「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日④

愛してる、そばにいて0212

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 シャッツ―――。
 つくしにとって、この名前はタブーだった。
 温もりと優しさ、慰めをくれた小さな生き物を思い出すことは、同時に彼女の哀しみと苦悩を蘇らせ、過去の辛い日々を彷彿とさせる。
 咄嗟に司から視線を反らし、唇を噛みしめる。
 もう10年も昔のことだと周囲が言い、そして実際その通りなのだろう。
 けれど、彼女にとってはまだそれほどの年月が経っていない生々しい傷痕。
 何度司の冷酷さや非情さを見せつけられても、ホンのわずかに覗かせる彼の孤独や不器用な優しさに絆されてしまっていた彼女を決定的に、司への憎悪に突き落とした出来事。
 愚かな自分はまたも同じ過ちを犯そうとしているのだろうか。
 突然、顎先に触れてきた指先の感触に、つくしがギョッと司を睨む。
 「噛むな」
 「え?」
 一瞬何を言われたのか、理解できなかった。
 泣き笑いのような…らしくない自嘲的な表情を浮かべた司の顔を、目を瞬かせ呆然と見入る。
 「なにを…」
 ワ――――ッ!!
 つくしの声をかき消す様にして、人々の歓声がドッと湧き上がって、つくしも慌てて水槽へと向き直る。
 水槽全体に色鮮やかな照明がライトアップされ、躍動的な映像が投影されて、その映像とともに活性化したペンギンたちが、ドボンドボンと次々水中へと飛び込み、凄まじい勢いで泳ぎだす。 
 「わぁ!綺麗」
 「凄い、凄い!ペンギンたちが猛スピードで泳ぎだしたよ!」
 「おもしろ~い!」
 そこかしこで上がる歓声をよそに、水槽へと顔を向けていても、もうつくしはペンギンたちを見てはいなかった。
 横顔に感じる司の視線を無視して、彼の存在そのものを拒絶する。
 しかし、かつては容易だったその行為が、今はなぜかひどく難しかった。
 彼の苦悩を…彼女への恋慕と懇願を見ないフリで、耳を塞ぎ、口を噤んできたというのに、なぜかそれができない。
 …顔の横、道明寺が見ているところが熱い。
 今はまだ…何も考えたくはなかった。



*****



 自然水景、クラゲ水槽、アクアギャラリーと順路通りに進んで、珊瑚水槽のあたりまではざっと見るだけで済ませられたのだが、ペンギンやオットセイの水槽で、かなりの時間、立ち止まって見入ってしまったことで、やはりスカイツリータワーの展望台観覧は絶望的になってしまった。
 「…あぅ、失敗したぁ~」
 後悔先立たず、エイやらサメやらが泳いでいる水槽に懐いて、項垂れる。
 「なんだよ?そんなに夜景が見たいのか?」
 「そりゃあね、せっかく来たし…」
 「どうしてもお前が見たいっつーなら、上に連絡して貸切で延長させてもいいけどよ?」
 とりあえずこれまで超俺様的無茶苦茶はしでかしていない司だったが、つくしのガッカリした風情に出した提案は…やっぱり無茶苦茶。
 「いや、さすがにそこまではね」
 「お前がして欲しいなら、ここの開館時間も延長してもいいけど?」
 「…………」
 たぶん…というか、絶対冗談などではなく、思いっきり本気の上に、この男ならばそれが簡単にできてしまうのだろうけれど。
 「いいよ、そんな無理しなくて。それより、ここってお土産屋さんあるよね?」
 一応疑問形だが、確信している。
 「らしいな」
 「ちょっとだけ、寄ってもいい?」
 「ああ」
 司の返事にニマニマご機嫌に、張り付いていた水槽から体を離して歩き出す。
 もちろん司もすぐにあとに続き、つくしの横に並んだ。
 周囲が薄暗いせいか、外に比べれば珍しくあまり周囲の注目を浴びてはいないが、それでも真横を人とすれ違うたびに、どうしても司は通行人の視線を集めてしまう。
 …でも、こいつまったく動じないっていうか、気にしてないんだよね。
 必然、連れのつくしのこともいちべつしてゆくことが常だし、その後のコソコソ声での内緒話の声も気になって仕方がない。
 まったくの無関係な人たちばかりなので、英徳の同級生たちのように悪意があるわけではないだろうが、司のように他人の目をまったく気にしないという芸当は、つくしにはとてもできそうもなかった。
 …どこにいっても、こいつといるとこんななんだよね。
 それはたとえ、『英徳学園』というかつての司の箱庭の帝国ばかりでなく、また司を知る人たちがいない場所であってもなのだ。
 司自身が特別な存在であるという証なのだろう。
 …あたしとは住む世界の違う人間。
 かつて過去何度も思ったことだったが、今また別の感慨で思う。
 「牧野?」
 つい物思いに耽って無言になってしまったつくしを、司が怪訝に伺う。
 「えっと…本当はペンギンカフェの方にも行ってみたいとこなんだけどね」
 「ペンギンカフェ?」
 「そ、軽食を提供してるファーストフードショップなんだけど、ここでしか食べられない可愛い食べ物があるんだって」
 「ふん?」
 イマイチ司の反応が薄い。
 極めて男性的で、大人の男に『可愛い食べ物』と言っても、喜ばないのは当然のことなのだが、つくし的には面白くない。
 「ちょっと、あたしのバック貸して」
 司が肩からかけて持ってくれているハンドバックを取り返して中からスマホを取り出し、サササッと画面を操作して、目的の画像を司の眼前につきつける。
 「ほら、これ!可愛いでしょ?」
 ペンギンをモチーフにしたクッキーを乗せた、ブルーの色も鮮やかなパインゼリーとバニラソフトクリームのパフェ。
 女子的には見るだけでテンションが上がる代物だが、司の方はそうではなかったようだ。
 呆れたような、うんざり顔で嘆息。
 「…食いたいなら、食えばいいじゃん」
 しかし、共感はできなくても、つくしが食べる分には反対しないらしい。
 「うーん、今回はいいや。さっきあんたにもらったマカロン食べちゃったし、このあと、ちゃんとしたご飯食べに行くんだもんね?」




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こうしてると普通の恋人…夫婦像ですもんね。
つくしの天性の人柄?によって、会話も成り立っているし。。。
スカイツリー行ってみたい。。。
行ったら絶対このお話を思い出しますよ!笑

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