「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日③

愛してる、そばにいて0187

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 驚いたような声があがり、パチンと電気が付けられる。
 途端、明るい光が目を射って、闇に慣れていた司があまりの眩しさに思わず目を細め、眉間に拳を当てる。
 「え?電気もつけないで、道明寺、あんたいったい何してるわけ?」
 まるで彼女の声と姿は、過労とアルコールのもたらした酩酊に病み疲れた彼の心を慰撫する妙薬のように染み入って柔らかく解す。
 「…みたいだな」
 「え?」
 「天岩戸に篭ったとかいう、なんとかっていう女神みたいだな」
 「は?」
 …何言ってんの、こいつ。
 目を瞬かせてつくしを見上げている司の目はわずかに充血し、いつもより更に疲労が濃いように見えた。
 うっすらと微笑む顔もどこか力なく、頼りなげで、この男が大嫌いなつくしでさえも、眉根を潜めずにはいられない労苦を色濃く身に帯びていた。
 「えっと、お酒、飲んできたんだよね?」
 「…ああ」
 「もしかして、気分悪いの?」
 「ちょっとな」
 素直に受け答えする司を複雑な顔をしてジッと見ていたつくしが大きくため息をつく。
 そして何も言わず、再び寝室へと戻ってしまった。
 もう少しだけ彼女の姿を見ていたかった。
 そんなことを思う。
 もちろん今の彼には、つくしを呼び止めるだけの拘束力も理由もない。
 もはや彼女の意思を無視して、どんな些細な欲求さえも要求することはできなかった。
 しないのではない。
 できないのだ。
 彼女にもうこれ以上嫌われたくない、疎まれたくなかったから。
 それでも…、今夜は彼女に逢えた。
 もう眠ってしまっただろう、彼女の顔を見ることはできないと思っていたから。
 明日は週末の土曜日だ。
 戒が通っている英徳の幼稚舎は休みだが、あいにく司はオフではない。
 ここのところ頻繁にとっていた休日のツケが回ってきてしまっていた。
 当面は、週休一日も難しいだろう。
 頭ばかりか、体が重い。 
 もしかしたら、アルコールのせいばかりではなく、ここのところの重過労や睡眠不足、強いストレスが体調不良を呼んでいるのかもしれない。 
 昔から底なしに体力はある方なのに、些細なことでよく風邪をひいた。
 大抵は一人ベッドに蹲り、眠ることで体力の回復を待ったが、今はそんな時間さえも惜しい。
 しかし、あるいは忙しいのは彼にとって僥倖なことなのかもしれなかった。
 忙しさを理由に、つくしの冷たさを諦められる。
 逢えないのは仕事のせいだと自分を誤魔化す理由にすり替えてしまっている。
 悲鳴をあげている心についで、体が悲鳴をあげ出し、ゆっくりと崩壊してゆく音が聞こえる気がした。
 あるいはそれは、かつてのつくしのようにゆっくりと自分自身が壊れてゆく音だったのかもしれない。
 …因果応報か。
 親指と人差し指で痛む眼球を抑え、ソファの背もたれにもたれかかったままただ浅い息を繰り返す。
 どれくらいの時間が過ぎたのか、あるいはホンのわずかな時間に過ぎなかったのか、目の前に人の気配を感じて、司が手をどけ顔をあげた。
 さきほど寝室へと消えたはずのつくしが、ミネラルウォーターを彼へと差し出し立っている。
 「スポーツドリンクの方がいいのかもしれないかなって、探してみたけどなかったから、これ」
 ついマジマジと彼女の手と握られたペットボトルを眺め、ジレたつくしが理解できていないのかともう一度声をかけてくる。
 「ねえ?大丈夫?あんたって凄いお酒強いみたいなのに、そんなにひどく飲んだの?」
 「…いや、平気だ」 
 「えっと、スポーツドリンクにする?それともウーロン茶とかの方がいいのかな?」
 もしなんだったらもらって来ようか、とどうやら真面目に聞いてるらしいつくしに首を振る。
 「水でいい。スポーツ飲料は酔ってる時にはかえって、胃のアルコール分も吸収させてしまうから場合によってはよけいに悪酔いするし、ウーロン茶も荒れた胃をさらに荒らすから、水が一番いい」

 「そうなんだ」
 寄越せと出された大きな手にペットボトルを乗せ、迷った風だったが、ソファの上に脱ぎ捨てられていた司の上着やネクタイを手に取り戸惑ったように小首を傾げている。
 「えっと、上着とかって」
 「適当にそのまま置いておいて。次の日になったら使用人が勝手に持ってくだろ?」
 「…まあ」
 実際、それまでつくしがいっさい司の身支度を手伝ったり、世話をすることがなかったので、服が脱ぎ捨てられていれば次の日までそのまんまだったし、眉を潜めつつ使用人が始末するに任せていた。
 が、今またその日常を彼女は変えようとしていた。
 …なんのために?
 さすがの司も、つくしが自分を赦してくれたなどと思うほどにはおめでたくはない。
 それでもチラリと脳裏をよぎったのは、今朝の出来事。
 些細なことだが、これまで司がいる間はけっして子供部屋に入ってこようとしなかったつくしが自ら子供部屋に立ち入った。
 自分からはけっして司を視界の中に入れることがなかった彼女が、どういう心境の変化なのか、自らやってきて…あまつさえ、布団越しにとはいえ司に触れてきたのだ。
 不審を覚えつつも、それでも蜘蛛の糸ほどの希望でもしがみつかずにはいられない自分を司は自覚していた。
 しかし、口にしたのはもっと婉曲的な事柄。 
 「起きてたんだな」
 「あ…うん」
 手持ち無沙汰なのか、手に持った上着を必要もないのに整えたり持ち直したり、自分が手渡したミネラルウォーターをゆっくりと口に含む司をチラチラと見ては反応を伺っているのはあきらかだった。
 …焦るな。
 …脅かすな。
 それを肝に銘じて、司はつくしの次の言葉を待った。 
 顔を上げ、また俯き、何度か逡巡を繰り返し、小さな声だったがそれでも、たしかにつくしは司との会話に応じて、言葉を返した。
 「えっとね、ちょっと調べたいことがあって」
 「………」
 「といっても、自分のことっていうか、これまで…記憶を無くしていた間の十年間って、あたしはいったいどうやって過ごしてたのかな、とかかな」




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NoTitle

今日も更新ありがとうございます!
過去十年を知りたいというのは、前向き発言なのか、それともチャンスを伺い、目的(離婚)を果たすための作戦なのか、、。
とても気になります。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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