「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日⑤

愛してる、そばにいて0231

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 沈黙が二人の間を支配した。
 それは何度も何度もお互いに訪れた断絶で、最初から最後まで、彼ら二人に通じ合える共通したものなど何一つなかったのかもしれない。
 それでも必死に彼女へと伸ばされる司の不器用な手と熱く激しい想いに、何度か手繰り寄せられ、絆され生まれた何かがあったことも否定しようがない事実だった。
 ―――けっして認めたくはなかったけれど。
 …でも、あたしは。
 愛慕を湛え哀切を訴える司の目から視線を反らし、つくしは今度こそ病室を退出すべく、再びソファから立ち上がった。
 「あたし、帰るから」
 「…………そうか」
 今度は司も、あえて彼女を引き留めようとしない。
 ただ、彼がつくしを目で追っていることは、たとえ振り返らずともつくしにも容易にわかった。
 ドアノブに手をかけ、そのまま去ろうとして…しかし、つくしは完全に司を振り切ることができずに、こめた手の力をわずかに緩め、唇を舌先で湿らせ口を開いた。
 「か、神…………美作さんが…」
 神崎と言おうとして、名前を言い換えたのはどんな思惑のなせる業だったのか。
 …別に意味なんかない。
 そうだ、ただ、神崎とあきらが言っていたことが同じことだっただけのことで、おそらく神崎から何度も諫言されているのだろうから、まだ親友のあきらの忠告の方が、司には効き目がある、そう思っただけのことだと、つくしは自分を誤魔化す。
 司が無言で彼女の言葉の続きを待っていた。
 「あんたが無茶をしすぎだって、すごく心配してた…その…、病院を退院してからも、もっと自分の体のこと、考えろって」
 「………」
 「無理しない方が…いいよ」
 「ああ、ありがとう」
 あきらが言っていたから…言い訳なんかじゃなく本当のことで、つくし自身が心配しての言葉なんかじゃなかったのに、司の声にこもった確かな喜びと素直な感謝の言葉が、つくしの胸を突いてかすかに疼かせる。
 その罪悪感かあるいは他の感情からなのか、言わなくてもいいことだとわかっていて、それでもどうしてもつくしは言わずにいられなかった。
 「えっと、その…あたしじゃなくって、美作さんに、…あんたのこと少しは労ってやってくれって頼まれたから、ただ…それだけなの」
 「…わかってるさ。それでもお前が少しでも俺を気にかけてくれることが嬉しい、俺もただそれだけだ。礼の意味は」
 「そ…う」
 勘違いなんかしていないと、ほろ苦く頷く司の声があまりに儚く…寂し気だったから、だから…。
 自分でも何がしたいのかよくわからない。
 揺れ動く心を深く見つめることを拒んで、つくしは心に浮かんだ思いを一気に言い切ってしまった。
 「あんたは会社にとってなくてはならない人で、あんたは無理せざるえないのかもしれないけどさ。でも、同時に戒にとってはただ一人のお父さんで、あの子を守ってあげることができる唯一の人なんだよ」
 「………」
 「だから、体をもっと大切にしてあげて。あんたが今回みたいに倒れちゃったり、重い病気になったりして、もしものことがあったら、一番悲しむのはあの子だと思うから」
 振り向かないつくしの横顔は、陰になって司からは見えなかった。
 だが、今の彼女がどんな顔をしているのか、今だけは司も見たいとは思えない。
 …きっと、不本意で複雑な顔をしてるんだろうな。
 と、苦笑して。
 それでもよかった。
 つくしが彼を案じるような言葉をかけてくれたから。
 ただそれだけで、温かい。
 冷たく凍えた心が癒される。
 彼を愛していない女の優しさが身に染みた。
 「ああ、そうだな」
 彼がただ一人愛する女が生んでくれた大切な息子。
 戒と…たとえ望んではくれていなかったとしても、この目の前の愛する女を守り、愛し続けることだけが、司の存在理由であり…『生きる』ということそのものなのだから。
 「…気を付ける」
 「それじゃあ…また」



*****



 「お母さんっ!!お父さんはっ?」
 屋敷に帰るとすでに戒と、タマも帰っていて、つくしへと向かって戒が飛びついてくる。
 「ぐひっ」
 …少し大きくなったよね。
 初めて(感覚的には)出会った時よりも、幾分か大きくなった子供の勢いに押されて、つくしはたたらを踏んで危うく背面に倒れてしまうのをなんとか堪えた。
 「坊っちゃん、そんなふうに飛びついたりしたら、今度はお父さんばかりか、お母さんまで大怪我をして寝込むことになってしまいますよ?」
 「ええっ!?」
 たしなめるタマの言葉に、戒が大げさに驚いて、蒼褪めた顔でつくしを見上げ泣きそうになってしまう。
 「お母さん、大丈夫?怪我しなかった?」
 「あ…うん、平気。なんとか踏みとどまれたから。でも次回は飛びつくんじゃなくってさ、もうちょっと緩やか~に抱き付いてくれるとありがたいかな」
 些細なことで意気消沈してしまった戒の様子につくしも戸惑って、俯いてしまった戒の頭をポンポンと小さく撫でる。
 「うん、ごめんね。またお母さんを俺のせいで入院させちゃうところだった」
 その言葉に、ハッとタマと顔を見合わせる。
 そうだった。
 つくしが過去の記憶を取り戻して、ここ10年間の記憶を代わりのように失ってしまったキッカケの事件には、戒も大きく関わっていたのだ。
 「せっかくお母さんが元気になってくれたのに…」
 けっして今の状況が戒のせいだとは思わないし、それを責めるつもりなどつくしにはなかったが、幼い子供がそんなことをいつまでも憶えていて、自責しているとはまったく思いもしなかった。
 「戒」
 幼い子供の足元に腰を落とし、暗い顔の息子へと微笑みかける。
 …可愛い子。
 素直にそう思える。
 以前の戸惑う気持ちよりも、ずっと彼を愛しく思う気持ちがはるかに勝って、今の彼女は本当に彼を愛していた。
 司を愛することよりも、遥かに容易で、そして苦しみも哀しみも伴わない、ただ愛して慈しんでやることができる存在は、つくし自身の心も救ってくれた。
 かつて、ちっぽけな雑種犬がくれた温もりのように。
 無垢な眼差しと一心に彼女を慕う気持ちが、つくしの一度は壊れて歪んでしまった心を癒してくれたのだ。
 …もし、あたしが、今この子の傍かいなくなってしまったとしたら。
 そうしたらこの子はいったいどうなってしまうのだろう。
 かつての…戒を生み育てたつくしが危惧した不安を、我知らずつくしもふと思って、肌を泡立てさせる。
 …違う。戒のことは手放さない。
 楓にも疎まれ、道明寺家でも立場のない子供だ。
 自分のことですら、今は五里霧中な状態ではあったが、確固たる意志でつくしはあらためてそれを肝に銘じる。
 『…きっと、司は手放さないでしょうね』
 甦った楓の言葉を脳裏から追い出し、彼女へと微笑み返してくれる子供を抱きしめ、真剣な眼差しで目と目を合わせた。
 「戒、お母さんは大丈夫だよ」
 「………うん」
 「お父さんも…ちょっと体調がよくなくなっちゃったけど、すぐに元気になってお屋敷に戻ってきてくれるから」
 「ホント?」
 「ホントだよ。お父さん、不死身の俺様なんでしょ?」
 以前のつくしがよく口走っていたとかいうあだ名を持ち出して、小さく笑い合う。
 「本当だ。お父さん無敵なんだもんね」
 「そうそう。戒のことを守らなきゃならないんだから、いつまでも病気でなんかいられるはずがないでしょ?」
 普段多分に司を英雄視してるところのある息子だ。
 そんな大げさな言葉にも、嬉しそうに頷いて、顔を明るくさせる。
 「そうだね!俺、今からお見舞いに行きたいっ」
 「…あ~、それはね」
 さすがに倒れたさっきの今で、司の体調的にも子供の面会はまだ大変だろう。
 …それとも、会いたいものなのかな。
 子供を持ったことがない(自覚がない)つくしには、よくわからない。
 「それは明日にしてあげなさいな。きっと、今頃はまた懲りずに仕事に励んで、ヘロヘロになってるか、まだ青色吐息状態でしょうからねぇ」
 悩むつくしの横合いから、タマが口を挟む。
 「あ~、いえ。なんかもう、無理はしないようなこと言ってましたよ?」
 「ほおぉ?」
 ハッキリと明言したわけではなかったが、つくしの忠告に気を付けると言っていたのだから、そういうことなのだろう。
 不思議に単なる安請け合いには思えない。
 それよりも…なぜか、ニヤニヤと揶揄るようにタマに見られて、なんとはなしに居た堪れずに、話を反らす意図でタマの恰好を指摘しようとして、それに気が付いた。
 …あれ?
 「それより、タマさん、どうしたんです?もしかして、これからどこか遠くへお出かけされるんですか?」




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