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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日②

愛してる、そばにいて0146

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 『あんたは幸せそうだったよ。輝いていて、本当にいい顔してた。そりゃあ、記憶がないことを気には病んでいたみたいだけど、ね』
 「幸せ、か」
 額に浮いた汗を拭って、大きく息を吐き出す。
 優紀との再会から、1週間が経っていた。
 お風呂でのシンキングタイム。
 考える時間だけはいくらでもある。
 だが、やはり人の多い道明寺邸はどうにも落ち着かず、中々考え事には適さない。
 トントンッ!
 『おかあさぁ~ん、まだぁ?』
 痺れを切らした戒がドアの向こうから声をかけてくる。
 …うはっ。
 まずい。
 いつの間にか、家庭教師との勉強の時間を終えて、戒が家族の部屋へと戻ってきてしまっていたらしい。
 前回、うっかり返事が遅れて、押し入られてしまった。
 …かといって、鍵をかけるのもアレだし。
 つくしにしてみても、今はもう半ば覚悟も決まって、近いうちには戒を風呂に入れられるくらいにはなりたいとは思っている。
 が、つくしが弟の進と風呂に入ったのも遠く記憶の彼方で、近場に子供のいる親戚もいない。
 中学時代までは男友達も多くて、男勝りな性格のつくしだったが、意外に乙女チックというか、元々性には奥手。
 そのせいなのか、幼児とは言え男の子と一緒にお風呂に入るのが気恥ずかしく抵抗があった。
 いや、たぶんそんなことが問題ではないのだろう。
 そして、そのことがおそらく戒をよけいに悲しませてしまっている。
 …あ、明日こそ、一緒にお風呂に入ってあげよう。
 毎回そう思っては、タイミングが合わずに今日に至る。
 それならば…、
 「えっと、…もしよかったら、戒も…その、一緒に入る?」
 『………いいの?』
 喜々として飛び込んでくるのかと思っていたのに、遠慮がちの返答が返って、どれだけこんな小さな子に我慢をさせているのかと身につまされた。
 …そうだよ。どんな事情があるにしても、あたしは戒のお母さんなんだ。
 屈託のない笑顔と温もりをくれ、つくしの心を慰めてくれる小さい人。
 けれど、それだけではない。
 戒はこの世につくしが産み落としたその瞬間から、彼女が愛し慈しみ、当たり前に守るべき存在なのだ。
 無意識のうちに、下腹部に手をあてて、ぐっと拳を作る。
 「いいよ、入っておいで?一緒にお風呂に入ろう」
 一呼吸置いて、
 バアァァンッ!!
 「お母さぁ~~んっ!」
 「ちょっと!服、服、服ッ!?って、うぎゃああああぁぁっ」
 喜び勇んで飛び込んできた戒が、水に濡れたタイルで滑ってバランスを崩した。
 「わっ!」
 「戒ッ!?」
 間一髪、バスタブから飛び起きたつくしが、床にダイブしかけた戒のシャツの背中を掴んで吊り上げる。
 ガシッ。
 ミラクル!
 …ひぃぃ~、あ、危なかったぁ。
 ぜ~は~ってなものだ。
 「戒ぃ…勘弁してよぉ。こんなところで転んだら、せっかくの良いオツムがおバカになっちゃうよ?」
 「お母さん、すご~い」
 パチパチと手を叩いて、嬉しそうに歓声をあげる戒の脳天気な笑顔に、丸裸の上半身丸だしで、つくしはバスタブの縁へと懐いて脱力した。
 ぐったり。




*****




 多少のアクシデントはあったものの、そんなこんなで返ってよけいな羞恥心は忘れられたように思う。
 思い切ってやってしまえば、やはり大したことではなかった。
 …あたしったら、なにこんな小さな子を意識したりしてたのよね。
 いい大人が恥ずかしいことだったと反省する。
 「ふんふんふんふん」
 つくしにドライヤーで髪の毛を乾かしてもらいながら、テレビを見ている戒は最高に上機嫌だった。
 「こらっ、ちゃんと頭上げてて。上手く乾かせないでしょ?」
 「だってお母さん、ピンピン髪を引っ張るから、痛いんだもん」
 「え?ホント?」
 丁寧に優しくを心がけているつもりだったつくしが、ショックを受ける。
 「ん~、ちょっとだけだけど」
 気を使わせてしまった。
 「…ごめん、気をつけるね」
 「うん」
 つくしを振り返ってニコッと笑った顔は、それでも幸せそうな笑顔だ。
 …可愛い。
 そして、愛しい。
 何度となく覚えた感慨。
 気が付けば、自然にそう思える瞬間が、たしかに増えている気がする。
 …あたし、この子を愛せてる?
 それとも、そう意識してしまう時点でまだまだなのだろうか。
 我が子を生んだ記憶さえないつくしには、子供を愛するという気持ちは未だ手探りの状態で、知らず知らずのうちに戒を傷つけているのかもしれない。
 「よし、乾いたよ」
 「なんだ?戒、もう風呂入ったのか?」
 「あ!お父さん、お帰りなさいっ」
 ドライヤーの音で、司が帰宅してきた気配に気が付けなかったらしい。
 歓声を上げぴょんとソファから降りた戒が、一目散に帰ってきた大好きなお父さんへと駆け寄る。
 いつものようにそんな息子を愛しく見つめて、頭を撫でて、抱き上げた司が、部屋の中へと入ってつくしへと顔を向ける。
 戒の視線を感じながらも、どうしても司の顔を真っ直ぐには見れずに視線を反らすつくしもいつもどおり。
 「ただいま」
 「…あ、おかえりなさい」
 普通の妻であったら、そこで夫の着替えを手伝ったりもするのだろうか。
 だが、そうする義理もつもりもないつくしは、司と戒を居間に置いて彼女の自室となっている主寝室へと向かう。
 司が帰ってきてしまった家族の部屋の中では、彼女にとっての唯一の居場所だ。
 「ねえねえ、明日はお父さんお休みなんでしょ?」
 「ああ、なんとかな。明日は…まあ先週と一緒で午前中一杯は屋敷で仕事しなきゃなんねぇし、夜からNYと衛星会議があるから屋敷からは離れられねぇけど、明後日は丸々一日休みを取れたから、どっかに行くか?」 
 「ホントッ!?」
 父と子の会話をよそに部屋へと入り、バタンとドアを閉め、つくしはドアに背を付けて大きく息を吐き出す。
 「はあぁぁぁ~」
 戒とは母子に戻れるのだとしても、司と夫婦に戻る日は永遠に来ないのだ。
 それなのに、いつまでこの茶番を続けなければならないのか。
 もう一度、司とちゃんと話す必要があることは確かだ。
 しかし、
 『…今のお前に記憶があろうとなかろうと、俺と結婚している事実は消せるわけじゃない』
 彼女の離婚の申し出を、無理の一言で一刀両断した司の言葉に先行きの暗さを思う。
 つくしはズルズルと腰を床へと下し、座り込んだ膝へと顔を伏せた。
 …どうしたらいいの。





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