた。
 「…別居の件は、考えさせてくれ」
 「道明寺っ!」
 「離婚はしない」
 「どうしてっ」
 絶望がつくしの心に押し寄せ、闇色に塗りこめられえてゆく。
 これほどに哀願しても、それでもやはり司には通じはしないのか。
 かつての彼女の叫びを無視したように。
 …やっぱりあんたは少しも変ってなんかいない。
 「お前が、俺を憎むことを辞められないように、俺は…お前を手放してやることができねぇんだ」



*****



 司が居間を出て行った気配に、つくしはテーブルに突っ伏す。
 ポトリポトリと涙が頬を伝った涙が、テーブルの天板に黒いシミを作った。
 それを見ては、またも涙が零れる。
 一度決壊してしまった涙腺は、バカみたいに緩んで戻らないものだと過去の経験から知っていた。
 …美味しかったのに。
 スープの温もりは確かに彼女の心に染み入り、体と心を温めてくれていた。
 それなのに、今はもうその温もりさえも消え失せ、さっきまではたしかに彼女の食欲をそそり喜ばせたものなのに、今はもう冷えて固まったチーズの臭いがひどく鼻について、不快さに感じさせるだけ。
 「…バカみたい」
 あの男に何を叫んだところで、通じるはずがないとわかっているのに、どうして自分は懲りずに説得しようなどと試みてしまうのか。
 つくしは顔を顰めて、ノロノロと椅子を立ち上がった。
 そして、そのままフラフラと寝室へと戻って、まるで壊れた玩具か脂の切れた機械仕掛けの人形のように、ギクシャクとした動きでベッドへと倒れ込む。
 「うっ……ううっ」
 何を泣くことがあるだろう。
 これからも昨日や今日と同じ明日が続くだけのことだというのに。
 そう思ったら、空虚な哀しみ…そして怒りがつくしの心を埋め尽くした。
 …どうして。
 ただ、それだけ。
 自分が何をしようとしているのか自覚のないままに、震える指先でベッドの上を探り、さきほど放り投げたままだった携帯電話に手を触れる。
 そして、手元に引き寄せた携帯電話の画面をスクロールし、目的の名前に触れた。
 トゥルルルルルル、トゥルルルルルル、トゥ―――、プッ。
 『はい』
 「………っ」
 出ないと思っていた通話が、3コールを数えぬうちに繋がった。
 『はい?』
 冷たく返事を督促する声音に、つくしが唾を飲み、口を開く。
 「私です。…牧野、つくしです」
 『…ええ』
 相槌を返す声は、あくまでも平坦で、続きを促すでもなかったが、確信に満ちていた。
 …魔女だ。
 そうだ、あの悪魔のような男の母親なのだから、この電話の向こうの女もまた人間であるはずがない。
 そうだとするなら、自分は魂を悪魔に売ることになるのだろうか。
 「あのお話をお受けします」
 『…………』
 「すべてあなたの指示通りに従います。だから…」
 …だから。あたしを解放してください。
 …この家から。
 …司から。
 …この想いから。
 「あなたの力を貸してください」
 『ええ、いいわ。契約しましょう…これはビジネスよ』



*****



 木枯らしも吹きすさび、そろそろ本格的な冬の到来に寒さの厳しい11月の終わり。
 ロスアンゼルスに在住する司の姉の椿から、つくしと戒にクリスマス休暇のお誘いが入った。
 以前は直接つくしの携帯に入った連絡だったが、現在のつくしの状態は椿にもある程度知らされているのか、司を経由しての誘いかけ。
 「…クリスマス休暇って、確か、あんたのお姉さん、まだ入院中で外出できる状態じゃなかったよね?」
 今月初頭に切迫流産を起こし、以来出産予定日までの管理入院を余儀なくされている。
 そんな彼女を心配したタマが、ロスアンゼルスに現在渡米したままであることからして、その状況にもほとんど変化はないのだろう。
 手に持った上着を手近なソファへと投げ捨てて、ドサッとソファに腰掛けた司が、ネクタイに指先をかけたまま、フ――ッと大きく息を吐く。
 一時期を思えば、だいぶ顔色も改善されているようだが、それでもやはり完全な健康体とは言い難く、疲れやすくそれがまたさらなる体や心の負担にもなっているのだろう。
 それでも、司は弱音を吐かない。
 淡々と自分の責務を果たしている。
 そんな彼を見下ろし、つくしは所在なく立ち尽くす。
 四肢を投げ出しソファに深く沈み込む司を見るともなく眺めて、寝室のドア口から立ち去るに立ち去れずに司の動向を探る。。
 呼び止められてしまったからには無視するわけにもいかないが、かといって自分から歩み寄る切っ掛けを探しあぐねて、結局はいつものように為すすべもなく司のリアクションを待っているしかできないでいる。
 …こんなことじゃ、ダメなのに。
 「姉貴の方は来年の出産予定日まで、ガッツリ病院に拘束されるみたいだけどな。今回は、旦那の親…姪の咲の祖父母からのお誘いなんだ」
 「……旦那さんの」
 司の姉の椿にしてみても、記憶のないつくしにしてみれば親しみを感じようもない相手だが、その舅姑ともなるとまったく関わりなどないにも等しい。
 「姉貴が入院生活で、すっかり咲のヤツが意気消沈しちまってるらしくってな。それを心配したジイさんバアさんがちょっと早めの休暇をとって、クリスマスを挟んだ2週間くらいの間、フロリダのディズニーに咲を連れて遊んでくるらしい」
 流石に豪勢な話だ。
 道明寺財閥と釣り合う婚家である資産家だというのだから、そんじょそこらのお金持ちではないことは確かだろう。
 …たしか、アメリカのホテル王とか言われるお家なんだっけか。
 「で、そのディズニーに行くのに、戒と行きたいってことで、俺たちにもフロリダで合流しないかってお誘いだ」




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ここで楓さんの話にのっかるんですね~。。。
いやな予感しかないです苦笑
椿さんのとのろのお誘いも…
きっと罠だろうと疑ってしまう自分がいます汗

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