「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日④

愛してる、そばにいて0204

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 泣き咽ぶ戒をベッドに寝かしつけ、一息ついてつくしは寝室を出た。
 一つには気分を変えたかったこともあるし、戒の心情を聞いて、いてもたってもいられない気持ちだというのに、その解決策の糸口がまったく思い浮かばなかったからだ。
 …どうしよう。
 こんな時、誰に相談すればいいのだろうか。
 一番に思いつくのはやはり母の千恵子だったが、記憶を取り戻し病室で顔を合わせた一件以来、つくしからは連絡を取りあぐねている。
 母の方も何かしら感じるところもないわけではなかったようで、最初のうちは遠慮がちだったが、それでも母子の情愛がすべてを水に流すという考えなのだろう、今では何事もなかったかのようにショッピングに、お茶にと誘われることも少なくはない。
 …ママに電話してみようか。
 しかし、時間も時間だ。
 電話口で込み入った話をするのも気が進まず、結果的に、今のつくしがもっとも頼りにしている人物―――タマを訪ねるべく、彼女の私室を目指していた。
 早寝早起きを旨として、夜は早々に自室に戻るタマだが、乳幼児の子供はともかくとして、まだ宵の口、いくらなんでももう寝てしまったということもないだろう。
 …明日の方がいいかな。
 同じ家屋の中に住まっているとはいえ、人を訪ねるには非常識な時間帯だ。
 とりあえず行くだけ行ってみて、様子伺いだけして戻るのもありかと足を向けた。
 「え~、いいなぁ!お揃いなんだぁ」
 突然、聞こえて来た若い女の歓声に思わず振り返ってみれば、通りかかった廊下の向こう、つくしと同年代かそれ以下、屋敷内でも若手のメイドたちが固まって立ち話をしているところに出くわす。
 その中の一人…話題の中心になっている人物は、つくしもよく知るメイドの絵里だった。
 …絵里ちゃん?何してるんだろ。
 「見せて、見せて」
 「え~」
 「あたしも見たい!」
 ねだられた絵里の方も、なんだかんだ言って満更でもないのか、否やを言いつつも素直に懐から何かを出している。
 「わああ!!オシャレ!!」
 「へぇ~、いいじゃない」
 「えへへ」
 …なんだろ?
 興味を引かれて、ついついメイドたちの肩ごし、後ろから覗き込んでしまっていた。
 絵里が持っているのは何の変哲もないスマートフォン。
 つくし自身も所有していてなんら珍しいものではなく、ウキウキと覗き込んでいるメイドたちの関心の理由がわからない。
 「あ、若奥様っ!」
 あえて声をかけるつもりではなかったというのに、人の気配を感じて怪訝そうに振り返った絵里が驚いて飛び上がる。
 「若奥様っ」
 「ひっ、わ、若奥様ぁ」
 次々異口同音に声を上げ、鯱張ったメイドたちが慌てて頭を下げた。
 「…えっとぉ」
 「す、すみません」
 「申し訳ありませんっ」
 「すみません」
 何事か失態があったわけでもないし、つくしも叱咤しようとしていたわけではなかったが、メイドたちにすれば邸の女主人である彼女の姿にすっかり縮み上がっていた。
 おそらく叱咤される心当たりが彼女たちにはあったからなおさらのことなのだ。
 タマは理不尽な人物ではなかったが、屋敷内のメイドたちを厳しく管理し教育していた。
 仕事中に立ち話に興じるなど、言語道断だろう。
 「その…何を見ていたの?」
 「すみません!もうすぐ交代の時間だったからついっ。すぐに仕事に戻ります」
 青くなって謝罪するメイドたちの様子にかえってつくしの方が鼻白んで、申し訳ない気持ちになってしまった。
 …あたし悪いことしちゃった?
 心情的には、むしろつくしはメイドたちに近い。
 たかが立ち話程度を咎める気にはなれない。
 ただ、…羨ましいだけだ。
 人が羨む立場であるのは、むしろつくしの方だと誰もが声を揃えて言うだろうけれど。
 「いや、あたしこそごめんね?その…邪魔するつもりじゃなかったんだけど。なんだか楽しそうだな、って思ってちょっと覗いちゃっただけなの」
 困った顔でおずおずと言い訳をするつくしの態度に、メイドたちもどうやら咎められているわけではないことがわかったようで、戸惑ったように顔を見合わせて目で相談し合ってる。
 「えっと、もう行くから、あたしのことは気にしないで続けて?」
 和気藹々と息抜きの世間話を楽しむ彼女たちの仲間になりたいが、自分がその空気を壊している自覚がつくしにもある。
 ホンの少しうな垂れた気持ちで、踵を返す。 
 「あ、あのっ、若奥様っ」
 「………?」
 「そのっ、一緒にご、ご覧になりますか?」
 絵里が、遠慮がちにだが、つくしへと声をかけてくれた。
 「いい、の?」
 「えっと、はいっ」
 にっこり笑って頷く絵里に続いて、他の二人も「ぜひ、ぜひ」と、多少は表情がまだ堅いが頷いてくれる。
 おそらく古参のメイドたちではそうはいかなかっただろうが、それぞれまだまだ若い彼女たちには学生気分が残っている。
 絵里にしてみても、他の使用人たちに比べてつくしと接する機会が多いだけに気安い。
 「あのぉ、でもそのかわりと言ってはなんですが、タマ先輩にこのことは内緒にしてくださいますか?」
 ちゃかり頼んできた。
 二度、三度と目を瞬かせ、つくしが破顔する。
 「もちろん!」



*****



 つくしにメールした帰宅時間を大幅に遅れ、司が帰宅した時にはすでに21時を回っていた。
 だが、それでもここのところの激務を思えば、午前様でないだけ遥かにマシな方だし、元々定時に仕事を終えられるような立場でもない。
 …それに、どうせ誰が待ってるわけでもねぇしな。
 この時間帯なら戒も寝てしまっているから、つくしも寝室に引き上げているだろう。
 真っ直ぐに自室へと向かいかけて、だが思い直して向かう先を変える。
 タマから戒が英徳の幼稚舎を厭っているようなことを耳にしていた。
 本来なら母親のつくしと話すべき事柄に違いない。
 しかし、現在の彼女に過剰な役柄を振って、負担をかけるわけにはいかないことは明らかだ。
 戒の母親であって、母親でない女。
 彼女の戸惑いに司も気がついている。
 優しく生真面目な女だから、努めて戒の母親であろうとしている心意気はわかるが、人間の母性は本能だけでは制御できるものではないし、慈愛と愛情は似て非なるものだ。
 おそらく今のつくしが戒に感じているものは、母親としての愛情ではなく、自分に懐いている幼子への慈愛と憐憫…そして責任感だろう。
 …それでも、俺の母親に比べれば、雲泥の差ってやつだな。
 司を生んだ記憶を持ち、自覚もあるだろう女は母性などというものは有さず、一般的母性への幻想を真っ向から否定していた。
 「……の……です」
 「へぇ、こんなオシャレなカバーが売ってたりするんだぁ」
 ボソボソと聞こえる女の声の会話の合間に、聞き慣れた愛する女の声が合いの手を入れるのに敏感に気づいて、司が周辺を見回し視線をさ迷わせた。
 …どこだ?
 「最初はアクセサリーとかにしようと思ってたんですけど、やっぱりお勤めしてる以上、あまりチャラチャラもできませんし」
 「絵里ちゃんの彼氏って、まだ大学生なんですよ」
 「え?そうなんだぁ。もしかして、年下?」
 「いえ、あたしは短大出てすぐこちらに就職しましたし、彼は一浪してるんで」
 「へぇ」
 以前…高校生以前の過去の記憶を失っていたつくしにはなかった、活動的な少女を思わせる明るく燥いだ声音。
 気さくではあっても、少し前のつくしにはやはり年齢相応の落ち着きもあって、少なくても使用人たちと立ち話に興じるようなことは滅多になかった。
 「そういえば、あたし、スカイツリーとか行ったことないんだよなぁ…」
 「え?そうなんですかぁ」
 「彼氏と…デートとかもしたことないし」
 「「「ええっ!?」」」




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つくしちゃーんっ!!
たま先輩の助言が気になりますよー!!
お話にちゃちゃいれてスミマセン汗
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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