「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日②

愛してる、そばにいて0143

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 梅雨もすっかり明け、世間は真夏日。
 だが、ここ広大な道明寺邸の庭には常緑樹が生い茂り、爽やかな風が吹き抜けて、まだそれほどの酷暑というにはほど遠い。
 …ここが東京のど真ん中だなんて、ホント、信じられないよねぇ。
 そんな感慨に、一人耽る。
 「いいお天気」
 つくしは吹き抜ける風に煽られた長い髪を抑えて、青い空を仰ぎ見る。
 バシャバシャと彼女の足元のビニールプールで水浴びをしていた戒も、その言葉に立ち上がって空を見上げた。
 「ふわぁ、ソフトクリームの雲だぁ」
 「ええ?あ、本当だぁ。あっちのはバームクーヘンかなぁ」
 「ドーナツだよ!」
 「ドーナツもいいねぇ。でも、まだそんなにお昼から時間経ってないから、今はそんなに食べたい感じしないなぁ」
 「マカロンは?」
 「あ、いいかもぉ」
 「パティシエに作ってもらう?」
 「うーん」
 いつの間にか空の雲が何に見えるかではなくって、今日のおやつに何を食べたいかにすり替わってしまっている。
 「俺、この間お母さんと内緒で食べた、グニャグニャのゼリービーンズみたいなやつが食べたい」
 「ええ?グミ?それとも、ハ●チュウのこと?虫歯になるからって、飴類は禁止されてるんでしょ?」
 「あれって飴なの?」 
 「…うーん、飴なのかなぁ」
 とはいえ、その飴を禁止したのはかつてのつくし自身で、今の彼女的にはそれくらいいいんじゃないかと思うが、教育ママだったという一端を見てみても、自分で信じられないことだが、つくしはけっこう厳しい母親だったらしい。
 …あたしって、口煩いタイプのママだったってことなのかぁ。なんか、ちょっとショックかも。
 やはりそういうところにも違和感を感じる。
 ただ、順応性が高いのか、つくしもだいぶ今の生活に慣れて、そんな違和感が拒絶感に変わることも減っていた。
 …ま、単に図太いだけかもしれないけどさ。
 あれほど憎んで嫌っている司とも、なんとなく平和的に同居しているくらいだ。
 相当なものだと自嘲する。
 「お父さん、いつ終わるんだろ」
 空を見上げていた戒の視線が、斜め横にズレて、建物の窓から覗く司の書斎へと移動している。
 さっきまでは姿も形も見えていなかったが、デスクでの仕事が一段落したのか、あるいは立ち仕事に切り替えたのか、窓際のそばにその長身が見え隠れしていた。
 …あ、神崎さんだ。
 当然のことながら、第一秘書の神崎の姿も見える。
 真剣な横顔に、気さくな女友達の顔が重ならない。
 しかし、そんな神崎はとても輝いていた。
 やりたいことがあって、それにやり甲斐を感じて、真摯に立ち向かい、ちゃんと評価も受けている。
 つくしよりも何才も年下のはずなのに、ずっと地に足をつけ、自分の足で歩いている女性。
 かつての自分もそうだったはずなのに、今ここにいるのは何者でもない、道明寺司の妻、戒の母、彼らの付属品でしかない自分。
 あまりに隔たった境遇に、らしくもない劣等感を刺激され、小さくため息。
 「お父さんや遥香がお仕事終わったら、お母さんも一緒にプールに入ろ?」 
 ビニールプールの傍に椅子を置いて、座っているつくしの足元に座っておねだり。
 ただでさえ天使みたいな見た目の可愛らしい子供なのだ。
 上目遣いでのお願いは、あまりに可愛すぎて、うっかりどんなワガママも聞いてあげたくなってしまうのが本当だろう。
 が―――、視線を泳がせて、誘惑に負けてしまいそうな自分を奮い立たせ、なんとかつくしは断りの言葉を絞り出す。
 「ご、ごめんね?」
 「………」
 不貞腐れて、ガックリと肩を落とす幼い顔に胸が痛む。
 朝から何度となく繰り返してきた問答ではあるのだが。
 「ほら、このあと、お母さん、お出かけしないとダメだから」
 「……俺も行きたい」 
 「え~っとぉ」
 これもまた同様のやりとりで、その度に落胆させてしまっている。
 久しぶりの司もオフの休日。
 当然、戒は両親と一緒に過ごしたがっていた。
 が…、道明寺邸での再・生活にもだいぶ慣れ、戒の前でだけは司と夫婦のフリをすることもなんとか許容できるようになっていたつくしだったが、けっして彼女自身が望んでのことではない。
 それだけに、つくしとしては、たとえ戒を間に挟んでいるにせよ、できるかぎり司と過ごす時間は避けたかったのだ。
 「ワガママ言うな、戒。お母さんは久しぶりに会う友達に会いに行くんだって、言ってただろ?」
 いつの間に降りてきたのか、執務室にいたはずの司が戒の後ろから声をかけてきた。
 「お父さん!」
 嬉しそうに歓声をあげた戒が司に駆け寄って、濡れたまま抱きつこうとしたのに、思わずつくしが声をあげる。
 「あ、か、戒」
 司も一足先に予測していたのだろう、苦笑しつつ片手で子供の額を抑えてその接近を防ぎ、逆に苦情を言われてしまっている。
 「お父さんっ!」
 「…だから、ちょっと待てって。そのまま抱きつくのは勘弁してくれ」
 「ぶ~」
 膨れつつもそんな顔はいつまでも続かない。
 大好きな両親に囲まれていれば、それだけでいつも戒はニコニコ笑顔だ。
 つくしが椅子にかけてあったバスタオルで小さな体を包むと、すぐに司が子供の要望に応えてバスタオルごと抱き上げる。
 戒の顔が、つくしの顔の位置よりも高くなった。
 「お母さん、ちっちゃい」
 「あたしは普通!あんたのお父さんがおっきすぎるんだって!まあ、きっとあんたも、あっという間にお父さんみたく大きくなりそうだよね?」
 「ホント?」
 「たぶんね」
 大好きなお父さんみたいになれると言われて、戒はご満悦で、ゴシゴシと司の首筋に懐いて顔を擦りつけては、司に軽く頭をポンポンされて笑っている。
 「そろそろ、待ち合わせの時間なんだろ?」
 「あ、うん」
 「俺も一段落つけたし、戒のことは引き受けるから、お前はもう出かけていいぜ?」
 「じゃ…悪いけど」
 微笑む司の顔を真っ直ぐに見るのも憚られて、俯き加減につくしが視線を反らす。
 それを遣る瀬無く見下ろし、だが特には何も言わない司…という構図もここしばらくのいつもの一コマだ。
 おそらく傍目には今までどおり、仲の良い家族の一コマを演じてはいられているだろうけれど。
 「お母さん、本当に言っちゃうの?せっかくお父さんのお仕事終わって一緒に遊べるのにぃ」
 名残惜しそうに、それでも粘る戒の頬を軽くつまんで謝る。
 「ごめんね、戒。また後でね?」
 「……うん」
 司には軽く会釈して、通り過ぎようとして声をかけられる。
 「車、帰りにもちゃんと呼べよ?」
 「…えっと」
 「どのみちお前が呼ばなくても、SPには言いつけてあるからよけいな手間使わせんな」
 遠まわしではあるが、拘束感を感じたくなければ、自分の方で気をつけろということなのだろう。
 当初、当然のことながら、SPの追従を断ったつくしだったが、司には一刀両断。
 『昔とは違う。今のお前はいつ誘拐されたり、危害を加えられることになってもおかしくない立場なんだよ』
 思いすごしだと一笑に付したくても、つい最近、そのことが原因で怪我をして、記憶の有無を逆転させたつくしだ。
 ―――道明寺司の妻。
 その名前がどこまでもつくしに付きまとって、それでいてそれ以外の何者としての価値もない存在。
 望んで甘んじている立場ならばともかく、否応なく繋がれたその鎖に雁字搦めに囚われて…幾重にも絡みついて、つくしの手足を縛って息を詰まらせる。
 以前のように何か加虐を加えらているわけでもない。
 それでも…。
 いったいどこへ、行けばいいというのだろう。
 湧き上がる自由への渇望に、つくしは空を飛ぶ鳥をボンヤリと見つめた。




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