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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第三章 忘れえぬ人②

夢で逢えたら120

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 柔らかな風がつくしの長い髪を巻き上げ、顔にかかってしまった髪を掻き上げる。
 前にも思ったことだったけれど、こうして見る大学の構内は、つくしに懐かしい感慨をもたらした。
 日本で短い期間学んだ医大や、ボストンの母校とはまた違った景観をもっていたが、やはり学び舎という共通点か、不思議に似通った雰囲気がある。
 「…おい、聞いてるか?」
 自分の言った言葉に対してあまりに反応がなく、景色に溶け込むように和んでいるつくしの揺るぎなさが妙にロバートをイラつかせ、その焦燥のままにつくしの腕を掴んだ。
 「聞きたいんだけど、あんたの言う私を諦めていないって、いったい何を諦めていないと言いたいの?女としての私?それとも、あんたの子飼いとしてあんたを忠実にサポートする部下としてのかしら?」
 この間まで確かにあった自分への遺恨とわだかまりがつくしの目にはもう見いだせず、男は皮肉な、だがどこか苦痛を含んだ笑みを唇の端に浮かべた。
 「…その両方だ。女としてのお前のことを、俺はまだ愛してるし、シンガポール・グローバル・ホスピタルの院長職を狙う俺にはお前のような優秀でありながら、俺を蹴落とすような野心を持たない忠実な部下が必要不可欠なんだ」
 真摯にかき口説いてくる男の端正な美貌を淡々と見つめていたつくしだったが、ふっと視線を反らし邪険にではなかったが、自分の腕を掴んでいたロバートの手を外させる。
 「よく言うわね。自分は不実なくせに、他人には誠実であることを求めるなんて。昔の私だったら、あんたの女性関係はさておき、優秀な内科医であり研究者でもあったあんたを尊敬してたからついていきたいと思ったかもしれないわね…」
 実際には、レンの問題があったから難しかったが。
 「そんなに、俺がシャーリーを裏切ったのが許せなかったのか?お前から俺を奪った女なのに?」
 「…馬鹿馬鹿しい。どうせ、あんたが先生のツテと一族の権威を狙って彼女に言い寄ったんでしょ?」
 男は肯定も否定もしない。
 だが、それが肯定したも同然なのはつくしもわかっていた。
 「あんたが私以外の女にも手を出していたのは許してた。で?実際のところ、私ってあんたの何だったわけ?」
 今更ながらに、今思えば、自分もそうした数多くの女たちの一人にすぎず、シャーリーがロバートを奪った奪わないを論じる自体が滑稽な気がする。
 だというのに、誠実さを鼻で笑うこの男が言うのだ。
 「最愛の女。惚れてた」
 「…ホント、よく言うわよ。あんたの最愛の女っていうのは何人いるわけ?そりゃあ、あんたが私に少しも愛情を持っていなかったとは私も思ってなかったわよ?でも、あんたが私を一番に愛していたなんて信じられるはずないでしょ、普通」
 恋人と呼ぶには不特定多数のうちの一人で、妻にしたのは他の女だった。
 「一番に愛してたさ。お前が俺に本当に惚れてたなら、他の奴を想ってたんじゃなかったら…そうだな、あるいはお前と結婚してたかもしれない」
 ロバートにとって結婚などというものは、それほど重要なものではなかったが、つくしにとってはそうではなかったのを知っている。
 また、彼にとって結婚が重要なものでなかったからこそ、つくしを裏切ったという意識はなかった。
 だから、つくしを愛しながら、シャーリーと再婚したのだし、他の女と結婚しても、つくしと切れるつもりはなかった。
 …そのことが、つくしを失うことになるとは誤算だったのだ。
 いくら不特定多数の女たちと交際していようとも、彼女らしからぬことにつくしはロバートを許した。
 だが、妻を持つ男と交際を続けるほどには彼女の貞操観念は緩くはなかったし、それが見も知らぬ他人ではなく、恩師の孫娘であり友人である女性である以上、その女性の夫との関係を清算しないなどということはありえるはずがなかったというのに。
 結局、ロバートはつくしの慈愛に甘え、彼女の本質を捉えそこなった。
 そしてシャーリーをも裏切ったことが、つくしとの決別を決定づけたのである。
 「私も、あんたが好きだった。あんたのその傲慢なまでの自分の生き方への自信や野心、強さが羨ましかった」
 時折、私だけに見せてくれる弱さや純粋さが愛しかった。
 「あの時の私には、あんたしかいなかった。他に男なんていなかったわ」
 つくしは真っ直ぐにロバートを見つめ返し、訴える。
 ロバートがどうであれ、つくしは彼と付き合っている間、他の誰とも付き合ってなどいなかったし、浮気を疑われるような男性はいなかった。
 テーブルに頬杖をつき、つくしの真面目な顔を黙って見ていたロバートが、クッと笑いだす。
 突然、自分の真摯な告白を嘲笑うかのような男の態度に憤慨し、つくしは睨み付けた。
 「…何か勘違いしていないか?俺はお前のオンリーワンになりたかったわけじゃない。お前はそうしてくれただろうが、俺はお前のナンバーワンになりたかったんだ。お前が俺以外の男と寝ていようが、浮気しようが、俺は気にしなかっただろうよ。けど、お前は一度も俺を一番にしなかった」
 すっと、クツクツ笑いをやめ、つくしの胸元に煌めく土星のネックレスを真っ直ぐに指し示す。
 「そんな小さなネックレスに、お前は誰を見てたんだ?それを外すことをやめないお前に、どれだけ俺のプライドが傷つけられてたと思う?よりにもよって、俺の一番が、俺を一番には位置づけていなかったんだからな」
 ロバートの弾劾に、だがしかし、つくしは動揺しなかった。 
 花沢物産のパーティでは、ロバートに答える言葉がなかった。
 それは心のどこかで、ロバートの糾弾がゆえないことではないとわかっていたからかもしれない。
 けれど、つくしにも言い分がある。
 だから、こんな場面だというのにクスリと笑った。
 「…キャサリン?」
 「呆れた。あんただって、私を一番に愛してくれなかったくせにね」
 「…なんだと?」
 この男のこんな顔は滅多に見れるものじゃない。
 本当に意味がわからないらしい男の怪訝な表情が、可笑しくも切なく、そして小気味いい。
 「あんたが一番に愛していたのは、いつだって自分じゃない。あんたが唯一絶対に愛しているのはボブ・ハーマン、自分自身だけ。なのに、私だけがあんたを一番に愛さなかったからと言って、責められる謂れはなかったはずよ」
 「……」
 虚を突かれたのか、一瞬黙りこくった男は、だが、次の瞬間、快活に笑い出した。
 「ハハハッ!やられたな」
 だが、つくしの言葉の中に、自分を一番に愛していなかった事実を認める意味合いを男は悟った。
 悟った男には、もはや去ってゆく女をいつまでも追いすがる無様さは持ち合わせてはいない。
 それこそが、自分自身だけを愛しているとつくしに言わしめる理由だと知りながらも、男は自分のエゴイズムさえも愛していた。
 ロバートは笑いをおさめ、つくしをジッと見つめると、もう彼女に何の未練も見せず、椅子から立ち上がる。
 「…お前、イイ女だったよ」
 「過去形なの?」
 「ふん、俺の女でもない女を褒めて、俺に何の得がある」
 男の言いぐさはらしすぎて、苦笑するしかない。
 「…だが、内科医長の地位はまだ空いてる。相応な人間はまだ見つかってない。気が向いたら連絡くれ」
 「その頃にはもう、そのポストは埋まってるんじゃないの?」
 男はチラリとつくしを見やり、ニヤッと笑って踵を返した。
 「俺の病院だ。いくらでも、ポストは作ってやる。女はお前だけじゃないが、優秀で信頼できるビジネスパートナーは大事にしてるんだ、これでもな。いつでも来い」 
 ヒラヒラと手をふり、去ってゆく男の後ろ姿を見つめながら、つくしは自分の一つの過去が完全に通り過ぎていったことを実感する。
 胸の奥底にしまい続けた男の影を拭い去ることはできなかったけれど、確かに、つくしの中に、ロバートを愛おしみ、叶わぬ恋の残骸を一時でも忘れさせてくれる慰めがあったことを思い起こす。
 自分はどこに行こうとしているのだろう。
 自分はいったいどうしたいの?
 恋に惑い、周囲に流され、戸惑うばかりだった若き日の自分を想う。
 思えば、こうして年を得て、さまざまな経験を積んできたはずだというのに、そう変わることができなかった不器用な自分を自嘲し、つくしはそっと目を瞑った。

 
 つくしが邸に戻ると、どうやら来客らしく、道明寺邸所有のリムジンではない車が玄関先に停められていた。
 もっとも、複数台所有されている車のすべてをつくしが把握しているわけではないので、案外司の持ち車であるのかもしれなかったが、車から出てきたSPの顔が、見知った顔であることに気が付いて邸を振り返った。
 どうやらドイツに帰国したはずの恭子が再び戻ってきたらしい。
 恭子の姿はないのは、すでに要の私室へと訪れているのか。
 …もしかしたら、また、ビンタされちゃうのかも。
 シャレではないかもしれない想像に溜息をつく。
 とりあえず要のところへ顔を出す前に、埃っぽい服を着替えてこようと、司の執務室を通りすぎ、自室へと向かった。
 つくしにしてみれば、昼日中。
 会社に出勤しただろう司がいると思わず、素通りしたのだが、ドアの外に目でもあったのか、タイミングよく部屋のドアが開き、中から出てきた司と西田に出くわした。
 驚いたように目を見開いた司と、思わず固まったつくし、そんな二人をどう思っているのかまったくの無表情な西田の三竦み。
 だが、一番先に我に返ったのは司で、傍らに控える西田に手に持った封筒を渡し、先に行くように促した。
 「…15分です」
 「わかってっよっ。いいから先行けよ」
 「15分してもいらっしゃらないようでしたら、SPを迎えにやらせます」
 「…俺はガキかっ。早く行けって」
 傍若無人な男も、ロボットのように完璧なこの男が苦手なのか、年端もいかぬ若造のようにあしらわれて邪険に追い払う。
 西田もそれ以上は言い募らず、向い合うつくしに軽く会釈をして、踵を返す。
 つくしも会釈を返しながら、我に返り、横で自分を見下ろす司に向き直った。
 「これから、出勤?」
 「ああ。お前はどこ行ってたんだ?」
 「うん、ちょっとね」
 別に隠すつもりはなかったが、一々説明しなければならない謂れもないだろうと、言葉を濁す。
 司も眉根を寄せたが特には追求せず、2日ぶりに出くわす最愛の女の姿を楽しんだ。
 ニヤニヤ笑って自分を見ている男の挙動不審さに不気味さを感じつつ、そういえば要とのイザコザで、ついつい後回しになっていた件を思い出し、会ったついでに言い渡すことにする。
 「あのさ、ちょっと、話があるんだけど?」
 「あー、あんま、時間ないんだけど、今じゃないとダメか?」
 「いや、さっき秘書さんが言ってたのは聞いてたから、5分程度でいいし」
 司は肩を竦めて、今出てきたばかりの執務室へと誘う。
 「じゃあ、入れよ。廊下で立ち話もなんだろ?ちょうど、渡したいものもあったし…」
 渡したいもの…。
 この男に渡される物で、いままで良い物であった試しがない。
 …高校生の時にもらった土星のネックレスは確かに、思い出も残るロマンチックな恋の記念品だったが、再会してからこっち、まずは脅しの材料に使われた彼女自身の調査書類と写真、次いで迷惑以外の何物でもない分不相応なアクセサリーやら衣類、靴他高価なプレゼントの数々、彼女の正体を暴露する証拠物の(紛失したはずの)土星のネックレス。
 あげくは、受け取りはしなかったけれど、付き合ってもいないのに危うく婚約指輪まで渡されそうになったことは記憶に遠くない。
 さすがに、先日、キッパリと「付き合うことはできない」と申し送ったので、その線はもうないだろうけれど。
 「で、何?」
 向き直られて、改めて問い掛けられると切り出しにくい。
 だからといって、時間もないので、延々と言い出すのを躊躇うこともできず、単刀直入に言った。
 「この前言った、道明寺邸の退去の件だけど」




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~ Comment ~

司クン!いったい何に気づいたの?

つくしチャンの問題の解決方法わかったの?

うーん気になる。

あっ!つくしチャン道明寺邸はきっと出られないと思うよ。。
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