「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日③

愛してる、そばにいて0182

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 道明寺楓。
 つくしは、呆然と対面側に座る中年の女性に見入る。
 そうとして見れば、いかにも司によく似た美貌は、どうしてすぐにわからなかったのかと思うほどに、彼の面影を色濃く宿していた。
 また、記憶を探れば、屋敷のそこかしこに飾られた家族写真の中にも彼女の姿がある。
 「三条さん、お食事の前に、つくしさんと二人っきりでお話をしたいの。席を外してくださるかしら?」
 言葉は依頼形だったが、もちろん命令だ。
 「はい」
 桜子も異議を挟む余地はなかったようだ。
 チラッと心配げな視線をつくしへと投げかけただけで、素直に席を立って、個室の出口へと向かう。
 当然、SPとおそらく秘書だろう中年の男性も、その後へと付き従い、楓と二人、その場へと取り残された。
 かつての司のように、むやみやたらに威嚇してくるわけではない。
 それでもその存在感や威圧感は、司に相通じるものがあった。
 …違うか。
 楓の雰囲気が司に似ているのではなく、おそらく司が楓に似ているのだろう。
 「申し訳ないけれど…」
 「え?あ、…はい」
 ついジロジロと観察してしまっていたが、楓もそんな彼女の困惑が一段落つくのを、一応は待っていてくれたらしい。
 「お食事までお付き合いする時間はないの」
 「…はあ」
 勝手に自分が押しかけておいて、大した言い草だった。
 とはいえ、楓が今この場にいる経緯も理由も、つくしにはまだ知らされていない。
 曲りなりにとも同じ屋敷の人間でありながら、わざわざこんなふうに、騙しうちのように現れるからには、それなりの理由はあるのだろうけれど、つくしにはこの名目上だけの姑の、思惑などまったく見当がつくはずもなかった。
 「そう…司に知られたくなかったのよ」
 「へ?」
 思わず素っ頓狂な返事を返したつくしに、楓の目尻が下がった気がした。
 「顔に出てるわ。以前のあなたも腹蔵ない方だったけれど、今は素通しガラスのよう。そんなことでは、つけこまれてよ?」
 「………」
 喉が渇く。
 緊張にゴクリと飲み込んだ唾が上手く飲み込めなくて、自分が自覚している以上に緊張していることにつくしは気がついた。
 この女性はいったい何を言おうとしているのか。
 何を目的で自分に会いに来たのか。
 あるいは、どこまで自分たちの真実を知っているのか。
 そんなつくしの戸惑いを無視して、楓が唐突に語りだす。
 「わたくしがあなたの存在を知ったのは…そうね、おそらくあなたと司の馴れ初め…と言っていいのかわかりませんが、かなり初期だったと記憶しています」
 「…っ!?」
 楓は知っていたというのか。
 あの頃の自分の苦悩を。
 我が子の犯罪を知っていながら見逃し、半ば協力していたのだと?
 今更だとは思いながらも、激しい失望感に虚脱し、つくしは震える口元抑え、ガクリと倒れ掛かる体をテーブルについた腕でなんとか支える。
 まるで、今にも死に瀕している羽虫を無慈悲に見守る観察者のように、楓はそんなつくしの動揺を、怜悧にただ見守っていた。
 「ただ誤解しないでちょうだい。あなたちの間にあった真実を知ったのは、あなたが流産して…少し後。事態を知った私が日本に戻って、司を問い詰めて、あなたを司から引き離そうとしてからのことなのよ」
 「え?」
 「正直、司のお遊びだと思っていたわ」
 「………」
 「今のあなたが、どれだけあの子のことをご存知かは知らないけれど、司は中学生になった頃から、さまざまな不祥事を起こしては私の手を煩わせていたの。女性問題だけはなかったけれど、それでも何をしたとしても、あの頃の私には子供の悪ふざけ…私へのあてつけ程度にしか思っていなかったのね」
 …悪ふざけ。
 たしかにつくしは、司の個人についてほとんど何も知らなかった。
 彼女が知っていたことなど、司が引き起こした数々の不祥事や学園内に流布していた噂話程度のことくらいで、その全容を知りもしなければ、人となりでさえ彼女と接していた数ヶ月の彼のことしか知らなかった。
 だからこそ、今の司が当時の彼とまるで別人のようにしか感じられないのかもしれない。
 だが、それでも赤札に始まり、中学生の時には逆らった相手の内臓を破裂させたなど、悪ふざけでは済まない数々の暴力事件を起こしていたことは周知の事実だったのだ。
 それを悪ふざけと言い切る楓の認識もまた、一般人の自分とは異なるのだと、あらためて思い知る。
 …そういえば、なんでもそういうのはお金で片付けてきたんだものね。
 「それに、そうした司に群がる者たちもいたわ。英徳にいらしたのだから、多少はご存知だとは思うけれど、あの子の関心を得るためには、どんなことでも率先してするような人間も珍しくなかったのよ」
 「…そうですか」
 ようはつくし自ら望んで、司にまとわりついていたとでも言いたいのだろうか。
 英徳の同級生たちが妬んで中傷したように、つくしが司を誘惑して色仕掛けで取り入ったとでも?
 案の定、
 「司が屋敷に誰か女性を住まわせたようだと、屋敷の管理にあたらせていた者に聞いた時も、困ったものだと思ったけれど、いずれ司の関心が薄れれば、お金で解決できる範囲のことだと思っていたの。…ありていにいえば、その女性も、道明寺の財力や威勢に惹かれてあの子を誑かしている、その程度の認識でしかなかったわ」
 結局は同じ穴の狢。
 いや、楓こそ、司の異常の諸悪の根源であり、その始まりなのだろう。
 憤ろしく、悔しく…そして、哀しい。
 わかってはいても、辛く苦しかった。
 しかし、唇を噛み締め睨むつくしの視線を、真っ直ぐに受け止める楓の表情にはまったくの変化がない。
 まるで超越者であるかのように、ただ淡々とつくしの憎悪と苦悩を見守り、観察している。
 そうとしか思えない冷淡な眼差し。
 だが、楓にとて罪はあるのだ。
 すべては司自身が犯したこと。
 しかし、その悪の根は母である楓にも責がないはずがない。
 楓にもその自覚があったのだろう。
 「迂闊といえば迂闊だし、私も監督不行き届きの罪からは免れられないでしょう。また母としてあの子が犯した罪の責任は私にもあります」
 一瞬だけ、本当に一瞬だけだが、わずかに歪められた顔に真実があったか。
 人間の情愛などとは、完全に決別したかのように冷然としていた楓にも、母の顔があることを、ほんのわずかに覗かせていただろうか。
 元々伸びていた背を更に正して、テーブルに両手を重ね、楓が頭を深く下げる。
 いかにも気位が高そうな女の謝意に、つくしは大きく目を見開き絶句した。
 謝れば済むことではない。
 もちろんそうだ。
 けれど、目の前の司の母親だという女の謝罪に、胸の奥がキリリと痛んで目元が潤んだ。
 実母の千恵子でさえも、幸運だとつくしの痛みを無視して、目を瞑った過去の凶行。
 今はっきりと楓は、あれは過ちだったのだと認めてくれたのだ。
 「…でもだからといって、すべてを公にして、司を犯罪者として警察に突き出すわけには行きません。それは司の母としてではなく、道明寺財閥という一つの大財閥を率いる者としての判断です。どんなに些細なことであっても、少しでも財閥を揺るがすような事態は避けなくてはならないし、なにより、今の司は我が道明寺財閥の重要な支柱。司を失うことは我が財閥にとって、大きな損失になるでしょう。私は法と倫理を遵守すべき一人の人間である前に、一つの大企業を預かり、そこで働くものたちを導くべき経営者です。彼らを守り繁栄に導かなくてはなりません。そのためなら、私はどんな泥を被ることも厭わない。誰かを踏みつけ、苦しめることになるのだとしてもよ。それがたとえあなたでも…、孫でも、我が子であってもね」




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