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「中・短編」
Middle story(2~5話完結)

聖ウァレンティヌスの奇跡・後編

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 24時間営業のファミレスのソファに座りながら、見るともなしに夜の街の景色を眺める。
 2Fから見る景色では、メイプルの最上階から見下ろす夜景のように、夢心地な気分を与えてはくれなかったが、地上を歩く人々の視線は気にしなくてもいい。
 一度は注文を聞きに来たウェイトレスも、一度ドリンクバーの注文をすればあとは放っておいてくれて、まるで悲劇のヒロインよろしくこんなところで涙を流していても、誰も気にしてないでくれてありがたい。
 普段はもう人通りも少なくなり、こんな時間にファミレスで夜を過ごす人もあまりいないだろうけれど、今日は週末の金曜日。
 さらに恋人たちの記念日・バレンタインデーだということもあって、名残を惜しむカップルたちがそこかしこで楽しげな笑い声や囁き声を交わし合いながらさざめいている。
 『浮気~?あのお前さんにベタ惚れしまくって、トチ狂ってた我儘坊ちゃんがか?』
 亜門のあまりの表現に、ついつくしは笑ってしまった。
 『浮気なのか、本気なのかはわかんないけどね…』
 『ふーん、それでお前さんは、こんなところでメソメソ一人で泣きむせいでいたってわけか』
 『…別に泣き咽ぶって。なんだか、気が抜けちゃったのかな、なんて』
 普段、自分から司とのことについて他人に愚痴ったことはなかった。
 司の傲慢さや、自分勝手さ、俺様な態度などをわざと大げさに嘆いて見せることはあったが、実はそれほど司の性質を苦に感じたことはなかった。
 付き合い始めた当初こそ、司の個性の強さに戸惑わされ、怖気ついたこともあったけれど、その心根の優しさや純粋さに気が付けば、多少の欠点さえも司の持つ愛すべき性質の一端であると受け入れることは容易だったのだ。
 だが、そんなこととは裏腹に、司がなぜ自分なんかを好きでいるのかという疑問が年々大きく膨らんでいった。
 相変わらず司のつくしへの愛情表現はストレートで、熱烈なものだったけれど、それだけに、つくしの疑問は増大する。
 司がイイ男になればなるほど、司が本来の生まれそのままに大きく成長すればするほど、つくしには眩しく遠い存在に思えてきていたのだ。
 だから、あんな場面を見せられて、ふざけんなっ!と啖呵を切るのではなく、逃げ帰ってきてしまったのかもしれない。
 どんな理由があろうと、自分の付き合っている男のあんな場面を見せられて、大人しく尻尾を巻いて逃げるだなんて自分らしくない。
 あれが本当に浮気だったのだろうと、とっさに司が叫んでいた『誤解だ』という言葉が本当だったのならなおのこと、あそこに留まり真実を確かめるべきだったのではないだろうか。
 『なんだか、ずいぶん自信がないんだな…』
 亜門の言葉に返すべき言葉もない。
 『だって、あっちはああいう男なんだもん』
 『ああいう男ね。わかっててお前はあの時、あっち側に渡ったんじゃなかったっけ?』
 『…』
 あの時は、司の背景に竦むことはあっても、司自身に恐れ入ったり、圧倒されることはなかったように思う。
 あの頃でさえ、強大な権力と支配力を学園内で確立していた男だったけれど、所詮は親の庇護の傘のもとで虎の威を借りる狐にすぎないという思いが強かったのだ。
 それが、自分の意志でNYに行き、死にもの狂いで勉強に仕事にと、努力を重ねてゆくうちに、つくしには到底届かぬほどに磨かれ、眩いばかりの男になった。
 声を聞ければ嬉しく、愛の言葉を囁かられれば幸せで、会って抱きしめられれば逆にこれが夢なのではないかと怖かった。
 …そう、気が付けば怖かったのだ…いつ別れを告げられるのか、正気に戻った、自分に相応しい女は別にいると言われるのかと。
 あとは亜門が何を言っているのか、目の前にいる男がいったい誰なのかというのもどうでもよくなり、ただどん底の顔で俯くつくしに、亜門は肩を竦めた。
 『なんかだ知らねぇけど、いきなり落ちちまってる女に何言ってもしょうがねぇから、とりあえず泣きたいだけ泣いて行けよ。落ちるだけ落ちたら、ま、正気に戻んだろ。今頃、お前の相方も死にもの狂いで探し回ってんだろうし。ホントに捨てられちまったっていうなら、俺んとこに連絡しろよ。俺、今フリーだから、また拾ってやるさ』
 ニヤっとどこまで本気なんだかわからない笑みを浮かべ、懐の名刺入れから名刺を一枚取り出し、テーブルに置いていった。
 顔立ちは司と激似だというのに、その中に納まる魂が違うからか、仕草や表情はまったくの別人。
 司が重厚な真冬の雷雲を背負っているとするなら、亜門は真夏の灼熱の太陽を思わせる男だった。
 なんだか、今日はバレンタインディのせいなのか、妙に乙女チックに陥っているようで、司を思い出してまた涙が出てくる。
 自分らしくないと思いつつ、たまにはそんな日もあってもいいと開き直って、グズッと鼻水をすすった。
 「…ガキじゃねぇんだから、鼻なんてすすんなよな」
 間近で聞こえた呆れたような聞きなれた声に、つくしはとっさに窓の外へと視線を反らした。
 なのに、反らした先に映った司と目が合い、密かに動揺する。
 司はつくしに視線を合わせたまま、対面側の椅子に座り、片肘をテーブルについて、目を反らすつくしをじっと見つめた。
 「…チョコ、くんねぇの?」
 ブスくれたように呟かれた言葉は、普段の冷徹然とした男とは思えない子供っぽさ。
 思わず視線を司に向け、やっぱり想像に違わぬつまらなそうな膨れた顔をしていた。
 「お前のおかげで、せっかくたっぷりあった時間がこんな時間になっちまった。まだ、早い時間だったから、美味いもんでも食わしてやろうと思ってたのによ」
 「…」
 「だいたい、お前はなんだ、人が制止しているのを振り切りやがって。電話かけても出やしねぇ。何のための携帯なんだよっ」
 一方的に詰ってくる男の顔を見つめ返しながら、徐々につくしの眉根も寄ってくる。
 「たかだかあんな場面に出くわしたくれぇで…」
 バンッ!
 思わず、両手でテーブルを叩きつけていた。
 そのまま、身を乗り出し、司を睨み付ける。
 「なによっ!たかだか、あんな場面て、普通あんな場面に出くわして平然としてられるわけないでしょっ!」
 「平然としてろよ。俺がお前以外の女に欲情するわけねぇんだから」
 「ばっ!何、こんなところでそんな恥知らずなこと言っちゃってんのよっ」
 思わずキョロキョロするものの、いつの間にか周囲の客の姿がない。
 そういえば、カップルたちの騒めきも、この男が目の前に現れたあたりから聞こえなくなっていたのだが、目の前の司で一杯一杯のつくしは気が付かない。
 「もうっ!何よ、その態度!少しは申し訳なかったとか思わないのっ!?」
 「…なんで、俺が申し訳ないとか思わなければなんねぇんだよ」 
 「ふ、ふ、ふざけんなっ!!!!!」
 激昂して拳を振り上げたつくしの手をパシッと音を立てて、司が受け止めた。
 「たくっ、やっとお前らしくなったな。黙って泣いていなくなるなんてお前のキャラじゃないだろ?言いたいことあったら逃げるんじゃなくって、その場で言えよ。ふざけんなって息巻いて、俺を殴りつけるのがお前だろ?」
 …ま、黙ってやられたりはしねぇけどよ。
 男の冷静な優しい声音に、つくしの頭も冷える。
 ストンと腰を落としたつくしの頭を柔らかく撫で、司がつくしの目尻に残る涙を指先で掬い取った。
 「悪かった」
 「…え?」
 目を見開くつくしの顔が真っ青になる。
 「ちげえよ、勝手に勘違いすんな。お前を裏切ったからのごめんじゃねえ。油断して、隙をつくってお前を傷つけたことに対するごめんだ」
 「…道明寺」
 「俺の気持ちはお前に出逢って惚れた高校生の頃と少しも変わらねぇ。俺が変わって見えたとしたら、全部お前のせいだ」
 司の眼差しが真っ直ぐにつくしへと注ぎ込まれる。
 その眼の中には、好きだとか愛しているとか、惚れているとか、そういった熱い想いだけが溢れていて…。
 「言いたいことあんだろ?」
 「…言いたいこと」
 「ああ。今ならなんでも聞いてやる。馬鹿でもアホでも、マヌケでも。好きなだけ言え。そのかわり、俺が心変わりしたなんて、ありえねぇ馬鹿らしいことはこれから金輪際考えるな。第一、考えてみろ。ああいう女に心変わりするくらいなら、最初からお前みたいな貧乏くせぇ女に最初から惚れるかよっ。っと、殴んのはなしな?」
 とっさに出た手をよけられて、唇を尖らせて睨み付けるつくしに優しく微笑む。
 別につくしにだったら殴らせてやってもいいんだけど、後で正気に戻ったこいつが、俺を殴ったことを後悔して哀しむだろうから、そんなことはさせられない。
 「…本当に、浮気じゃないの?」
 「ありえねぇ」
 「でも、は、裸だった。あそこ、あんたが抑えてる部屋だったし」
 「従業員買収しやがったんだな。このまんまにはしとかねぇよ。あの女が裸だったのは…まあ、体張ってって奴だな」
 気色わりぃよな、と続けて髪を掻き上げるこの男の顔はマジだ。 
 「…あんたのスラックスの前立てが開いてたのは?」
 瞬間、さすがの司も顔を紅潮させ、苦笑いをする。
 「そりゃ、お前。お前が準備万端、あそこで俺様を待ち構えてんのかと思ったからに決まってんだろっ。言わせんな」
 普段は傍若無人な俺様のくせして、こんな妙なところで照れるこの男が不思議だ。
 だから、男の顔を見つめながら、壊れたおもちゃのように、口走ってしまったのかもしれない。
 「…っ」
 「あ?」
 「馬鹿っ!」
 「…」
 「アホッ!!」
 「……」
 「マヌケっ!!!」
 「……お前な。ホントにそこまで言うか?」
 「でも…」
 まだなんか言う気か、こいつ。
 何やら、子供の悪口のようになってきたと、司が頭痛を憶えた途端…。
 「好き!あんたが大好き!!だから、絶対に、浮気しないで。他の女に触ったりしたらいやっ!」
 真っ赤になって両手で顔を隠して、つくしはテーブルに突っ伏した。
 思わぬ言葉に、司の方が茫然と見送り、ついで、つくし以上に真っ赤なゆでだこのように顔を紅潮させ、それはそれは美しく幸せな笑顔を浮かべた。
 テーブルに突っ伏していたつくしはその顔を見ることはできなかったけれど。
 「…やっぱ、チョコ寄越せよ」
 「え?えー、ない」
 「ないっ!?」
 引きつった声音に、つくしが若干びくびくと上目使いで司を見上げる。
 「メイプルに置いてきた」
 「あー、部屋か」
 「そうだよ、渡そうと思って部屋までもっていったんだけど、あんなとこ見せられて、急いで部屋を出たから荷物全部置いてきた…あ、そういえば財布がない」
 今頃なんだが、財布の入ったハンドバックもどうやら部屋に置き忘れてきたらしい。
 「しょうがねぇな。ま、じゃあ、ここの支払いとチョコはこいつでまけとくか」
 「…え?と、ちょっ、…んん~!!?」
 聞き返そうとしたつくしの首の後ろがグイっと引っ張られ、あっという間に巻き込まれた甘い甘いキス。
 何度も角度を変え、蕩けるような甘い口づけ。
 「ん、ふ…うん、ん」
 最後にチュッと音を立て、唇に軽くキスを残して、司が立ち上がった。
 「じゃ、いくぞ!」
 「え?ちょっと、って。げっ!こんなとこでなんてことしてくれちゃってんのよっ!この恥知らずっ!!!」
 「別にいいじゃん。この店俺らしかいねぇんだし」
 「ええ?」
 右見て左見て。
 そういえば、人っ子一人いない。
 さっきまでいたはずの店員さんでさえ、厨房の中に引きこもったまま…出てこない?!
 「この店、さっき買い取ったから」
 「えええ?」
 「俺がこの店のオーナー。しょうがねぇから、無銭飲食の罪は許してやんよ。その代り、今日はお前、一日俺の奴隷ね」
 ど、奴隷!?
 「たく、せっかくの記念日、サービスしてやろうとした俺の真心をあやうくフイにしやがって…。まあ、これはあのフザけた女のせいだからしょうがねぇが、俺様を疑ったことは許せねぇ。一晩かけてじっくりと、俺様のふか~い愛情を教え込んやらねぇとなっ」
 上機嫌に言いながらつくしの手を引っ張る俺様男におののきつつ、懐から零れ落ちた真っ白な名刺を見送る。
 ヒラリと舞い落ちる名刺に、亜門の面影を写して…。
 バイ、ありがとう。でも、あたしは大丈夫。この強引で、傲慢で、俺様で、だけど誰よりもあたしを愛してくれて、あたしが愛している男があたしにはいてくれるから、もう平気。
 時には迷ったり、不安になったりすることもきっとあるけど、そのたびに、この男がきっとあたしを自分で作り出した
迷路から救い出してくれるのだろう。
 「…そういえば、あんたよくあたしがいる場所わかったね」
 「おー、俺様に不可能はない」
 「なにそれ~?」



(~Fin~)




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