FC2ブログ

「中・短編」
拍手小話*①

世界でたった一つの光

 ←聖ウァレンティヌスの奇跡・前編 →聖ウァレンティヌスの奇跡・後編
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 俺の周囲の世界は、いつも騒がしくて、ホントは俺のことなんてちっとも見ていないくせに、上辺だけの気味の悪い笑みと諂い、ドロドロとした欲望に満ちていた。
 ガキの頃はそれでも、夢見ていたこともある。
 リムジンの窓から見える通り過ぎる風景の中に歩いているごく普通の家族。
 手をつないで、頭を撫でて、ただ愛おしそうに微笑む両親と、ただ無邪気に愛されることを享受している子供。
 または、ただ笑いあい、楽しげで将来の夢や希望を冗談交じりに語り、不安を蹴り飛ばしあう仲間たち。
 なんで、俺の周りには、笑いさざめく口だけののっぺら坊しかいないんだ?
 なんで、他の誰もが当たり前のように手に入れている何かってやつが与えられないんだ?
 なんで、なんで、なんで。
 いつもなんでという疑問にイラつき、何を手に入れても、与えられても満足することができない。
 乾いた砂の大地に、いくら水を注いでも吸い込まれていってしまうように、俺の心はいつも乾きと飢えに干あがっていた。
 「道明寺、お待たせ」
 見るともなしにどんよりと曇った空を見つめながら、ガードレールに寄りかかって足を投げ出していた俺の前に、牧野がチョコンと立っていた。
 ああ、そうだった。
 買いたいものがあるとか言って、嫌にファンシーな雑貨屋に入っていった牧野をここで待っていたんだった。
 返事もしないで、ジッと見ている俺を怪訝そうに見て、牧野は俺の顔の前で手をヒラヒラと振った。
 「…んだよ?」
 「いや、目を開けたまま寝てたのかと思って。どうしたの、あんた?」
 「なんでもねぇよ。もう買うもの買ったんか?」
 連れだって歩きながら、チョコチョコと小走りについてくる牧野に気が付いて、俺は歩調をわずかに緩めた。
 「うーん、それがさ、迷っちゃって」
 「中学のダチだっけ?」
 「そ。裕美ちゃんって言ってね。あたしや優紀と中学ではずっと同じクラスだったんだけど、高校は、駅3つ隣にある女子高に行ってたんだ」
 そのダチがそこで苛めにあい、精神的に病んでしまったとかで、つい先頃、別の高校に編入したらしかった。
 それでもしばらく、自宅療養ってやつをするらしくて、引きこもりがちなそのダチを見舞う手土産を見繕う為に、さっきの雑貨屋に寄ったってわけだ。
 「お前、昨日もそいつん家に、見舞い行ってたんだろ?」
 「…うん、まあね」
 「毎日行く必要ないんじゃねぇ?」
 おかげで、俺までそのシワ寄せ食って、こいつのダチんち日参の送り迎えでもしなけりゃ、ロクに一緒にいることさえできやしない。
 わりにあわないことに、帰りまで待ってたって、この後バイトだからって、デートに付き合わせることだってできねぇんだ。
 俺…ホント、健気だよな。
 「いいの、行くの!…だって、あたし、これくらいしかしてあげられないし」
 コイツにしては意気消沈した顔をして、ショボンと足元の石を蹴った。
 「中学の時ね、裕美、クラスの口の悪い男子にキツイこと言われたことあってね。ちょっと弱い子だったから、その時も少し、登校拒否みたいな感じになっちゃったことあるんだ」
 独り言みたいにポツリと牧野はしゃべり出した。
 俺は特に、何とも言いようがないから、黙って聞いている。
 「でね、あたしはその男子に裕美に謝れって食って掛かったの」
 まあ、牧野ならそうするだろうなあ。
 この俺にさえ、ダチのために歯向かってきたような女だ。
 黙っているはずがない。
 「だけど、優紀は違った。あたしとはまったく違うやり方で裕美を支えたの」
 何を言いたいのかわからなくて、俺はよく耳を澄まして、牧野をジッと見つめた。
 どうしたんだ、お前?
 なに、そんな切なそうな顔で俯いているんだよ?
 「あたしが苛めっ子を殴って、安易な方法で解決しようとしたのとは全然違うやり方。毎日ね、裕美の家に通ってただ、裕美を説得し続けたの。あの子、普段は大人しい子なんだけど、ここぞというときは、意志が強いんだ」
 「…だから、お前、今回はただ、日参してるのか?」
 「うん、なんだかね。上手く、私の言葉、届かないみたいで…。優紀もいま、お母さんの実家のお婆ちゃんが病気で倒れて、おうちが大変らしくってね。中々顔を出せずにいるって気に病んでいるんだけど」
 意気消沈している風の牧野の気持ちがよくわからなくて、俺は降り出しそうな空を見上げた。
 「あたしじゃあ、ダメなのかな」
 ションボリとした小さな声が、俺の耳に届いた。
 俺に歯向かってくるものには鉄拳制裁。
 それが問題になりゃあ、いくらでもババアが金で解決してきた。
 だから、俺にはヤラれて逃げる奴の気持ちなんてわからなかったし、そんな弱ぇえ人間を庇う牧野の気持ちもわからなかった。
 けど、そんな自分の気持ちが通じないで、弱いままで泣いているダチのことで牧野が傷ついていることだけはわかる。
 ホント、お人よしで面倒クセー女だからな、コイツ。
 「ガツーンと、一発殴ってやれば?」
 「はあ?」
 思いっきり不審げに、牧野が俺を見上げて眉根を寄せた。 
 「らしくねぇことやってんから、スッキリしないんだろ?」
 「なによ、それ。ガツーンと一発って、そんな簡単な…」
 「簡単なんだよ。てめぇ、もともと凶暴で単純にできてるのに、そんならしくねぇことしてっから、スッキリしないでウジウジしてんだよ」
 牧野はしばらく不服気に口を尖らせていたが、やがてクスクスと一人、笑い出した。
 なんだよ、ショボくれたツラしてると思ったら、ブスくれて、今度は一人で笑ってやがる。
 「…なんかさ、あんたってブレないよね?」
 「はあ?」
 今度は俺の方が、怪訝な顔で牧野の顔を見返す。
 けど、牧野はそんな俺の疑わしげな視線などどうでもいいのか、一人でそうか、そうかと頷いて納得している。
 な、なんだ、変な女。
 「…ガツーンか。そうか、そうだよね。あたしさ、ずっと、こうやって生きてきてさ、突っ張ってんじゃない?でも、どこかで優紀のようになりたい。優紀のような強さこそ本物なんだ、って思うことがたくさんあったんだよね。裕美のことだけが理由ってわけでもなかったけど、以前のこともあったから、いままでのやり方じゃダメかなって」
 「で、上手くないわけだろ?お前のやり方でダメでヘコむならともかく、誰かのマネなんてしてやがるから響かねぇんだよ」
 「道明寺」
 牧野が俺を真剣な目で見つめ返す。
 「お前らしくねぇ」
 「うん」
 俺の目を見て決然とした光を浮かべて、突然、牧野は踵を返す。
 「おいっ!どこいく?」
 「ブッ飛ばしてくる!裕美を苛めた奴ら、なじって詰め寄って、‘なんで、あんないい子をあんな風に苦しめるんだっ!’って言ってブッ飛ばしてくるよ。それで、裕美もブッ飛ばす!」
 牧野の目がキラキラと輝き、強い光が俺の胸を射抜く。
 「戦えって。自分と戦えって。一人で戦うのが難しいなら、その為に友達がいるんだもん。あたしや優紀がいるんだから、怖くないよって」
 眩しくって目を細めながら、それでも牧野を見ていたくって俺は視線を外せない。
 「おう!やっとお前らしくなったな」
 笑みが零れて、思わず嬉しくなる。
 この生気に満ち溢れた女が俺の惚れた女なんだ。
 真っ直ぐでお人よしで、誰よりも優しい。
 他人の痛みを自分のことのように感じ、誰かのためなら誰よりも強くなれるこの熱く、温かい女が俺のただ一人の女。
 と、牧野が前触れもなく俺に抱き付いてきた。
 お、おいっ!
 いつもは照れ屋で、手を繫ぐことさえぎゃあぎゃあ騒ぐコイツが、真っ直ぐに俺の目を見て真摯な眼差しを向けてくる。
 「いつもいつも大切なことをあたしに教えてくれてありがとう」
 抱き着かれて、思いもよらぬことを言われて、顔が熱い。
 そんな自分を誤魔化すために、俺はわざとコイツが反発してくるようなセリフを吐く。
 「…惚れ直しただろ?俺があまりにイイ男で」
 何言ってんのよ、と言い返してくると思ったのに、牧野はわずかに頬を染めてコックリと頷いた。
 ちょ、ちょっと待て!
 お、俺の理性を試す気か!?
 こんな道端で襲い掛かるわけにもいかず、俺は硬直したまま、腹に俯いてしがみついている牧野の体の周りで手を握ったり開いたりして、手の置きどころに迷う。
 そうこうしているうちに、気を取り直したのか、再び顔を上げて俺の顔を真っ直ぐ見て、微笑んだ。
 「…あんたは本当に大事なことを知っている男だよね。すっごい、イイ男…だと思う。バカだけど」
 「…っ。ば、バカは余計だ」
 あははと笑って、逃げ出す牧野を後ろから捕獲して、そっと抱きしめる。
 放せ!バカ~っ!!
 と照れ隠しで大暴れする牧野を抑え込みながら、ホンワカと広がる胸の温もりに、俺は牧野の髪に顔を埋めて、その優しい甘い匂いにうっとりと酔う。
 いつも、誰かに俺自身を見てもらいたいと思っていた。
 通り過ぎる眼差しに、俺を見ろ、俺の付属品を評価するんじゃなく俺自身を認めてくれと、いつも叫んでいた気がする。
 牧野は俺が特に意識もせずに、何気なく言った一言や、ただ思ったことをやっただけだというのに、時々、ひどく甘い優しい顔で笑ってくれる。
 『あんた、すごい男だよ!』
 『あんた、やっぱりカッコイイ奴だねっ』
 俺の金でもなく、俺の顔でもなく、俺の家でもない。
 むしろ、そうした付属物を鼻で笑って、蹴り飛ばす女。
 そんなお前にただ褒められたくて、『イイ男』だと認めてもらいたくて、俺は頑張れる。
 俺は少しでもお前に相応しい男に近づけているか?
 俺がお前を愛するように、いつかお前も俺を愛してくれるか?
 声なき俺の問いかけに気が付いたように、牧野は俺を見上げて、顔を真っ赤に染めたまま小さく囁く。
 

 『好きだよ』
 
 
 俺の周囲の世界は、いつも騒がしくて、ホントは俺のことなんてちっとも見ていないくせに、上辺だけの気味の悪い笑みと諂い、ドロドロとした欲望に満ちている。
 でも、たった一人本当の俺を見つけてくれて、見つめて光を灯してくれるお前がいれば、俺はもうどんな夢も見ない。
 その夢のすべてこそが、お前そのものだから。



(~Fin~)




web拍手 by FC2

関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【聖ウァレンティヌスの奇跡・前編】へ
  • 【聖ウァレンティヌスの奇跡・後編】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【聖ウァレンティヌスの奇跡・前編】へ
  • 【聖ウァレンティヌスの奇跡・後編】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク