「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0232

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 人の悪い顔でつくしをからかって楽しんでいた老婆の顔が、生真面目に真顔になって小さく息をつく。
 「……ええ、急なことですが、そうなんですよ」
 つくしの腰に懐いてわちゃわちゃとふざけていた戒も、タマからすでに事情を聞いているのか、ムッと顔を泣きそうに歪めて、つくしへと小さな手を伸ばした。
 「お母さん、おんぶして」
 「え~」
 正直、幼稚園児とはいえ他の同年齢の子供たちよりも大柄な戒をおぶるのは、小柄なつくしにはキツイ。
 けれど、母親の底力とは大したもので、楽々とまではいかないものの、不思議に戒をおぶったり抱き上げることにそれほどの苦を感じない。
 「しょうがないなぁ」
 それでも一応はボヤいて、戒に背を向け覆い被らせた。
 馴染んだ温もりに、つくしの唇も柔らかく綻ぶ。
 つくし自身は憶えてはいないけれど、おそらくこうして、彼女は戒を育ててきたのだろう。
 時には辛いことや哀しいことも、泣いてしまうこともあったかもしれない。
 だが、自分を慕う愛しいわが子の温もりと…命の重みに励まされ、力を与えられ続けてきたのではないだろうか。
 司が戒を守るように、つくしもまたこの幼子を守って、守ることで逆に幸せをもらっていた。
 「おやおや、戒坊っちゃんはやっぱり赤ちゃん戻ってしまわれたんですかねぇ」
 「…赤ちゃんでもいいよ」
 いつもはタマのそういう小面憎い揶揄に一々反応して、強がりを言う戒も、よほど寂しいのか甘えたい気持ちを隠さず、しがみついたつくしの首筋に顔を埋めてしまう。
 タマもふっと愛し気に目を細め、そんな戒のくるくるの巻き毛をよしよしと撫でた。
 「そうだね。甘えられるうちは、たくさん甘えるのが一番だ。そうやって戒坊っちゃんは、素直な子でいてくださいよ。痩せ我慢して、意地を張っても何もいいことなんて、ひとっつもありゃしません。…甘えられるお母さんや、お父さんがいる戒坊っちゃんは、本当に幸せなお子だよ」
 一使用人ではなく、孫を見守る老婆の慈愛の眼差しに、戒もうふふふと、タマの言葉どおりの幸せそうな明るい笑い声をあげる。
 「つくし様、重くないですかね?」
 「……大丈夫です」
 「ハァ~、戒坊っちゃんに比べて、まったく。あんたは本当に依怙地な子ですよ。今、言ったばかりだろ?素直が一番って」
 叱られて、つくしが苦笑する。
 「はは…まあ、重いには重いですけど、でも、こうやって戒におんぶしてって言われて、おんぶしてあげるのって、なんだか嬉しくってあたし好きなんです」
 嘘偽りない本当の気持ちだ。
 「そうだね。あんたの可愛い子だ、嬉しくてあたりまえか」
 「はい」
 「俺もお母さんにおんぶしてもらうの大好き」
 「そりゃ、そうだろ」
 「あたしも、おんぶしてもらいたいかも」
 「「「はははは」」」
 優しい空気が流れてゆく。
 この道明寺家の人間で、間違いなく誰よりも司の味方であるはずのタマのことが、つくしも好きだった。
 司を孫のように可愛がり愛してはいても、盲目的に彼を是認することをせず、正しいこと間違っていることを見極め、彼のつくしになした非道を怒り嘆いていた。
 つくしが司を疎んじて、彼を悲しませ苦しめても、そのことに関して何を言うこともなく、ただ公平な立場でつくしにも親身になってくれたのだ。
 …たぶん、あいつが無理をして倒れたんだって、あたしのせいもあるよね。
 自惚れではないはずだ。
 以前の司もハードスケジュールだったらしいが、吐血して倒れるほどの無茶を続けたのは今回が初めてだそうで、妻のつくしのサポートもあり、騙し騙しでも決定的に体を壊したり、病むほどの無理はせず、それなりに自己管理にも励んでいたという。
 それなのに、タマは決してつくしを責めない。
 思えば、初めて出会った時からタマはつくしの味方でもあった。
 不思議にそう信じられる。
 けっしてやわやわした人ではなく、どちらかといえば厳しさを隠さない人ではあるのに、いつもタマは温かかったのだ。
 ありきたりのわざとらしい優しさなどではなく、時に厳しく、けれど人の心の痛みを理解し、何食わぬ顔で寄り添ってくれる人だった。
 …このお屋敷で、唯一、あたしに『可哀想に。辛かったね』と言って、力になれなかったと謝ってくれた人。
 「…ロスアンゼルスの椿お嬢様がね、切迫流産で入院されることになったんですよ」
 「え?」
 椿というのは、たしか司の姉だったか。
 話に聞くところによると、弟夫婦の事情を察して、何かと嫁であるつくしのことも可愛がり、力になってくれていた人物であるという。
 そういえば、昔、『俺の姉ちゃんだ』と言って、司が誇らしげに、椿の肖像画を自慢していたことがあったなと、どうでもいいことを思い出した。
 「戒坊っちゃんより少し先に生まれた咲ちゃんというお嬢さんがいらっしゃるんですがね、つい先ほど二人目の妊娠がわかったんですよ」
 「へぇ、それはおめでたいですね」
 椿がどんな人物かはわからないが、肖像画の女性はとても優しそうで、つくしにもよくしてくれた人だと聞けば、自然、おめでたい話題が喜ばしかった。
 「咲、お姉ちゃんになるの?」
 「ええ、戒坊っちゃんのお従兄弟がお生まれになるんですよ。今度は坊っちゃんが、お兄さんですね」
 「お兄さん!俺、男の子がいいな」
 気の早い話だが、戒も嬉しそうに希望を述べる。
 「でも、切迫流産って?」
 たしか、さっきタマはそう言わなかっただろうか。
 流産したおりの記憶がなく、高校生のつくしには縁遠い単語だが、なんとはなしにその意味を察して、陰鬱な顔で溜息をつくタマを伺った。
 「そうなんですよ。咲お嬢様の後、二人目を望んでらして、やっと待望の二番目のお子だ。大事にしてしすぎることはないのもあるが、椿お嬢様も婚家にいろいろあってね。ストレスやらなんやらで体調を崩して流産しかけちまったそうで、出産まで入院することになったらしいんですよ」
 「…そうなんですか」
 椿のことを憶えていない、そして道明寺家の嫁としての自覚がないつくしにはそうとしか言えない。
 「勝気な子だからね、司坊っちゃんやあたしに愚痴ったりするような子じゃないけど、さすがに今回は参ってると見えてね。ずいぶん心細がってるからって、奥様がね…椿お嬢様の出産まで傍についててやってくれないかとお望みなんですよ」
 「ああ、なるほど」
 司にとってもタマが祖母のようなものなら、その姉の椿にとっても同様だろう。
 「ちょうど奥様もこの後、自家用ジェットでNYに戻られるからね。NYまで奥様とご同行して、あたしもロスアンゼルスへ行くことになったんですよ」




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