「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日④

愛してる、そばにいて0202

 ←ごめんね、そして…ありがとう →あなたに出逢えて…
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 道明寺財閥の非営利福祉団体への支援や社会貢献活動は多岐に渡っていて、その大半はおそらく企業イメージなど、結果的には企業の利益へと還元されてゆくのだろう事業だ。
 しかし、それでも…莫大な資金力を持つ企業が、そうした団体を支援することによって、多くの人びとが救われていることは確かであり、また、つくしがそうした事業に過去積極的に関わっていたことはどうやら事実のようで、視察と称して司とともに訪れた先々で、社交辞令ではない本物の歓迎を受け、戸惑いと…そして、まったく自分自身に現実味を持つことができないでいる今の彼女にも大きな感慨をもたらした。
 財団が支援を行っているいくつかの学校法人のうちの一つを訪問した帰りの車の中、見るともなく流れてゆく夜の街の灯を、窓からつくしはボンヤリと眺めていた。 
 『ありがとう、ごめんなさい』
 かつての彼女は、自然にそんな言葉を身近にしていて、誰かから受ける好意も、誰かのために努力することも、別段特別なことではなく、誰かに必要とされること、そんな自分に自信を持つこと、それらすべては当たり前のことだった。
 ところが、司に囚われ…自分自身の人権や人格のすべてを否定され、まるで玩具のように弄ばれた。
 司はそれを『愛』や『恋』だと常につくしに示威し、彼女を説得し続けたが、裏腹につくしの心は萎み枯れ荒んでゆくことになった。
 もうどれくらい誰かからありがとうって言われていないだろう。
 自分が自分であること。
 自分に価値を見出すこと。
 それらすべては、自分を自分として生きて初めて得られる満足感なのだと、あらためて今日の訪問で思い知らされた。
 …外の世界を知ること。
 それはたしかに、彼女の押し込められた自我を解放することに繋がった。
 しかしそれだけに、自分を生きることを許されない自分の現状とのギャップに苦しむことにもなった。
 「どうした?疲れたか?」
 鏡面のように磨かれた車窓の向こう側、映り込んだ司に尋ねられて、つくしが目を瞬かせ振り向く。
 今はもう、記憶を取り戻した当初のように、彼を無視することはない。
 その度に感じるわだかまりを意識せずにいることはできなかったけれど、それでも、今、この目の前にいる男をむやみやたらに拒絶して、刺激し続けることが自分にとっても得策ではないことは、彼女自身も十分に自覚していたからだ。
 それに…。
 …昔とは違う。
 少なくても、違うように思える。
 まったくの別人だと思うには無理があったけれど、そう思うことがつくしの心の平安にも繋がっている。
 肉体関係を強要されない。
 笑うこと、話すこと、それらすべてを強要されないことは、むしろ逆に司への嫌悪や怨嗟を宥めて、つくしの態度だけではなく心を軟化させることにも成功していた。
 「お前が見てみたいというから、ある程度、目に見えてわかりやすいところを選んで訪問してみたけど、どうだよ?」
 「…そうだね。経済的なことが理由で就学できない優秀な学生とかにも、積極的に支援の手を差し伸べる活動をやっているとかって意外だったかな」
 「まあ、そこはな。うちもタダってわけじゃねぇし、まったくメリットがない話でもねぇからな」
 「メリット?」
 「ああ。優秀な人材確保はどこの企業も最優先課題だ」
 企業イメージアップだけを目的として、無償で行っている支援もないわけではない。
 だが、いくつかの支援の中には、将来道明寺財閥に就職することを条件とした奨学金制度などもあって、かつての英徳にはそうした制度はなかったが、ここ数年で英徳学園でも道明寺財閥の支援による奨学生制度が取り入れられるようになっていた。
 もちろん、それは司を通じたつくしの働きかけの成果の一つでもある。
 「そうなんだ」
 「そういうのはお前が特に熱心だった」
 「…あたしが?」
 「ああ。NY時代、苦学生の弁論大会に参観する機会があって、えらく感銘を受けたらしい」
 「…苦学生の弁論大会」
 「あっちでそうした活動に熱心だった著名人とも親しくなって、連れ回された影響もあったかもな」
 結果…、過去を憶えていないはずのつくしが、かつての自分と同じような境遇にある苦学生や経済的弱者たちに興味を持った。
 まるで憶えていないのではなく、ただ心の奥底に沈めているだけだとでもいうように。
 いや、実際、そのとおりだったのだろう。
 今思えば、常に綻びの兆しはそこかしこにあったのだから。
 「…いい笑顔だったね」
 「あ?」
 「働いてる人たちの顔がさ」
 支援する側も、支援される側も、未来に希望と野心を持ち、エネルギッシュに生きていた。
 つくしから奪われた未来が、そこにあったように思うのは、彼女のないものねだりの夢想でしかなかったのかもしれない。 
 それでも…。
 「前に言ってた、…あたしがしていた仕事?それってもう他の人がやってるの?」
 「…ああ」
 「そっかぁ」
 今日に限らず、これまでのいくつかの訪問先で、つくしは憶えていなかったけれど、幾人かかつての彼女を見知っている人たちが、彼女を惜しんでくれる場面があった。
 残念だと惜しまれる度に、心苦しく…複雑な思いに顔を歪めずにいるのが辛かった。
 「戻りたいのか?」
 「………」
 司の言葉に、まっすぐにその顔を見返す。
 だが、いつもは傲岸不遜に誰の視線も避けることはない司が、なぜかこの時には彼女の視線を受け止めずに反らせた。
 「戻ってもしょうがないじゃん。今のあたしじゃ、役に立つどころか、迷惑かけるだけだもん。そりゃ…いつかは、何かやれることがあるなら、あたしも何かしてみたいとは思うけどさ」
 「…そうか」
 けれど、しょせん彼女は囚われた籠の鳥。
 司の許してくれる範囲、道明寺家の許容してくれる範囲での選択肢しかないのだ。
 …あたしが望んだわけでもなのにね。
 「屋敷についたぞ」
 「…うん」
 気が付けば、今はもうつくしも見慣れた道明寺邸の敷地内へと辿りついていた。



*****



 「え?お泊まり会?」
 四苦八苦しながらブラウスのボタンを外す戒の唇が、彼の心情を正直に表して突き出している。
 「…まったく坊ちゃんは、お母さんと離れて一人でお泊まりするのがイヤだとダダをこねてるんですよ。もうすぐ小学生のお兄ちゃんになるというのに、ま~だ一人で寝られないなんて困ったもんですよ」
 わざとらしく呆れたような物言いをするタマに反発して、戒が強がりを言う。
 「一人でも寝られるよ!前は、スイスでも一人で寝てたんだもん!!」
 「そうですか?でも最近ではすっかり甘えたに逆戻りして、お父さんが会社でお泊りの日には、お母さんのベッドに潜り込んでるそうじゃありませんか」
 「…だって」
 つくしが記憶を高校生時代に退行させる以前、意外にも戒は両親とは別室で寝ていて、病気の時やたまに何か特別な日がある時以外は一人で寝ていたという。
 聞いてみれば、司の幼少期もそうで、欧米では乳幼児時代からすでに子供は両親とは別室で寝るというのが常識だとか。
 「あんた方御夫婦の場合は、別にそうした慣習に則ってというわけではなかったんでしょうけどね」
 「え?」 
 「いえいえ、こちらのことですよ。それより、戒坊ちゃんですよ。そういえば司様が同じくらいの年の頃にも一悶着あったもんですが、どうされるんですかねぇ?」
 「一悶着ですか?」
 くくく、と思い出し笑いをしているところを見ると、よほど愉快なことがあったのだろう。
 けれど、
 「まあ、でも司様には幼馴染みのお友達がいらっしゃいましたからね。なんだかんだで、それなりに楽しまれたようですが…」
 愉快そうだった笑顔を引っ込め、真剣な目になったタマの視線の先、ぷくっと頬を膨らめていた戒の顔が、つまらなそうにそっぽを向いた。




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NoTitle

更新ありがとうございます。。

ストック切れ&モチベーションも下がられている中、更新してくださって本当に嬉しいです。今までこんなに毎日更新してくださっていたのだなぁと、今までのご苦労に感謝を禁じえません。。

この作品大好きです。
次回更新を本当に楽しみにしています。

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