「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日②

愛してる、そばにいて0154

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 「ど、道明寺っ」
 焦って慌てて体を隠すが、浴室のドアはかなり濁ったすりガラスになっているから、こちらはもちろんのことドアの向こう側からも影さえほとんど見えることはないだろう。
 だが―――、
 …か、鍵、あたし、脱衣所の鍵かけてなかったっけ?
 迂闊かもしれなかったが、これまで高校時代の司でさえも浴室にまでは押し入られたことがなかったから油断していたのだ。
 あまりの事態につくしは真っ青になってしまう。
 しかし、彼女の疑惑は単なる疑心暗鬼にすぎず、司には浴室に押し入る意思はなかった。
 『おい、大丈夫かよ?』
 「え?」
 『倒れてんじゃねぇだろうな』
 …あ。
 司の不安げな声に、自分が思わぬほど長湯をしていたことにやっと気がつく。
 『…返事しねぇなら、開けるぞ?』
 ギョッと大声を上げる。
 「へ、平気、平気っ、倒れてないから、入ってこないでっ!!」
 影が映ってしまうことを危惧しつつ、慌ててノブに飛びつき鍵をかけ直した。
 『なんだよ、大丈夫なら大丈夫ってさっさと言えよな』
 憮然とした声に、つくしの負けん気も刺激されてムッと言い返す。
 「そっちが勝手に心配したんでしょ?お年寄りじゃないんだから、ちょっとくらいお風呂が長くったってどうってことないわよ!」
 『…普段ならそうかもしれねぇけど、さっきお前、アクシデントにビビって貧血ってただろ?』
 それを言われてしまえば、司が心配してもしかたがなかったのだと思い直すも、彼に心配されているということ自体に抵抗を感じて素直に謝ることもできず、つくしは言葉に詰まって黙り込んでしまった。
 しかし、司の方はつくしの安否を確認できて、それで満足したようで、存外にあっさりと納得して引き下がる。
 『別になんともないなら、まあいい。暑気あたりしてるんだから、お前も今日のところはあんま長風呂しねぇで出てこいよ』
 「…………わかった」
 もっともな言い分に渋々頷く。
 『じゃあ、ルームサービスも頼んだし、居間で戒も待ってっから」
 「ああ、うん、そうだよね。もうすぐ行きます」
 それでも完全には警戒を解けなくて、戦々恐々とした気持ちで、司の気配が脱衣所から消えてくれるのを探って待つ。
 バタン。
 さきほどは聞こえなかった脱衣所のドアの音に、ホッと安堵の息をついて、ソロソロと浴室のドアを開けて慎重に顔を出す。
 「はぁ~」
 どうやら本当に司は出て行ったようだった。




*****




 急いで髪を乾かし、簡単に身支度を整えて居間に入ると、本来据付なのだろう可愛い意匠の小ぶりなコーヒーテーブルの他にもう一台、同じ意匠のテーブルに所狭しと料理が並べられ、デザートや飲み物を乗せたワゴンが設置されていた。
 正面のソファに座ってテレビを見ている司の足元に座り込んで、何事かに熱中していた戒が、すぐにつくしを見つけて、ぴょんっと立ち上がった。
 「お母さん、おっそ~い」
 「ご、ごめん、ずいぶん待たせちゃった、よね?」
 「もう~、すごい待ったよぉ~。お腹ペコペコ」
 気が付けば、なんだかんだで時刻も18時を回っていて、パレードやら騒ぎのせいで、午前中のようには買い食いに励めなかった戒はさぞや空腹だったことだろう。
 歩み寄ってみれば、湯気のたった料理からはなんとも食欲をそそる匂いが。
 …う、これは辛かったよね。
 「待っててくれなくて、良かったのに」
 「ダメだよ!」
 「待たせたと思うなら、お前もさっさと座れよ」
 大小の両人に文句を言われて、司が座っているソファのサイドの一人掛けのソファへと腰を下ろしかける。
 しかしそれを見て取った司の方が対面側の一人がけソファへと移動した。
 すかさず、
 「お母さん、こっち、こっち来てっ!」
 ご指名に上がって、3人掛けソファに座り直した戒の横へつくしも腰を下ろした。
 「わっ、すごい、どうしたの?このぬいぐるみ」
 足元には、いつの間にこんなに持ち込んだのか、というほどのキャタクター。
 「俺らがシャワー浴びてる間に、お前の着替えと一緒に持ってこさせた」
 「え、あ…そうなんだ」
 見慣れたバスローブ姿の司はもちろんのこと、戒もいつの間にかパジャマに着替えている。
 …やっぱり泊まるんだ。
 朝の食事のことなど支配人が言っていたからそうだとは思っていたが、当初の予定ではディナーのみで宿泊するはずではなかったので半信半疑だったのだ。
 「寝室のクローゼットに何着かお前と戒の服入れさせたから、明日はそれに着替えてけよ」
 「あぁ、ありがとう」
 今つくしが着ているのは、ルーズなチュニックと黒のレギンス。
 ソフトクリームに汚れた体を洗い流して脱衣所に戻って、ハタと気が付けば着替えをどうするか。
 当然、バスローブが備え付けられていたけれど、とてもではないが司の前でそんな格好で出てゆくことなどできるはずもなく、かといってソフトクリームに汚れた衣類を再び身に付けるわけにもいかず困り果てていた。
 しかし、いつの間に用意されていたのか、今つくしが着ている部屋着が脱衣所に置いてあったのだ。
 セクシーでもなく、どちらかといえば元々の彼女もよく着ていたような色気も素っ気もないラフなスタイルで、それはもしかしたらつくし自身…記憶を失っていた彼女のセンスだったのかもしれない。
 いかにもセレブな司の好みではなかった。
 司と…かつてのつくしの生活の一端が見える。
 一方的に、司の欲求ばかりを受け入れていたわけではないのだという、逆説的な証明。
 そこかしこに二人の10年間の歴史の気配があった。
 否が応もなく。
 「飯食うか」
 「冷めないうちに、お母さんが来てくれて良かったね。お母さんもお腹減ったでしょ?」
 「そうだね」
 「タイミングバッチリだっただろ?」
 「うん!」
 「どうせ、こいつのことだウダウダやってて、中々出て来ないんじゃねぇかと思って、時間調整させた俺のお手柄だな」
 「え~、でも、ご飯が中々来ないって、お父さん、何度も電話して怒ってたじゃない」
 「当たり前だ。…ただいま、ただいまって、蕎麦屋の出前かっつーんだよ」
 「…ソバ屋の出前って??」
 「ああ…それはね」
 …こいつ、よく蕎麦屋の出前なんて知ってるよね。
 ぼんやりとそんなことを思う。
 食事をしながらたわいない会話を交わす父子の会話に、何食わぬ顔でつくしも参加して、子供の相槌を求める視線に応え、適当に微笑んで頷き、あるい質問に答える。
 …イヤだな。
 本当にイヤだと思う。
 10年前に繋がれていた目に見えない鎖ではなく、緩やかに閉じ込められて…やがて自分自身でさえも勘違いしてしまいそうな偽りの愛情と幸福の中へと同化してしまいそうな恐しい予感。
 …こんなの違うのに。
 けれど、つくしの前に広がる闇はどこまでも暗く深く…、見えない先行きにつくしは小さく吐息をついた。




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