「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日③

愛してる、そばにいて0195

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 『ミイラとりが、ミイラにならないでくださいね』
 そう桜子は忠告して、その話題をその日は締めくくった。
 釈然とはしなかったものの、桜子が自ら開示していることでなければ、つくしには彼女の口を開かせることは容易ではなく、とても太刀打ちできるような相手ではなかった。
 しかし、不思議に桜子を遠ざけようという気にはなれない。
 …なんでだろう。
 悪意ではないかもしれないが、時々彼女からつくしに対する苛立ちめいた感情を感じることもあるというのに、なぜか彼女の好意を疑うことができなかったのだ。
 おそらくそこには、彼女と出会い直しともいえるディズニーホテルでの再会時、彼女に出くわして本当に嬉しそうに微笑んだ桜子の表情に嘘がなかったからだと思う。
 もちろん、いくらでも本心を隠して、おもねる輩がいることなど今のつくしもよくわかっていた。
 何も持たなかった高校生のあの頃でさえ、ただ司の関心を得ているというだけで、さんざん嫌がらせをしていた同級生たちが手のひらを返したように友人ヅラしてきた記憶は今尚鮮烈に残っている。
 「無理ですよ」
 「大丈夫だって言ってるだろ?車に乗ってお使いしてくるだけなんだから、年寄り扱いするんじゃないよ、お離しっ!いた、いたたた」
 「先輩!!」
 「大丈夫ですかっ!?」
 わずかに聞こえた苦鳴に振り返ると、今しがた通り過ぎた廊下の角で数名のメイドたちと立ち話をしているようだったタマが腰に手を当てて呻いているのが目に入った。
 「タマさん?」
 引き返して声をかけると全員が、つくしに気がつき慌てて頭を下げる。
 「あ、すみません、突然割って入って」
 「戒坊ちゃん、ダダは捏ねませんでしたか?」
 「はは…、ブーブー言ってましたけど」
 毎日の幼稚舎への送迎をつくしが行うようになって初めて知ったことだったが、年齢のわりに聞き分けのよい子供である戒だったが、あまり幼稚舎が好きではないらしく、毎朝、なんだかんだとダダを捏ねる。
 幼稚舎に連れてゆくまではそれほど難題ではないのだが、戒を送り届けてつくしだけが帰ろうとすると引き止めたり、あるいは自分も帰りたいと言い出すのにはほとほと困り果てていた。
 他にもそんな子供はいないわけではないらしいから、それほど心配することではないのかもしれない。
 しかし、どうやらそうした戒の行動は、最近になって出てきたものらしい。
 会話の端々から、戒が日本の幼稚舎に馴染んでいないことは感じ取れたが、それでも以前はダダを捏ねることなく、ちゃんと通っていたというから、もしかしてそうした戒の変化は、つくしの変化が少なからず影響していたとしてもおかしくはなかった。
 「あの、それより、どうされたんですか?」
 杖に縋って腰を抑えて顔を顰めているタマを、メイドの一人が支え、もう一人のメイドと困ったように顔を見合わせている。
 「…それが」
 「大したことじゃないよ」
 メイドの言葉に被せるようにしてタマが口を挟むが、言葉のとおりに大したことではないのか、それとも隠していても仕方がないと思ったのか、しぶしぶ自分で事情を話し出す。
 「昨日、ちょっと荷物持った時に、腰をやっちまったみたいでね」
 「ええっ!?それは大変じゃないですかっ」
 タマはかくしゃくとしているが、隠居を遥かに通り過ぎ、どこかでのんびりと余生を過ごしていてもおかしくはない年齢。
 一応は道明寺邸の使用人頭として現役時代同然の地位を占めているが、実際には楓も司もタマに使用人としての地位を期待しているのではなく、お目付け役あるいは家族を見守るアドバイザー的役割で、タマも普段は自覚して自ら立ち働くことなどはめったにないのだが、それでも若いメイドたちを采配するよりは自分が動いた方が早いとばかりに無茶をすることもある。
 「はは、大げさですよ。ちょ~っと、グキッていうか、ゴキッていうか寝違いみたいになっちまっただけですからね。みんな年寄りだと思って、寝てろ寝てろと大げさに言うんですよ」
 「でも、先輩」 
 「朝は歩くのも痛いって言ってらして、先日もお医者様に無理したらいけないって忠告されてたじゃありませんか」
 「そうですよ」
 口々にメイドたちが心配するのに、タマが顔を顰める。
 「若奥様の前で、お前たちもよけいなこと言うんじゃないよ。つくし様も無用にご心配なさらず、この子達がちょっと大げさに…」
 「タマさん!」
 「…は、はい?」
 いつもは年長者を立てて、タマにも声を荒げるようなことのないつくしがキッと睨んで怒鳴りつける迫力に一同思わず姿勢を正す。
 「なにが、大げさなんです?腰って言ったら、年齢に限らず大事な場所ですよね?無理をして、寝たきりとかになったらどうするんですか!寝たきりの老後は悲惨ですよっ!?自分でトイレにも行けなくなって、やりたいことがあっても自由が制限されちゃて、せっかくそんなにお元気なのに、そんなことになってもいいんですかっ!?」
 ついつい自分の祖母にでも言うように遠慮会釈ない物言いで叱りつけてしまう。
 「皆さんのおっしゃるとおり、無理は無理なんです。今日はおとなしくされて、腰の痛みが改善されてから、復帰されてください!」
 唖然と見上げるタマやメイドたちの前で、もはやつくしは腰に両手をあてて仁王立ち。 
 「タマさん?」
 「「「…………」」」
 シーンと広がっている沈黙に、ハッとつくしもやっと我に返る。
 「あ、…すみません。なんだか生意気言っちゃって」
 とたんに低姿勢に戻って謝るつくしの態度に、タマが思わず笑い出す。
 「ぷっ、ははははは。そうだね、寝たきりの老後は悲惨だよね。せっかくこの年まで元気なんだ、無理をして迷惑かけるより、良くなってからの方がいいねぇ」
 「……いや、迷惑とかそういうことじゃ」
 さすがにバツが悪い。
 カカカッと笑うタマは気を悪くした風ではなかったけれど、‘寝たきりの老後は悲惨’は余計だったと思い当たる。
 メイドたちも素直に笑っていいものだか、あるいは聞かなかったフリをするべきかと複雑な顔で苦笑していた。
 「でも、困ったねぇ」
 「どうされたんです?」
 さっきも‘車に乗ってお使い’とか言っていたか。
 なにかタマでなければマズイ用事でもあるのだろうか。
 チラッとつくしを見上げたタマの顔が、なにかを期待したような、だが逡巡しているのを見とって自ら申し出る。
 「あの?もし、あたしでもお役に立てるようだったら…」
 「本当かいっ!?」
 意外なほどな勢いで飛びついてくる。
 が、
 「あた、いたたたた」
 気持ち的には飛びつきたくても、体が許してくれなかったらしい。
 「タマさんっ!」
 「先輩っ」
 「先輩!」
 異口同音に声を上げ、腰をかがめるタマを取り込んで支える。
 「まいったね。やっぱり今日は無理しないで寝てた方がよさそうだ。…それもつくし様があたしのお願いを聞き届けてくださるなら、の話になるけどね」




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