「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日②

愛してる、そばにいて0162

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 「赤札…って」
 つくしが呆然と桜子を見返し、二の句が告げずに何度も唇を舌で湿らす。
 まさか、こんなところであの当時のことを知っている人間がいて、その人間と相対することになるとは思ってもいなかったのだ。
 「…やっぱり、そういうことなんですね」
 「桜子」
 得心したような桜子の物言いに、自分がカマをかけられたことにつくしも気がついた。
 「お母さん、痛いよ」 
 「え?」
 呼びかけられ顔を下に向ければ、強い力で手を握り締められた戒が、繋いだ手に手を置き顔を顰めている。
 「あ、ごめんね」
 「うん、大丈夫だよ」
 ニッコリ笑ってくれる子供の頭を撫で、つくしも自然に微笑みを返す。
 そんな二人の様子を見守っていた桜子が苦笑して見せる。
 「なんか意外です」
 「はい?」
 唐突な言葉に、つくしは怪訝に目を瞬かせ、桜子を見返した。
 「戒君と先輩の関係が、あまりに普通な感じがして」
 「………」
 「戒君のこと、先輩、すごく可愛がってらっしゃるんですね」
 当たり前のことなのに、当たり前ではないこの言葉の含む意味合いに胸を突かれて、つくしがキュッと唇を噛み締める。
 「……」
 「私が先輩の立場なら、って。いえ…」
 「司…」
 観葉植物の影、壁際に寄っていたあきらの声がわずかに聞こえて、桜子が口をつぐむ。
 いつの間にか、司とあきらが待つエントランスホールへと辿りついていたようだ。
 「ちょっと待ってください」
 話し込む司とあきらの姿を横目に、小声になった桜子に軽く腕を掴まれ引き止められた。
 手早くハンドバックの中からおしゃれな名刺入れを桜子が取り出し、その中の一枚をつくしへと差し出してくる。
 「私の個人ナンバーです。以前にもお教えしたんですが…」
 苦笑する顔が、つくしの所業を見透かしていた。
 「お時間がある時にでも連絡ください。私も道明寺家の奥様になられたあたりの経緯は詳しくは存じ上げませんが、わりあい最近のことに関して少しはお話出来ることがあると思います。たぶん、かつて…学生時代の先輩のことを知っていて、なおかつ今を知っている人間はそうそう先輩の身近にはいらっしゃらないと思いますから、きっとお役に立てることもあると思いますよ」
 にっこり笑った顔には邪気がないように見える。
 少なくても表面的には、だったが。
 「…三条さん」
 「行きましょうか。あまりお待たせしては、あちらも心配されるでしょうしね」
 どう解釈していいのか困惑するつくしを促し、桜子が再び歩き出す。
 つくしたちに気がついたSPが、会釈して道をあけてくれる横を通り抜け、背後から司たちのもとへ。
 話し込んでいる司とあきらは、つくしたちに気がつかず話を続けていた。
 「…それでも、赦されなかったらどうする?お前との10年間を思い出した牧野が、それでもお前を赦さないと憎悪して、離婚してくれと言われたらどうするつもりだ?」
 「俺の答えは同じだ。…あいつがどうであろうと、憎まれようが嫌われようが関係ねぇよ。あいつは俺のものだ、誰にも渡さない、どこにも逃がさない。もし逃げ出そうというのなら、地獄だろうがどこだろうが、どこへだって追いかけて捕まえるまでだ」
 「…っ!?」
 …道明寺。



*****




 「ほらぁ~、戒、水かかっちゃうよぉ」
 真夏の酷暑もここ道明寺邸ではどこか緩やかで、それほど辛いものではない。 
 広大な屋敷の庭の一角、ホース片手につくしが水を撒く先々で、戒がきゃあきゃあ言いながら駆けずり回っている。
 たまに吹き抜ける風が熱気を逃し、ホッと息をつかせてくれる。
 はためくワンピースの裾と麦わら帽子を抑え、つくしがほぅ~と息をつき、真っ青な青空を見上げた。
 …うはっ、眩しい。
 さすがに地上はともかく、空の上までは道明寺邸の威光も届かず、太陽の光はギラギラとどこまでも焼け付くような熱波を降り注がせてつくしの目を射る。
 「よし、ここら辺はこんなものかな」
 この広大な庭で多少の打ち水をしたところで、大した温度の変化は見られないだろうが、それでも気分的には違う気がする。
 吹き抜ける風さえも、先程よりは多少は涼し気だ。
 今や暇を持て余したつくしの、この道明寺邸での日課であり、最初は恐縮していた庭師や戸惑い顔のメイドたちも、今ではもう何も言わなくなった。
 つくしの数少ない憩いの時間。
 …勉強っていったってねぇ。
 現在、つくしは記憶のとおり高校生なわけでもなく、また現在の記憶がないだけにやるべきことが何もなかった。
 いきなり以前の若奥様修行の続きをするつもりには、とうていなれるはずもない。
 それはこの家の一部であることを許容すること。
 自分が道明寺司の妻であり、この先もその位置に甘んじ続けなければならない自分を諦めて、認めてしまうことに繋がる気がした。
 そして、司もそのことについては咎めないし、そんな彼女に対して何かを強制するつもりもないらしく、つくしが勝手気まま、特に何をするでもなく毎日を無意味に過ごしていても何かを言うということがない。 
 実際、聞くのも驚くほどのかつてのつくしのハードスケジュールは、どうやら以前の彼女が自ら望んで学んだり、受け持って職務を遂行していただけのようだ。
 現在彼女が誰それに強要されて、しなければならない義務や責務というものはほとんどないらしかった。
 とはいえ、これだけ広大な屋敷を東京の一等地に構え、世界的にも名だたる大企業を経営する大財閥の御曹司の妻だ。
 望む望まないに関わらず、やはりそれなりに役目というものもあるのだろうが、強制されていないのをいいことに、それら全ての事情とつくしは向き合うことを避けていた。
 …あたしがやる義理なんてない。
 司の妻であること、この家の女主人であることを認めていないし、受け入れるつもりなどまったくないのだから当然のことだ。
 だが…だからといって、この先どうしたらいいのか、つくしの中でもまだまったく纏まっていなかった。
 自分が一番に望んでいることは、もちろんわかっている。
 それは…この家から出てゆくこと。
 以前の‘牧野つくし’に戻ることであり、そのためには司に離婚を認めさせ一人立ちしなければならない。
 しかし…。
 「か~い、次行くよ~」
 いつの間にか、周囲ではしゃぎまわっていた子供の姿が見えなくなってしまっている。
 よもや自分の家で迷子になっているということもなかろうが、つくしと同様戒もこの世田谷の屋敷では新参者だ。
 ここで生まれ育ったという司でさえ知らない場所もあるというのだから、つくしにしてみれば呆れるばかりで、彼女の『家』というものへの認識とは大きく違いすぎて、何もかもが違和感ばかり、いまだ自分がこんなところに存在することでさえ、現実のものとして捉えられないでいるのも致し方がないことなのかもしれなかった。
 「か~い~っ!!」
 「お母さんっ!こっち来て、こっち、こっちっ!!早くぅ!」
 木立の奥、背の高い常緑樹の影から、ひょっこり顔を出した戒がつくしを手招いた。




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