「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日④

愛してる、そばにいて0223

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 朝から体調の悪さは自覚していた。
 いや、それを言えばだいぶ以前、つくしが高校時代までの記憶を取り戻し、その代わりにここ10年間の記憶と…彼への愛情を失ってしまってからずっとだ。
 眠れない。
 食欲がない。
 過度なストレスと疲労。
 以前はそれらを和らげ癒し、陰日向に支えてくれていたとうの最愛の女の不在…というべきか、愛情の欠落が、現在の司を追い詰め、破滅へと追い落としかけている。
 自分でも自覚していた。
 …チッ、情けねぇ。
 死にたいわけではない。
 破滅したいわけでもなかった。
 もちろん、それはそうだ。
 自分の死や破滅は、最愛の妻子を苦しめ哀しませることになる。
 そこで現在のつくしは、たとえ彼が死んだり破滅したところで、悲しむどころか安堵するかと思い当たって、自虐的な笑みが浮かぶ。
 だが、わずかに救いがないわけではなかった。
 少し前までのつくしは、高校時代―――彼が無理矢理に奪った当時の彼女に戻り、徹頭徹尾、司を嫌い疎んじて憎んでいたが、ここのところのつくしは、戒のおかげだろう、時折、司のごく近く…すぐそばにまで歩み寄り、寄り添おうとしてくれているように感じられることもあったのだ。
 赦されたわけではない。
 だが、しかし、かつてのような頑なさだけでなく…。
 …どっかの誰かがよけいな入れ知恵してんのかもしれねぇけどな。
 急ぐな。
 焦るな。
 過去の自分の非道な行いが、つくしを哀しませ苦しめ、結果愛する女を一度壊してしまった。
 結局今の事態を作り出したのは、愚劣で卑小だった自分で、その罪の応報が正しく彼の上にだけではなく、何の罪もないつくしと、彼女が産んでくれた我が子へと科せられようとしている。
 そう思えば、多少の自分の苦悩など取るに足らず、自業自得、因果応報で、少しの斟酌の余地もない。
 だがそんな殊勝な気持ちとは裏腹に、酷使し過ぎた肉体や精神が磨耗し、悲鳴をあげ、さすがの司もそろそろ限界にきているのを自覚していた。
 彼自身の家族の大黒柱としてだけでなく、多くの社員たちとその家族の生活を支える経営者として、本格的に自分の体調の管理について考えないわけにはいかないだろう。
 …つくしに叱られちまうもんな。
 脳裏に浮かんだ…かつての彼を愛してくれていた妻の
怒り泣きの顔をほろ苦く思い出して、その面影が決して消えぬようにと、女々しくも大切に胸の奥底にしまいこみ直す。
 とりあえず、一週間の九州出張を終え、少なくても明日一日はオフを取り体を休められる算段だった。
 いつものように指先で目頭を軽く抑え、心に愛する妻子の姿を思い浮かべ自分に活を入れる。
 …あいつらを守れるのは俺だけだ。
 魑魅魍魎渦巻く彼らの世界で、有力な後見を持たず、一族の総帥である司の両親に疎まれた立場の弱い妻子を守らなければならない。
 その為にだけ走り続けた。
 走り続けている。
 …もう少しで、あいつらに逢える。
 それだけを心の支えに、自らへの褒美として。
 『本社に到着いたしました』
 インターフォン越しのリムジンの運転手からの報告に、司は俯けていた顔をゆっくりと上げ、目を開ける。
 どうやらホンの一瞬の間でも、いつの間にか眠ってしまっていたようで、破鐘のように鳴り響いていた頭痛はいくぶんかなりを潜め、その代わりのようにどんよりと頭が重く、わずかに二重写しにブレた視界に溜息をついた。
 …まずったな。
 中途半端に眠ってしまって、思考を鈍らせるよりも、緊張感を持続させるべきだったと後悔する。
 休息を求めて重く落ちる瞼をどうにかこうにか開けることに成功してはいたが、それでも胸の下…胃の辺りがキリキリと痛んで吐き気が収まらない。
 …一度、医者に見せるか。
 頑固に拒んできたが、この期に及んではさすがに秘書の諫言も無視し続けるわけにはいかないだろう。
 体調の悪さにほとんど食べ物が喉を通らず、食欲がわかずに、朝食も今朝は口にしていなかった。
 …いや、昨夜は会食がなかったから、昨日の昼からか?
 もしかしたら、前日の朝食からかもしれなった。
 滑るように停車した車のドアが外から開けられ、司は長い足をゆったりとリムジンから下ろして立ち上がる。
 ドアの前に運転手とともに控えていた秘書の神崎以下、SPたちや出迎えの会社幹部たちが一斉に司へと最敬礼で腰を折った。
 「お帰りなさいませ。美作商事の美作副社長、東和興産の坂崎専務以下、3社合同プロジェクトチームの主要メンバーがすでに第二会議室でお待ちです」
 「すぐに向かう」
 分刻みの過酷なスケジュール管理のもと、ほとんど誤差なくそれらをこなしていても必ずしも予定通りにとは事が進まない。
 誰にもわからぬ程度にうんざりと小さく息を吐き、一歩、司が前に足を踏み出した瞬間―――、足元がグニャリと歪んだ気がした。
 フラリとよろめき傾いだ司の異常に気がついたのは、誰が一番先だったのか。
 …ぐっ。
 「ふ、副社長―――ッ!?」
 堪えられない。
 胃の激痛と激しい嘔吐感に司が体を半分に折り、片手を口に当てて嘔吐する。
 が、口から大量に溢れ出したのは、朝ほとんど食べることができなかった朝食などではなく、真っ赤な鮮血。
 目の前がチカチカとして、ザーッという耳鳴りとともに周囲の喧騒が遠のき、司の視界が狭く暗く閉ざされてゆく。
 …牧野。
 意識が闇に閉ざされる寸前、やはり脳裏に浮かんだのは最愛の女の怒った顔。
 …笑った顔が見たいのに。
 『だから、無理をしたらダメって言ったじゃないっ!!』
 …つくし、お前に逢いてぇ。
 どんな彼女であっても、司はただ彼女に…愛するただ一人の女に逢いたかった。



*****



 ピーポー、ピーポー、ピーポー
 どこか遠くで救急車のサイレンの音がした気がして、つくしはハッと顔を上げ窓の外を見上げた。
 もちろん広大な道明寺邸のこと、救急車の音がごく稀に聞こえることはあっても、ごく近所でということありえない。
 …気のせいかな。
 「あっ、いたっ!」
 気を散らしたせいで手元を誤り、繕っていた幼稚舎の制服のシャツのボタンホールではなく、自分の指の方を刺してしまった。
 「あっちゃ、いたたた」
 大した傷ではないが、突き刺してしまった傷口からじんわりと真っ赤な血がにじみ出て、小さな珠になって滑り落ちる。
 慌てて指先を口に含んで事なきを得たが、危うく真っ白な戒のシャツの上に赤いシミを作ってしまうところだった。
 …ヤバヤバ。
 もちろん、今つくしが繕っているシャツ一枚しか持っていないわけではなかったけれど、道明寺家のお坊ちゃまのお召し物だ。
 制服のシャツ一枚にしても、他の一般の生徒たちとは仕立てが違う。
 この一枚で、幼い頃のつくしや進のシャツのいったい何枚分が賄えるものかと考えれば、うっかりとよけいなシミ1つでも作るわけにはいかなかった。
 …お金持ちの見栄なんだか、威信だか知らないけど、ちょ~っと合わせのところが汚れたり擦り切れちゃっただけで、すぐに捨てられちゃうんだもん、ありえないっしょ。
 痛む指先をチュウチュウ吸いながらも、なんとか取れかかっていたボタンの取り付け終了!
 「やれやれ。戒が幼稚舎から帰ってくるまでもうちょっと時間あるし、ネットサーフィンでもしようかな」
 先日、桜子から聞いた話が気にかかっていた。
 『今、道明寺さんのお母様は中国にいらっしゃるそうですよ。中国、韓国と東アジア圏を回って、おそらく近日、日本にも立ち寄られることと思いますが、どうですか?先輩の方にあれから何か、楓社長から連絡がありました?』
 連絡も何も、今つくしの元には一切、楓からの音沙汰がなかった。
 …どういうつもりなんだろう。
 もちろんつくしにしてみても、一朝一夕、今日明日なにがしかの指示を受けたり、楓が司に対してどうにかアクションを起こしてくれると考えていたわけではなかった。
 トゥルルルルルルルル、トゥルルルルルルルル。
 ビクッ。
 考え事をしていたところへ、突然鳴り響いた内線電話の音に思わずビクついてしまった。
 「ああ~、びっくりした」
 それでも切れないうちにと慌てて電話へと歩み寄り、受話器を上げ耳に当てる。
 「はい…………え?道明寺がですかっ!?」
 それは、司の第二秘書の山田からの、司の急を知らせる電話だった。
 『副社長が会社で吐血されて…現在救急車で病院に』
 …道明寺っ。




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つくしの反応が気になりますー!
それにしても、やはり運命?!
つくしちゃんも司への予感が働く?!
こういうのって、ホント悪いことが思い浮かんじゃいませんか?
また更新楽しみに待ってます。

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