「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0236

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 嫉妬―――。
 そのどこか懐かしくも、胸を軋らせる痛みを伴った感情はたしかに嫉妬だった。
 それはつくしがまだ高校生の頃、初恋の少年が彼の恋する女性の横顔を一途に見つめて、静の一挙一動に顔を輝かせ、意気消沈するのを見ていた時の感情によく似ていた。
 ただ見ていられれば、それでいい。
 少しでも近づきたい気持ちはあったけれど、ただそれだけで、けっして彼を手に入れられるなどとは思っていなかったし、最初から諦めていた。
 つくしにとっての類は、あまりに高嶺の花で、彼の恋する静はあまりに完璧であったし、似合いだったから、類の顔を見られば嬉しくて、微笑みかけられればそれだけで天にも昇る気持ちになる、ただそれだけの恋だったのだ。
 だから、類が静への恋に夢中で、微塵たりともつくしを顧みてくれることがなくても、類を恨んだり、ましてや静を妬むことはなかったはずなのに。
 あの時のつくしの立場や状況と、今現在ではあまりに違いすぎた。
 それでも、今、目の前の男と…そしてその男に近づこうと、健気な恋心を露わに彼を見つめる神崎に感じているつくしのこの感情はなんなのだろう。
 デ・ジャヴ。
 昏くひんやりとした居心地の悪い感情。
 あまりにあの時感じた痛みにも似て、それでいてまるで異なる負の感情につくしは混乱した。
 逆説的ではあったが、今司と神崎、二人の姿に感じる感情を顧みて、あの頃の自分の感情に気がつき、今感じている不快感の正体を悟る。
 …なんで、そんなバカなことなんてあるはずがないのに。
 そう思えば思うほどに、自分が今感じている感情を認めざる得なかった。
 「…おい?どうした」
 突然顔色を蒼褪めさせ、ぼんやりと立ち尽くしているつくしを司が怪訝に振り返る。
 「奥様?」
 「お母さん?」
 司ばかりではなく、神崎や戒にまで不審がられて、つくしは唇を舐め、何気ない表情を取り繕い小さく首を横に振る。
 「ううん、なんでもない。ちょっと…そう、ちょっと疲れちゃったかな」
 「病人の俺より先に、お前が疲れてんのかよ」
 司の呆れ顔に、昏い思念に囚われかけていたつくしが、ムッと唇を尖らせ気持ちを立て直す。
 「しょうがないでしょ。最近、ちょっと不眠症気味で昨日も寝られなかったんだから」 
 「不眠症?」
 元々意外なところで神経質なところがあるのか、不眠症を持病に持っているのは司の方で、つくしは快眠快食、一時期病んでしまった時を除けばよく寝る女だったはずだ。
 「…眠れないのか?」
 つくしが眠れない理由など、司にも思い当たるほどありすぎるというのに、聞かずにはおれない。
 ぐっと深刻になってしまった司の顔に、かえってつくしの方が焦る。
 …よけいな詮索されたら困る。
 「えっ…と、実はその…個人教授の課題の勉強が、思うように進められなくてさ」
 「フゥ――ッ」
 司がその返答に、大きく溜息をつく。
 「そんなこと気にしてんのか。前にも言ったろ?無理してまで何かを詰め込む必要なんかねぇんだってな。お前のやりたいことは反対しない。お前が望んで頑張るのを阻むつもりはねぇけど、無理だけは絶対にすんな」
 「……うん」
 「身体壊したら、本末転倒だろ?オーバーワークで、入院するハメなっちまった俺が言うことじゃないけどな」
 「ぷっ、本当だね」
 「とにかく俺はお前に、道明寺家の嫁の責務云々を強要するつもりはない。以前のお前も、俺がいくら言っても聞き入れやしなかったがな」
 「………そう」
 「とりあえず、いつまでもこんなところで立ち話してても仕方ねぇ」
 司が踵を返して、つくしと戒を屋敷の玄関へと促す。
 神崎の手から傘は零れ落ちてしまったけれど、長大なアプローチの庇のおかげで、たとえ傘がなくても大して濡れることがない。
 それでも少しは湿り気を帯びてしまったのか、司の強い癖毛のウェーブが、わずかに緩んで彼の目にかかっていた。
 「すみません、副社長、傘を」
 「…ああ。いや、いまさらもういい」
 「はい」
 些細なやり取りさえもが、なぜかつくしのカンに触る。
 …あんたも影では、なんだかんだ言ってもよろしくやってるんじゃないの?
 そうでなければ、既婚者の司に、あれほど神崎が入れ込む理由がないのではないか。
 そんな囁きが心を掠める。
 神崎の傘を断った司が、黙り込んでいたつくしを振り返った。
 「ほれ、突っ立ってないで、行くぞ」
 パシッ。
 「……っ」
 彼女へと無造作に伸ばされた司の手を、とっさに振り払ってしまったのは、おそらく無意識だっただろう。
 しかし、刹那浮かんだ司の表情は傷をあらわに滲ませていた。
 即座に顔を覆った、無表情の仮面も彼の受けた衝撃を隠しきれない。
 思わず見合わせていた互いの顔にあった表情がなぜかよく似ている。 
 つくしの受けた衝撃は、司の受けた衝撃とはまるで違うものだっただろうけれど。
 「あ……」
 「………」
 「…えっと、その、ね。げ、玄関に入ろうか」
 シーンと広まった沈黙の中、白々しくも何事もなかったような顔で、つくしは戒の手をとり、司や神崎の前に出て先を歩きだす。
 戸惑ってつくしに手を引かれるままについて歩く戒や、見て見ぬふりをする使用人たちの中で、唯一神崎の顔が悔しげに引き歪み、司を傷つける彼女の行為を無言で非難していた。
 その目が言っている。
 …どうかもう、この方を傷つけないでください。
 あの日あの時、神崎がつくしへと宣言した言葉が、彼女の脳裏にオーバーラップした。
 『副社長を私にください。奥様がいらないとおっしゃるのなら、その場所をどうか私に譲ってください。お願いします。私ならけっしてあの方を傷つけたりしません。それに、副社長にあんなにも愛されて、大切にされている奥様があの方をこんなにも苦しめているだなんて。部外者の私が憤る筋合いではないとわかっていても、それでもどうしても私にはあなたが許せないんです』
 神崎の苦悩と憤りに満ちた眼差しに、司と自分の事情をおいそれとは他人に語ることのできないつくしに、何と答えることができたというのだろう。
 そんな年若い二人の女を、楓の怜悧な眼差しが、冷たく見据えていた。



*****



 寝室のベッドに腰掛け、何度も携帯の画面を確認してはまた伏せて、そしてまた指先を走らせ溜息をつく。
 久しぶりに居間ではなく、寝室で過ごす夕べ。
 見るともなく携帯電話に取り付けたペンギンのストラップを指先で弄って、携帯ごと目の上に翳す。
 けれど、それはやはり何の変哲もない単なるストラップで、そんなものを見ていても、今この胸のうちのモヤモヤを解消することのできるはずもなかった。
 ふと思いついて、携帯電話をベッドに放ったまま、つくしはウォークインクローゼットへと歩み寄って、宝飾品をしまい込んだ引き出しを引き出す。
 記憶を取り戻してからのつくしが新しく何かを購入することはほとんどなかったが、やはり以前の彼女も大財閥の若奥様だ。
 彼女の衣装箱やクローゼットは、かなり凄い宝の山で、記憶を取り戻したばかりの頃は、この宝飾品の山を見るたびに、あまりにありえないとつくしは信じられない思いばかりだった。
 「えっと、ここら辺に入れたっけかな」
 それでも見慣れてしまえば、いまではさすがに一々驚くこともなければ、大した感慨もない。
 一通りざっと中身に目を通し、思いついてベッドサイドのサイドテーブルに逆戻りする。
 「あ、あった。あったあった」
 ちゃんと仕舞ったものと思っていた。
 しかし、どうやらそれは勘違いだったらしく、そうだと思い出してみれば、ハンドバックの奥底に突っ込んだまますっかり忘れ去ってしまっていたのだが、たまたまそのハンドバックを使おうとして、中身を整理していた時にネックレスを見つけ、サイドテーブルの引き出しにバックごと突っ込んで置いたのを思い出す。
 ハンドバックから摘み上げて、さっきのペンギンストラップと同様、目の上に翳してジッと見る。
 「やっぱりこれ、綺麗だよね」




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NoTitle

更新有難うございます。
 ヘビーな三者面談の様子が徐々に明らかになりつつあり、面白いです。
神崎さん×司編スタート?!なんでしょうか。。
 
うーん、司の方が相手にしなさそうですが、神崎さんやる気満々ぽいし、ビジュアルはつくしに似た雰囲気のようですし、あるのかないのか、、気になります。。以前、今後の構想について他の部ログの方で書かれていたときの話の限りでは、そういうほかの女性たちとの展開も一時的にしてもありそうだったのでやっぱり神崎さん×司 スタートでしょうか。。

 うーん、どうなるでしょう、気になる。。次回更新楽しみにしています。有難うございました。
 

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