「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日④

愛してる、そばにいて0210

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 定時に帰る…と当初メールで司から連絡が来たが、さすがにそういうわけにはいかなかったらしい。
 …そりゃそうだよね。
 毎日、午前様帰宅やら早朝出勤が当たり前の男で、ここのところ土日祝日にもめったに見かけないくらいのハードスケジュールなのだ。
 むしろ、よくもデートだなんだと言い出す余裕があるものだと感心してしまう。
 …無駄な外出するくらいなら、お屋敷に帰って体を休めればいいのに。
 別に司を心配するつもりもないつくしでさえ、そんなお節介を思いつくくらいだ。
 司の忠実な秘書である神崎など、折に触れて彼の体調を心配していた。
 『いくらタフな方でも、このままでは身体を壊されてしまいます。奥様から、副社長に…いえ、すみません』
 そう神崎が口ごもるたびに、彼女が何を言いたいのかつくしだとて、実はまったく察していなかったわけではなかった。
 司が無理をしていることなど、つくしにだってわかっているし、本人がどう思っていようと人間である以上、いずれは限界がくる。
 いや、たぶん、本当の意味ではわかっているわけではないのだろう…わかろうとするつもりもないし、わかりたくもなかったから。
 しかし、あの顔色の悪さや窶れ方が尋常なものではないことくらいは、つくしが知りたくなくても悟らざる得なかったし、たびたびタマも心配を口にしていた。
 …でも、あたしが何を言うって言うの?
 無理をするなって?
 もっと仕事のペースを落とせって?
 司が何の仕事をしているのかさえ知らない…ましてや、彼が屋敷にいない方がありがたいつくしがそれを言うのか?
 第一、いい大人のすることだ。
 本人がいいというものを、他人の彼女が意見する筋合いもなかったし、タマや神崎が換言しても聞き入れないというのなら、自分が意見したとしても聞き入れるはずもなく、それこそ意味のないことだろう。
 ちゅる…ズッ。
 いつの間にかグラスのアイスティを飲み干してしまい、手持ち無沙汰にストローをガジガジと齧っては、腕時計に目をやって何度目かのため息をつく。
 「ハァ~」
 …1時間か。お腹空いたなぁ。
 食事をする約束をしている以上、いくら待ちぼうけを食わされているからといって、自分一人で何かを食べるわけにもいくまい。
 頬杖をついて、見るともなく店内を観察する。
 平日の夜だったがそれなりに人もいて、さすがに店柄学生はいなかったが、シックな装いの店内にはカップルも多く、密やかなクスクス笑いで楽しそうに会話をする姿は、どこかつくしにはキラキラしく眩しかった。
 …会社の同僚とか、そういうのかな。
 斜め前方隣に座るカップルを見るともなく見て、予想する。
 男性の方はつくしに背中を向けて座っているので顔が見えないが、たぶん対面側に座っている女性と同年代、身振り手振りの大きなオーバーアクションで女性を笑わせていた。
 頬を染めて本当に楽しそうな笑顔は、幸せに満ちて輝き、とても可愛らしかった。
 そこかしこに、つくしがいつか夢見た平凡な恋が実在している。
 つくしにだけは実現しなかったささやかな幸せ。
 …きっと会社帰りに待ち合わせとかして、いつもデートしてるんだろうなぁ。
 それとも、まだ付き合い始めだろうか。
 ぼんやりとそうした幸福なカップルを眺め、あれやこれやと夢想しているうちに、いつの間にか周囲のざわめきのカラーが変わったことに、つくしはなかなか気がつかなかった。
 「悪い、待たせた」
 声をかけられて、ようやくつくしは目の前に待ち人が到着したことに気がついた。
 「…あ」
 …道明寺。
 約束の時間から大幅に遅れて現れた男は、言葉じりのわりにはそれほど申し訳なさそうではなかったが、わずかに肩を揺らし大きく胸を上下させている激しい息遣いが彼の心情を覗かせていただろうか。
 司の視線がつくしの顔や手元を一巡して、噛み潰したストローに止まった。
 子供じみた自分の行為が妙に気恥ずかしい気がして、つくしは手の中に握りこんでストローを司の目から隠す。
 「腹減ったろ?出ようぜ」
 「あ、うん。えっと、お茶とか飲んでいかなくていいの?」
 「ああ、別にいい。どうせ、すぐ飯行くし…ちょっと行った先に車、路駐してるからすぐに移動しねぇとマズイし」
 「え?あ…そうか」
 かつての司だったら路駐がどうした、俺様に文句を言える奴がいるか、くらいなことは平気で言って、社会のルールなどどこ吹く風で無視しただろうが、さすがに大人になってまでそのままではなかったらしい。
 相変わらずの俺様傲慢男のようでいて、概ね一般常識や公共のマナーは守れる男になっていた。
 促されるままに立ち上がると、司がテーブルの上の伝票を手に取り、レジヘと向かう。
 司の移動とともに、さっきまでおしゃべりに興じていた人々の視線も彼を追って移動する。
 …相変わらず、目立つ男だよね。
 さすがに司の正体まで看破されてはいないようだが、いかにも只者ではない佇まいに、そこかしこで芸能人なのではないかなどと噂する会話が聞こえる。
 「えっと、車で行くの?」
 「…他にどうやって行くんだよ?まさか歩いていくわけにも行かねぇだろ」
 「まあ、そりゃそうだけど」
 …電車とかだってあるでしょ。
 もちろんつくしも、司が電車に乗るとは思ってはいなかったが、単なる会話の接ぎ穂というやつだ。
 しかし、こんなところで路駐して先を急ぐくらいなら、最初から外で待ち合わせなどせず、会社か現地で待ち合わせた方が良かったのではないかと首をひねった。
 「ここから…30分くらいか」
 「スカイツリー?」
 「ああ。近くの店、予約してあっから、お前、それまで腹持つ?」
 「うん、まあ、平気だけど」
 腹が空いたか空いていないかと言われれば、極めて規則正しい生活をしているつくし的にはとっくにいつもなら夕食の時間帯で、今すぐにでも食事をしたいところだ。
 …でも、子供じゃないし。
 我慢しろと言われればできないほどではない。
 「え?運転手さんは?」
 「今日は俺が運転する」
 「え~?あ、あんた、一人なの?」
 「いや、それはねぇけど、SP連中は一応少し離れて追尾するように言ってあっから。お前につけてる中野も、後ろの連中の車に便乗させる」
 「え、あ…はぁ。そう」
 別にそんなことを聞きたかったわけではないが、言われるまま視線を司と一緒に流すと、つくしたちの視線に気がついた中野が小さく会釈を返し、少し離れた通りの角に停車している車に消えてゆくのが目に入る。
 …こいつって、車運転できるの?
 20才もだいぶ越えた大人なのだから運転くらいできてもおかしくはなかったが、司と言えば昔から運転手つきの車で移動が普通だったから、自分で運転するというのが凄く意外な気がした。
 戸惑うつくしをエスコートして先に助手席へと乗り込ませ、司がざっと周辺を見回す。
 オシャレな界隈だが、ひと目で普通ではない高級外車を遠巻きで眺めていた人々の目が車から、その車より更にただものではない司へと移動し、そして彼の鋭い眼光に出会って次々と立ち去ってゆく。
 「ちょっと、車で待ってろ」
 「え?」 
 「車の中なら装甲車並に安全だから、絶対一人で中から出るなよ」
 シートベルトを着用しようとまごまごしている間に、司は車を離れて再び店へと戻ってしまった。
 …なに?
 防犯対策だろう、少し車を離れただけなのに、ガチッとわざわざロックを締めてゆく念の入りようだ。
 しかし、むしろつくしにしてみれば、何度も暴漢に会いながら一人で行動する司の無鉄砲さに呆れてしまう。
 …まあ、あいつをどうにかできる人間なんてそうそういないだろうけど。
 閉所恐怖症というわけではなかったけれど、、一人ロックされた狭い車に取り残されて、通り過ぎる人々の好奇の目にさらされる時間がなんとも辛い。
 いつも誰かしらに見張られている生活。
 自由を制限され、本当の意味で一人になれない生活に叫びだしたいほどに耐え難い時がある。
 もしかしたら、今は司の存在自体より、そのことをよけいに苦痛に感じているのかもしれなかった。
 いつまでこんな生活を続ければいい?
 …一生?
 ガチッ。
 ロックが解除される音と同時に運転席のドアが開いて、司が乗り込んできた。
 「ほら、とりあえずそれでも食って、腹持ちさせてろよ」
 「え?」
 司にポンと膝の上に放り投げられた紙袋を、つくしが反射的に受け取る。
 「これ?」
 袋を開いて中の物を覗き込むと、色とりどりの可愛らしいマカロンが、綺麗にラッピングされてたくさん入っていた。
 「お前、そういうの好きだろ?」
 車のエンジンをかけ、ハンドルを握った司が、チラッとつくしを振り返って柔らかく微笑んだ。




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~ Comment ~

できる男ー!!!
つくしちゃんを少しでも振り向かせる為に頑張って!!
でもつくしちゃんは無情にも司を突き放す…展開なんですかね?
こういう平穏な?時があった後だと余計に辛くなりそうですね。。。

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