「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0235

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 司の退院の日はあいにくの雨だった。
 もっとも、当の本人的には車移動が常だったから、雨だからと言ってどうというものでもなかったようで、つくしの憂鬱をよそに普段とまるで変わりがない。
 車窓から眺める風景は、どこか陰鬱で、彼女にはどこもかしこも灰色に見える。
 「…やっぱ、混んでるな」
 だから、つくしは最初、司が何を言い出したのかわからず、そのセリフが自分にかけられた言葉だと中々気が付けなかった。 
 「ここぞとばかりに、普段車を使わない連中が沸いてきやがる。お前は雨の日でも歩いて学校に通学してたか」
 お前…で、ようやく気が付いて、向かい側に座る司へと顔を向ければ、その父親に寄りかかるようにして司の手元のスマホの画面を覗き込んでいた戒が、キョトンと不思議そうにつくしを見上げた。
 「お母さん、歩いて学校に行ってたの?」
 「え?…うん、そうだよ?」
 つくしにしてみれば当たり前のことだったが、やはり戒もお坊ちゃま、その答えがよほど意外だったようで、
 「え~、凄い!ホント、ホント?どこまで?もしかして、電車とかにも乗ったことがあるの?」
 などなど。
 「電車にも乗ってたし、バスにも乗ってたけど…」
 「雨が好きだったの?」
 「……へ?」
 思いもよらぬ戒の質問に目が点になってしまう。
 「戒、こいつが歩いて通ってたのは、雨の日だけじゃなく、普通に晴れてた日も、毎日だ」
 「えええっ!!」
 驚愕の眼差しを向けられ、逆につくしの方が面食らってしまう。
 …うーん。
 こういうのをカルチャーショックというのだろうか。
 自分の子供との間に感じるのもおかしな話だが、こうしてたびたび、司ばかりでなく戒との間に生きてきた世界の違いを感じることがあった。
 いうなれば司と戒は同じ世界の人間だが、つくしは違う側の人間だ。
 「まっ、世界は広いってことだ」
 「ふぅん」
 わかってるのかわかっていないのか、大まかに纏めてしまった司の言葉に戒も曖昧に頷いた。
 「しかし、これじゃさすがにどっかに寄り道するっつーわけにもいかねぇな」
 「…え~、ダメなの?」
 知らないうちに何やら勝手に予定を変更しようとしていたらしい。
 「どっかに寄り道って、病院から退院してその足でどこ行くつもりなのよ」
 「どこって…」
 戒がおねだりする目で、司を見上げ、その視線を受けた司が肩を竦める。
 「いや、前から戒が、スカイツリーに自分も行きたいって言ってたろ?」
 「はぁ?」
 「俺も明日から出社するし、前よりはペース落とすようにするとは言っても、さすがに週末にオフとったりすんのは当分無理そうだからな」
 「……そうなんだ」
 司の入院は結局、検査も含めて一週間にも満たなかったが、だからといって完全に復調したわけではなかった。
 神崎の粉骨砕身の努力で司のスケジュールをギリギリまで空けることができたが、それでも司の体調からすれば十分なものとは言えるものでもない。
 「行けるもんなら、もののついでだ。夜景はともかくとして、水族館やらプラネタリウムくらいは見せてやりたかったんだがな」
 どうやら期待はかなえられないらしいと戒がシュンと意気消沈してしまう。
 それでも父親の体調や事情は子供ながらにわかっているのだろう、さすがに我儘を言わない。
 「今度があるよ」
 「…うん」
 「近いうちに必ず時間とってやっから、それまでにリサーチしとけよ?」
 「うんっ、わかった」
 ポンポンと頭を撫でて約束をくれる司に、戒の顔に笑顔が広がる。
 戒にとっての司の約束は‘絶対’で、戒がどんなに幼い頃にも、司がその場凌ぎの口約束をしたことがなかったから。
 彼の父親が約束してくれたことなら、必ず叶えられるのだと戒は知っていた。
 「この後も、仕事するつもりなんでしょ?」
 神崎は病院への迎えに同行していなかったが、それも溜まりに溜まった仕事の段取りをつけ、屋敷内で司が執務をとれるようにという準備のためだったのだ。
 「ああ」
 「……大丈夫なの?」
 迷って…だが、これくらいの言葉かけはごく普通のことだろうと、つくしが問いかける。
 だが、すぐに後悔した。
 小さく口元を綻ばせ、柔和に微笑む司の顔を真っ直ぐに見ていられずに、再び窓の外へと視線を反らせる。
 「ああ、大丈夫だ」
 「そう」
 胸の奥に走った小さな痛みは、どこか甘く切なく…仄かな温もりを彼女の心に灯す。
 以前は決して感じることがなかったそんな自分の心の動きが、つくしを困惑させ新たな苦悩を生み出していた。
 やがて繁華街の混雑を抜け、幸いそれほど渋滞していたわけではなかったのか、ほどなくして車が屋敷へと到着した。
 運転手が開けてくれるドアから礼を言ってつくしが先に外へと出ると、雨に濡れる間もなくすかさずメイドが傘をさしかけてくれる。
 「若奥様、お帰りなさいませ」
 「ただいま、絵里ちゃん」
 「お帰りなさいませ、副社長。戒君」
 すぐ後から車を降りた司と戒には、神崎が傘をさしかける。
 「遥香!」
 ドンッ。
 「きゃっ」
 「神崎さんっ!」
 喜色満面飛びついた戒の勢いを堪え切れず、神崎が危うく後ろ向きに転びかける。
 バシュッ、カラン。
 神崎の手から、司たちに差しかけていた方の傘が零れ落ちた。
 しかし、彼女自身は司に腕を掴んで引き止められ、転ぶことなく事なきを得る。
 「……戒」
 先日つくしに飛びかかってタマに注意されたばかりだというのに、同じ失敗を繰り返してしまった戒が、司の叱咤にべそをかいて、慌てて神崎に謝罪する。
 「ご、ごめんなさい」
 「…いえ、大丈夫ですよ」
 かすかに頬を上気させ、司に掴まれた袖口を撫でていた神崎が、戒の謝罪に慌てて向き直って、にっこりと微笑み返す。
 「ちょっと驚いちゃっただけですから」
 「すみません、神崎さん。お怪我はないですか?」
 つくしも慌てて神崎を気遣い頭を下げる。
 「はい、本当に大丈夫ですから、奥様もお気になさらず」
 つくしにもこだわりなく頷き微笑み返す神崎の態度は、あの楓との三者会談以前とまったく変わり映えがなかった。 
 あの日、普段のクールさをかなぐり捨て、つくしへと熱く肉薄した女の面影はない。
 「…あの、副社長。ありがとうございました」 
 神崎の気持ちを知ってしまったがゆえの先入観なのだろうか。
 転倒しかけたところを単純に助けられたことに対する礼を言っているだけだろうと理性ではわかるのに、なぜか司を見上げる神崎の顔が華やいで輝いて見えるのに、奇妙な不快感を覚える。
 氷の塊を飲み込んだようなひんやりとして、じんわりとした苦痛を伴う違和感。
 その感覚が初めてのものではないことに、つくしは気が付いた。
 最初は、屋敷の執務室で司と神崎が抱き合っていた時。
 そして、病院のベッドで眠っている司の手を、神崎が握り締めて眠っているのを見た時だ。
 だが…。
 …違う。初めてじゃない。
 ぼんやりと司と神崎、そして戒の姿を見つめていたつくしの目が大きく開かれる。
 …そうだ、あれは。




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もう ドキドキです。
頑張れー!不器用なつくし。

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