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「愛してる、そばにいて」
第3章 風になる日①

愛してる、そばにいて0139

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 「お湯、流すぞ」
 一声かけて、小さな両手で戒が耳を抑えたところで、頭に温かい湯を流す。
 いつもは癖の強い髪を、わしゃわしゃとかき混ぜながら、何度か繰り返すうちに泡もすっかり切れて、
 「よし、いいぞ」
その言葉に、手渡したタオルで戒が目や口の周りを拭うのを司は見守って、今度は手の中で泡立てたボディスポンジを再び息子へと差し出した。
 「ほれ、あとはこれで体洗え」
 「…うん」
 言われたとおり、拙い手際ながらに、戒が自分の体を洗い始めるのを横目に、司も自分の体を洗い始める。
 「お父さん」
 「…うん?」
 「俺、お父さんの背中洗いたい」
 「おう、じゃ、頼むな」
 「うん」
 大きな背中を向けた父親の背に向かい合って、戒が懸命にあわあわのタオルを滑らせる。
 「…お母さん、俺とお風呂入るのイヤなのかな」
 元気がなかったのはやはりそのせいだったかと、小さく息をつき司が言葉を選ぶ。
 が…、
 「今度はお前が背中向けろ」
 「はい」
 素直に指示に従って背中を向け、父親に背中と洗い残した部分を洗ってもらう。
 そして、互いに一段落つくと、司に抱かれて湯船へと入って親子でホッと息をついた。
 「お前、…つくしのことどう思う?」
 不審そうに見上げてくる息子の顔。
 自分と瓜二つ。
 顔の造作の一つ一つ、癖の強い髪が濡れるとストレートになるところまで司にそっくりだというのに、そこには間違いなく彼の最愛の女の血が受け継がれ、面立ちに面影があった。
 そんな我が子の顔を、真剣に見つめて司が問いかける。
 「前に、以前のお母さんとは変わってしまったと、お前、言ってたよな」
 「…うん」
 「もしそうだったら?以前のお母さんとは違う、お前のことが可愛くて可愛くて…目に入れても痛くねぇほど愛してたつくしと、今のつくしではまったくの別人になってしまったんだと言ったらどうする?」
 幼い子供に聞くべき問ではない。
 案の定、もうそれだけで戒の目は涙で曇って、ヒクリヒクリと嗚咽を零し出してしまう。
 戒は甘ったれではあるが、けっして泣き虫ではなかった。
 おそらく子供ながらに、司やつくしが思っている以上に、母親の異常を感じ取って察していたのだろう。
 「そんなの、いやだ。やだよぉっ」
 小さな両手を伸ばして、司の首筋に回して縋り付いて、泣きじゃくる戒をギュッと抱き締める。
 かつて自分には与えられなかった愛情と温もり。
 けれど、今の司にはそれを我が子に与えるられるだけの慈愛も余裕もある。
 そして、それらを伝える方法も知っていた。
 ――すべて、つくしが教えてくれた。
 彼の愛する女がいまの司を育ててくれたのだ。
 誰かを愛し慈しむという心を。
 「けどな、今からでもあいつはお前を愛することができる女だ。お前が望みさえすれば、お前を愛しいと思って愛してくれる。自分を慕って頼ってくるヤツを突っぱねたり、嫌ったりできるような奴じゃねぇからな」
 「…クスン、クスン、ホント?」
 「ああ。お前はそんなあいつじゃダメか?母親だからお前を愛してて可愛がってくれるつくしじゃなけきゃ、大好きになれないか?」
 「………」
 戒が涙に濡れた目を瞬かせて、司をジッと見上げる。
 「………」
 「………わかんない」
 「ぷっ」
 あまりに正直な言葉に司が噴き出した。
 それはそうだろう。
 だが、司はできるだけ戒に嘘はつきたくなかった。
 嘘で塗り固められた、薄氷の上の幸福がヒビ割れてしまったからこそ。
 けれど、いくら戒が利発な子供であっても、5才の子供には理解しがたいことばかりだったに違いない。
 ポンポンと小さな頭を叩いて、司が優しく微笑みを返す。
 「じゃあ、これだけはわかっとけ。どんなつくしでも、つくしはつくしだ。お前がそれをわかっていれば、ちゃんとお前に愛情を返してくれる」
 「……わかった」
 おそらく本当の意味ではわかっていなかっただろう。
 それでも健気に頷く我が子が可愛くて…愛しくて、悲嘆と苦悩に疲れた司の心をも慰めてくれた。
 自分ではない誰かを愛し慈しむということは、なによりも自分の心を豊かに満たし、潤してくれる。
 それを教えてくれたただ一人の女を失うかも知れない苦悩に軋む胸の痛みを堪え、今はこの幼子の幸福と心を守る、ただそれだけの為だけに…。
 「そろそろ、出るか」
 「………」
 だが、その言葉に戒が迷ったように司から視線を反らして、再び戻した。
 「あのね」
 「ああ?」
 「……お父さんは?お父さんはどんなお母さんでも好き?愛してる?」
 言葉に詰まってしまったのは否定からではなかった。
 好き、愛してる、そんな凡百の言葉だけでは言い表せないほどの想い。
 「…好きだ、愛してる。死ぬほど惚れてる」
 真っ直ぐに肯定してくれる父へと戒が嬉しそうに微笑む。
 「仲直りできる?」
 司が視線を伏せ、小さく吐息を洩らす。
 「お父さん?お母さんと仲良くしてよ」
 「俺も、仲良くしてぇよ」
 つい洩れてしまった本音。
 「けど、……できねぇ」
 安堵して笑みを浮かべていた戒の顔が、驚きと悲しみに歪む。
 「どうしてっ!?」
 「…昔、つくしに俺が酷いことしたんだ」
 「ひどいこと?」
 「ああ、すげぇつくしが好きで好きでしょうがなかったのに、バカな俺は間違っちまった」
 ―――ただ彼女に好かれたかった。
 ―――愛されたかった。
 彼女が欲しくて、欲しくて…他には何一ついらなかったのに。
 愛を乞う手段を司は知らなかったのだ。
 だから、
 「嫌われて憎まれもしかたねぇことだ。つくしのせいじゃねぇ、全部俺が悪いんだ」
 ズルくて卑怯な自分が、さらなる罪を助長してしまった。
 償うことではなく、蓋をして…押し込めて。
 けれど結局、すべては帳尻が合うようにできているのかもしれない。
 奇妙に神妙な顔をした戒が言う。
 「お母さんに謝ったら?」
 進に言われたことと同じ言葉を。
 「お母さんなら、きっと許してくれるよ」
 寂しげな笑みを浮かべ、だが司は答えない。
 「さ、上がるぞ」
 司は答えないままに話を切り上げ、戒を抱き上げたまま湯船から立ち上がる。
 「お母さんは、お母さんなんでしょ?お母さんが言ってた。悪いことをしたら、ちゃんと謝らなきゃいけないんだって。ごめんなさいをちゃんと心を込めて頑張れば、すぐには許してくれなくっても、ちゃんといつかは許してくれるんだって。ありがとうとごめんなさいは、魔法の言葉なんだよ」




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